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転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
オデュッセウス
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第4章 ミケルと名乗る者を殺すためにいる

「お前は誰だ?」


 3人組の男がヴィドに尋ねる。それはこの乱入が少しも影響を持っていない事をことさらに示しているかのようだった。


「俺はヴィド。寄ってたかって何だってんだ。俺は多対一ってのは好きじゃない。こっち側につくぜ!」


 ヴィドは長い棒を持っている。ヴィドが加わったとしても数的不利は変わらない。

 それなのにヴィドは恐れた様子がなく、声を張り上げて立ち向かおうとしている。

 その横でアダルはヴィドをじっと見ているのだった。


 ギャラリーが集まって来ている。ヴィドの表情はそれだけ明るくなっていく。どうやら観客が居ればいるほど気持ちが昂る男らしい。


「行くぜ」


 ヴィドが言う。


「おい」


 アダルがヴィドに呼びかける。


「安心してくれ。足手まといにはならない」


 いくらか酔ったヴィドは足取りはしっかりしているもののその様子は頼りになるとは思えない。


 集まったギャラリーが何か話し合い、囃し立てている。


「けっ、行こうぜ」


 3人組の男はそう言い残して歩き去って行った。


 その背中を見ながらアダルが呟いた。


「あれじゃあない。あんなものじゃない」


 アダルは鋭い眼をミケルと名乗った男に向けていた。

 その眼を離すと彼女はとぼとぼと歩き始めた。その様子は余りにも寂し気で見ている人にはそれなりの事情があるのだろうと察するのに十分だった。ここでヴィドはこの浮浪者が汚れを落とせばそれなりに美しい女性である事に初めて気が付くのだった。


 それでもこの様子と身なりとでヴィドは声をかけずにその背を見送り、この王都にこのような女がいるという事を彼は知るのだった。


 ギャラリーが散っていき、喧嘩の主も相手もいなくなるとヴィドはアルフリーダたちの元へと戻って来た。


 ディドゥリカはため息をついてアルフリーダに「ごめんなさい」と謝った。

 ダグナはじとっとした眼でヴィドを見る。


「う、その俺もすみません」


 ヴィドが謝ると「ほっほっほ」とベレットは嬉しそうに笑う。


「いや、儂は元気があって良いと思うぞ」


 そう言うベレットをアルフリーダがひと睨みすると禿頭をひと撫でするとそこに髪の毛がないのをあれやと思い出して顎から伸びる白い髭をわさわさと揉み始めた。


 場を仕切り直すためにアルフリーダが手をパンと叩いた。

 叩いて皆の注目を集めたが酔いが回り切ったリリーは既に眠そうでうとうととしていてオデュッセウスの肩に無防備にもたれかかっている。


「じゃあ、次の依頼だが護衛の依頼だ」


「護衛?」


「ああ、護衛だ。連携が大事になるが依頼を達成するという点を忘れなければ自然と連携も取れていくだろう」


「それで誰を護衛するんだ?」


「うん。実は急なんだが明日の午後からなんだ。護衛するのはミラドリアン公国の使者らしい」


「ミラドリアン公国の使者?」


「そうだ。護衛相手はマヤーという男とその従者が1人の計2人だ」


「マヤー?」


 ダグナが尋ねた。心当たりがあるような様子で。


「ああ、知ってるのか?」


「聞いた事があるような気がする。でも、思い出せない」


「説明しよう。明日の午後に王都の港にミラドリアン公国の船が着く。その船には大使と複数人の使者が乗っている。大使は王都の騎士団が護衛するが使者たちにまでは割けないという事でいくつかのギルドが選ばれたんだ。これを機に一気に底辺ギルドを脱出するぞ!」


 拳を突きあげてギルドメンバーを鼓舞するアルフリーダに一同は「おおー」などと言って拍手を送った。


「さて、それで明日についてだが」


 アルフリーダがそれぞれの役割をまとめていく。オデュッセウスとリリーは攻守の要として使者の傍につく事に決まった。


「よし、この依頼の後からはそれぞれの自由に仕事を取って来ていい。人が増えたからその依頼を任意のメンバーで行うという事も出来るはずだ」


「了解」


 そして一同は食堂を出て行った。


 オデュッセウスは港の方を見た。

 沖の方から黒い雲がやって来ている。明日の天気は悪いかもしれないとオデュッセウスは思った。


「リリー、もう帰るぞ」


「うん」


「歩けるか?」


「だいじょうぶ」


 リリーとアルフリーダの家はとても近い。一緒になって歩いていく。


「人が増えるといろいろある。これからはもっと大変な事があるかもしれないな。オデュッセウス、いざという時は頼むぞ。きみは強い。力を持つ者だからな」


 ベレットがオデュッセウスを見ながら言った。


 オデュッセウスは頷くだけだった。その動作だけで返事とした。


 翌日、オデュッセウスが思っていたように天気は曇りだった。厚い雲が立ち込めた空は歓迎の想いすらも曇らせる。


 ガレオン船の大きな船が港に泊まった。停泊の作業を船員がするのをオデュッセウスは興味がなさそうに見ていた。そしてぞろぞろと人が降りて来る。


 大使と使者は一目で見分けがついた。大使はとても豪奢な装いでいるが使者の方はとても質素だった。


 オデュッセウスたちが護衛する使者たちは列の最後尾を歩いていた。


 城の大広間で彼らは顔を合わせた。


「はじめまして。今日から3日間、あなた方の護衛に着くギルド[四季折々]のリーダーのアルフリーダです。こちらはその仲間たちです。計7名で護衛に着きます」


「よろしくお願いします」


 男性の使者マヤーが言った。彼はとても優しそうな男で終始、柔和な表情を浮かべていた。

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