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転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
オデュッセウス
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第5章 転生論者のマヤー

 

 マヤーとアルフリーダが握手を交わすのをオデュッセウスは見ていた。


 気の強そうな厳しい顔を浮かべるアルフリーダの表情もマヤーの柔和が映ってその厳しさが崩れていた。


 すると隣に控えていた従者がぼそぼそとマヤーに耳打ちした。


 その言葉はオデュッセウスたちには聞こえなかった。


「すみません。わたしの従者がこの街で個人的な用事があるそうで少しの間だけわたしの傍を離れます。よろしいでしょうか?」


「ええ、わたしたちは構いません。従者の方にも護衛をつけますか?」


 マヤーはフードを頭まですっぽりと被った従者をちらりと見やってから首を振った。


「必要ないでしょう。ね?」


 従者はこくりと頷いて駆け去って行った。


「さて、向かいましょうか」


 マヤーは大使の方をちらりと見てから言った。

 大使は従者を複数人も連れていて警護は厳重だった。訪問の理由はオデュッセウスたちには知らされていない。もしかすると警護につく騎士たちも聞かされていないかもしれなかった。


「はい。あなたの身近にはこの2人がお傍につきます。オデュッセウスとリリーです。他の者がさらに周辺に広がって身辺警護にあたりますのでご安心ください」


「ありがとうございます」


 そうして歩き始めた。オデュッセウスとリリーがマヤーの傍に残った。


「マヤーさんはお国の方ではなにをしている人なんですか?」


「わたしは書籍の研究と管理をしています。楽しい仕事ですよ」


「えー、難しそう」


「そうですね。難しいかもしれません。様々な書籍を読みますから。リリーさんは本を読みますか?」


「ぜんぜん読まないです」


 恥ずかしそうにリリーは答えた。


「ちょっと前はいくつか読んでたんだけど今はもうぜんぜん読まないかな」


 リリーは本を読まない事がまるで恥ずかしい事であるかのような調子で弁解する。その様子はマヤーにというよりもオデュッセウスに対して行っていた。


 そうした弁解を聞くには聞くのだがオデュッセウスは本を一冊も読んだ事がないので書籍を読む事にどんな効果があるのかも知らないのだった。


『本か』


『転生者の本が伝わっているのなら読むべきではないか?』


『一理ある』


『書籍に詳しいというこの男も何か情報を持っているかもしれない。聞き出すべきだ』


 オデュッセウスは前方を並んで歩く2人の間に挟まったような状態で一歩下がった距離感で歩いていた。


「オデュッセウスは本を読むの?」


 リリーが尋ねた。


 マヤーもオデュッセウスを見る。


「いや、俺は全く読まないな。そんな男でも読める本があるのなら教えてくれ。実は転生者などのおとぎ話に興味があるんだ」


「転生者ですか?」


 マヤーが食いついた。その様子はいくらかオデュッセウスにとって驚きのものだった。


「ああ、知ってるか?」


「ええ、知っています。わたしの見解では決しておとぎ話とは言えない物語ですよ。わたしは学院でそのような研究もしていました。各国のそうしたおとぎ話を調べていたんです」


「それで?」


 オデュッセウスが促した。マヤーは歩きながら続けた。


「彼・彼女は人間以外の生命体、時として無機物にさえ宿る事があります。ある国では喋る剣や盾の報告があり、その内容は古今東西の歴史や文化に照らし合わせてもあり得ない内容でした。加えて魔獣にも宿る事があります。あらゆるモノに転生者は宿り得るのです」


「へー。すごいね。わたしのこの服が実は転生者だったらどうしよう?」


「ふふ、それは素敵な事かもしれませんよ」


「マヤーさんは勉強熱心なんですね」


 リリーが言うとマヤーは曇った表情をして顔を伏せた。


「いええ、わたしは勉強熱心と言える者ではありませんよ。もっと勉強している人がいます。たくさんいるんですよ。その中でもわたしは異端として扱われています。とても難しいですよ、学問の道は」


「異端?」


「ええ。異端者ですね。学道から逸れている、あるいは正道から逸れている者です」


「どうして逸れてるんですか? そんな風に見えないのに」


「ありがとうございます。嬉しいですよ、本当にね。わたしはある論文を提出したんです。これはある問いに答えようとしたもので、問いを投げかけたものでした。ですが、反響は想定よりも良からぬ方へと向かってしまいました」


「良からぬ方?」


 リリーが心配そうに尋ねた。彼女は同情しやすい女性だった。

 そんなリリーを見て安心させるような笑みを浮かべるとオデュッセウスをちらりと見てマヤーは続けた。


「今の学院は転生者を探す事、見つけ出して助力を仰ぐ事に注力しています。彼らの持つ技術や知識は我々が抱えるこの閉塞感を打ち破る可能性を持っていますから。わたしはそうした探す方法や転生者の転生のパターンを文献から読み取った論文で溢れる中で別の可能性を示唆したのです」


 王都の図書館の大きな扉の前までやって来た。これが区切りになるだろう。

 彼はこれから自分の仕事を行わなければならないのだ。


「わたしは転生者の魂が入り込んだ肉体に“本来、入るべきはずだった”魂の存在を問いかけたのです。彼らはどこへ行ったのか、と」


 オデュッセウスの事だと彼は話を聞きながら思った。

 このマヤーという男は感覚的にオデュッセウスの存在を理解している。


「ここからもっと深い話は時間がかかります。いずれ詳しい話が出来る時にさせてください。では、ここで仕事をします。あなた方は?」


 リリーがオデュッセウスを見る。オデュッセウスは肩をすくめた。護衛だから傍にいるしかないのだ。


「護衛だからな」


 オデュッセウスが言うとリリーも頷いた。


「ご迷惑をおかけします。中へ入りましょう」


 3人は図書館の中へと入った。

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