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第7話 辺境都市アルセル

「貴方たちがそう言うならいいわ。でも最後に質問させて。貴方の着ているそのマントは黒魔法によるもの?それとも闇魔法によるもの?」


 ナオンさんとニックさんの説得によってどうにか切り抜けられそうだったが、最後にライさんから悩ましい質問を投げかけられた。マントが俺の魔法によって作られたものなのはバレていたようだ。質問に素直に答えるならどちらでもないと言うべきだろうが、暗黒魔法なんてどう考えても黒魔法の上位互換だろうな。仮に暗黒魔法が吸血鬼固有の魔法だったら一発アウトだ。打者交代どころか試合終了だ。ライさんが勘違いしてくれてるならそれに乗るか。


「黒魔法によるものです。魔力を物質化させて作りました。」


「やっぱり魔法によるものだったのね。魔力の物質化なんて並大抵の魔法使いじゃ出来ないわ、それに黒魔法の使い手。ニックたちには申し訳ないけど、彼は私個人としての監視対象にするわ。本当にただの村人だとしても彼に正しい力の使い方を教えてあげないといけない。これは世界の調停者として譲れないわ。」


 クソアマが…。ブラフだったか。こいつとは仲良くになれそうにないな。何が正しい力の使い方だ?傲慢な女だ、相当面倒なやつに目をつけられたな。そして1人で勝手に盛り上がっているライとは対照的にカンさんは既に冷静さを取り戻したようだ。彼は申し訳なさそうにこちらを見て、頭を掻いている。この光景を見るのはさっきぶりだ。


「ジューク、すまない。頭ごなしに疑ってしまった。ちょっと前に似たようなことがあってな…。ほんとすまない。今日の俺ちょっとダメみたいだ。……頭を冷やしてくるわ。」


 カンさんは今も結構なスピードで進んでいる馬車から飛び降りた。走って着いてくるのか?なんとなく感じていたが、カンさんは少し脳筋な節があるようだ。で、彼はいいとしてもう片方は…。


「ライ、監視対象とは穏やかじゃないですね。それはエルフの信念とやらですか?彼を貴方のエゴに巻き込むべきではないと思いますがねぇ。」


 ニックさんがいいことを言ってくれる。持つべきものはニックさんだな。ただライはまだ納得してないようだ。というか様子を見る限り、こいつが納得してくれることはなさそうだ。


「ニック、私の中ではこれはもう決定事項なの。いつものような説得は意味ないわよ。それに黒魔法が危険な魔法だって貴方もわかっているでしょ。闇祓い上がりの貴方なら特にね。」


 どうやらニックさんは教会関係の人だったようだ。暗黒魔法見せてなくてよかった。祓われるところだった。


「それは魔法使い全員に当てはまります。どの魔法でも使い手次第では危険な魔法になりえます。エルフであるライが黒魔法を敵視する気持ちはわかりますが、黒魔法はれっきとした基本魔法の一つです。黒魔法の扱いが秀でているからといって疑っていい理由にはなりません。貴方が人間の社会で生きるなら人間の決めたルールに従うべきです。」


 もう俺はニックさんのこと好きになりそうだ。だが、ニックさんの最後の言葉は俺にも刺さるな、かなり深めに。それにしても双方引く気はなさそうで面倒だ。こういう時に役に立つであろうパーティーのリーダーは未だランニング中だ。


「2人とも、落ち着こうよ。ニックまで熱くなるなんて、もう…。ごめんね、ジューク君。」


「こちらこそ、すみません。私が魔力を隠していたのが原因のようですし。」


 ナオンさんはいい人だな。好きになりそう。俺が悪いなんて1ミリも思ってないが、形だけでも謝っておく。これも日本人の性か?和の心的な?知らんけど。


「もう私が解決案を出しちゃいます。ライがジューク君の師匠になる。これが一番いい解決法だよ。」


 ナオンさんは指をピンと立て喋り続ける。彼女の提案をまとめると、ライは俺の魔法の師匠になり、魔法の正しい使い方を教える。これによってライの監視という目的も果たせ、俺は魔法の扱いを上達させることができるというものだ。監視の言い方を柔らかくしただけな気がするが、俺にメリットがないわけでもない。俺の魔法の使い方は我流で本能的に使っているに過ぎない。魔法の理論を知れるなら嬉しいが、村で魔法使いの男に魔法を教えてもらった云々の話のボロが出そうで少し怖いな。


「監視ができるなら師匠でもなんでもいいわ。」


「そうですね。私としてもエルフの方に魔法の師匠になって頂けるなんてありがたいです。」


 今は笑顔でそう答えておく。実際ありがたいしな。まぁそれでもいつかはこのエルフは殺す。これは俺の中での決定事項だ。エルフの血って美味しいのかな?


 ◆


 今回の騒動はナオンの提案でとりあえずは収まった。その後、馬車の中では気まずい空気が流れるかと思っていたが、ライとニックさんは普通に喋っているし、カンさんも戻ってきて、俺にダンジョンのイロハを教えてくれる。ナオンさんはニコニコしている。金級冒険者は切り替えの速さもピカイチらしい。


「まぁダンジョンについてはこんなもんでいいだろ。それに、もうすぐでアルセルに着くぞ。」


 少しすると馬車から大きな壁が見えてきた。アルセルは城塞都市らしい。見える壁の高さは10mくらいでかなり高い。だか、それ以上に横に続く壁がとてつもなく長い。今もかなり遠くからアルセルを見ているが壁の終わりは見えない。どこまでも続いている。辺境都市とは名ばかりで都市の人口は10万を超えそうだな。規模から見てかなり繁栄している都市と言えるだろう。


「すげぇだろ?俺もここに初めて来た時はかなり驚いたもんだ。」


「すごいですね、辺境都市と聞いていたのでここまで大きな都市だとは思っていませんでした。」


「これもダンジョンの恩恵だよ。ダンジョンからとれる高純度の魔石を国中に輸出してるからアルセルは潤ってるんだ。しかも辺境伯は有り余るお金を公共事業とかで市内へ流してるからそれがいい循環になってるって話だ。」


「それこの前私が教えてあげた話でしょ!補足するならアルセルの辺境伯は冒険者の保護が手厚いことで有名なの。辺境の周囲のモンスターへの対策として冒険者は必要だからね。もちろん騎士団や兵士もいるけど、どちらかというと都市の防衛や治安維持が主な仕事になっているの。」


「へぇ、冒険者との棲み分けって感じですか。…そもそも冒険者のギルドの運営はどこが行っているんですか?」


「んー、それは難しいところだね。ギルドは半分独立していて半分国が管理しているって感じかな。そこら辺は歴史が関係してくるところだから気になったらギルドの資料室に行ってみるのがいいかもね。」


「わかりました、時間がある時に行ってみます。」


 城壁に近づくにつれ人が多くなり、都市への入り口では長短様々な幾つかの列ができていた。


「これってどれに並んでも同じなんですか?」


「いや、どれに並ぶかは人によって違う。貴族や商人、それに冒険者やその他色々。列によって対応が変わるんだ。今回は商人の夫人であるルオッカさんの護衛だから商人の列で行ける。もちろん普段俺たちは冒険者の列に並ぶ。」


 なんともわかりやすい仕組みだ。というかさっきから辺境伯だったり貴族だったりと、この国は君主制のようだ。貴族とか嫌だな。元の世界の歴史から見ても貴族にはあまりいいイメージを持たない。できるだけ関わらないようにしよう。


 スムーズに進む商人用の列で待つこと数分。ついに俺たちの乗る馬車は門を抜ける。するとそこには中世ヨーロッパのような街並みが広がっていた。ナーロッパという言葉が頭をよぎる。まぁ、雪国が広がっていなかっただけマシか。


「よし、そろそろ降りるか。」


 カンさんはそう告げると、ゆっくりと進む馬車から飛び降りる。俺はカンさんに着いていく。すこし馬車についていきながら歩いていると、大きな広場に出る。すると、前の豪華な馬車から大柄な男性が出てくる。


「護衛はここまでで結構です。依頼達成書はこちらです。ありがとうございました。それと……少年、これを受け取ってくれ。」


 見た目からは想像ができないほど丁寧な言葉遣いの彼は俺に一枚の紙を渡してくる。


「これはルオッカさんの名刺みたいなものだ。『美男子の保護は私の使命ですわ!何かあれば是非連絡を!』とのことだ。あまり気にせずに受け取ってくれ。」


「はい、ありがとうございます。ありがたく頂戴します。」


 受け取りはするが使うことはないだろうな。めんどそうな人だったし。ていうか今考えたら俺、田舎の村人設定なのに敬語使ったり。受け答えを丁寧にしすぎたかな?まぁ今更変えるのもあれだし、俺も敬語のほうが楽だからこのままで行くか。


「なぁジューク、これからどうする?俺たちは依頼達成の報告にギルドに行くが、お前も一緒に行くか?冒険者登録しないといけないだろ?」


「はい、場所もわからないので、是非一緒に行きたいです。」


「そうか!なら着いてこい、おすすめの店の場所教えてやるよ。」

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