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第5話 不思議なこと、そして出会い

 ジュークを見送った村長とカイルは村の中を歩きながら、重い雰囲気の中、話し合っている。


「よかったんですか?すんなり行かせても。適当な理由をつけて、足止めした方が良かったと思いますが。」


「よくはないが、強引に引き止めてやつの怒りを買ったらどうするつもりだ。会ってみた感じ、お前の予想通りやつはかなり危険だな。」


「やはりそうですか。彼、魔の森の方向から出てきましたからね。どう考えても不自然でした。それに俺が気配に気づけなかったのもおかしい。なんらかの上位スキルを使っていたと思います。」


「そうか、やはり報告が必要だな。カイル、私はこれからオーブを使って通信をする。他の村人が家に入ってこないように見張っていろ。」


「はい、わかりました。」


 カイルは頭を下げ、村長が家の中に入っていくのを待つ。村長はカイルの様子を確認し、家に入りながら、頭の中で報告の要点をまとめていく。それに加えて、その2人の様子をムカデを通じて見聞きしている男もいた。


 ◆


「やはり、カイル君には最初から疑われていたか。村長も俺に従順すぎて変だった。それに報告とか言ってるし、なんかの組織やグループに所属しているのは確定だな。ムカデたちで観察してた時はそれらしい様子は見えなかったのになぁ…。どうしようか、わざと通信させて情報を聞き出したいがそれをすると相手方に俺の情報が漏れることになるからダメか。これって、もしかして吸血鬼ってことバレてる?いや、流石にそれはないな。そこまで致命的なミスはしていないはずだ。カイル君が魔の森とか言ってたし、あの森の方から出てきた時点でだいぶ怪しかったと言われればどうしようもないな。」


 村長たちの対応や態度に違和感を覚えた俺は村を出た後も保険として残しておいたムカデを使って彼らの会話を盗み聞きしていた。案の定、自分が最初からやらかしていたようだ。それを警戒して村長は、あれほど俺にとって都合のいい対応をしていたようだ。様子からして魔の森の監視役かなんかだろう。そこから出てきた不審な俺は完全に報告対象だろうな。はぁ、初っ端から危ないな。まぁ、まだやらかしは取り返しがつく範囲だ。幸いこの開拓村は他の村や町からかなり離れている。どんなことが起こっても発見されるのはかなり先になるだろう。ということで、


【暗黒魔法Lv 3】 【聖火魔法Lv 2】


 なぜか遠くの方で激しい爆発音が聞こえる気がするが、気のせいだろう。村中のムカデが62人の村人に張り付き、俺から送られた暗黒パワーによって次々と大爆発を起こしているはずがない。ましてや余ったムカデたちを介して神聖力を送り、聖火を起こし、村を燃やすなんて酷いことをするはずもない。しかしながら、ステータスを見るとなぜか俺のレベルが5→12に上がっている。世の中、不思議なことがあるもんだな。


『反響定位』で生きている村人の反応が一つもないことを確認し、俺は再び歩き始める。異世界人との最初のコミュニケーションが失敗に終わったのは残念だな。まぁいい。俺は不老不死だ。何度でも失敗していい。その度にやり直せばいいだけだ。その繰り返しで俺はこの世界に順応し馴染んでいく。そう考えると、これからの出会いが楽しみになってきたな。少し旅路を急ぐとするか。


 ◆


 辺境都市アルセルに近づくにつれ、道はより整備され、幅も広くなっていく。小道から街道へと変化していくのに伴って、小さな宿屋町の数も増えていった。人通りも盛んになり、荷台に人や荷物を乗せた馬車もちらほらと見かけた。交通手段を見ても、この世界が元いた世界とは比べ物にならないくらい文明レベルが低いことがわかる。アルセルでの暮らしもあまり期待しない方がいいかもしれない。


 歩き始めて6日目、今日も今日とて散歩道。日中は歩き続け、夜などの人通りが少ない時間帯には飛んだり、走ったりしているが、目的地には未だ着かず。不眠不休で進むのに飽きて、水場でそこらで拾った木のみを食べながら休憩していると、少し豪華な装飾のなされている馬車の中から声をかけられた。


「もしもし、そこの人。お一人での旅路ですの?もしそうでしたら、後ろの馬車にお乗りにならない?」


「ちょ、ちょっと待ってください!ルオッカさん、いきなりそんなこと言われたら困ります。俺たちは臨時護衛の依頼しか受けてませんよ。そういうのはルオッカさんの正規の護衛のみのときにしてください。」


声をかけてきたのはルオッカさんと言うらしい。彼女は俺を馬車に乗せてくれると言うが、それを遮るように赤髪を刈り上げたワイルドな髪型の男性が声を上げる。


「なによ、ちょっとぐらいいいじゃない。彼みたいな美男子を1人で行かせたら何が起こるかわからないし、可哀想じゃない。それに多少の融通を効かせるのも依頼のうちでしょ。」


「はぁ…。わかりました。その代わり、依頼達成の評価は高くしといてくださいね。それにその男は馬車に乗せるだけで世話も護衛もしませんからね。」


 俺が返答を迷っている間にも、ルオッカさんと武装をしている冒険者らしき赤髪男は言い合いに近い話し合いを続けていた。そして一通り話し合いが終わると、男がこちらに向かってくる。


「おい、そこのお前。冒険者か?それと行き先はアルセルで合っているか?」


「はい、アルセルに行って冒険者になろうと思っています。」


 ここで嘘をつく必要もないだろう。自分で歩くのも飽きてきたし、馬車に乗せてくれるなら渡りに船だ。馬車だけど。


「わかった。依頼人様たってのご希望だ。お前を馬車に乗せてやる。俺に着いてこい。」


「本当ですか!それはありがたいです。」


「お礼はルオッカさんに言えよ。」


 言われるがままに男に着いて行き、馬車に近づいていく。


「ルオッカさん、この度はありがとうございます。歩きすぎてヘトヘトになっていたところです。」


「まぁ!それは良かったわ!それより近くで見ると、なお美しい顔立ちねぇ。後ろの馬車は護衛たちがいるから安全なはずよ。彼らのことは気にせずゆっくりしてね。カン!早く連れていって、休ませてあげなさい!」


「はいはい、わかりました。おいお前、行くぞ。」


 カンさんと一緒に後ろの馬車に向かい乗り込むと、中には男女3人がいて、そのうちの2人が苦笑いをしながらこちらを見ていた。カンは俺が何かを言う前にこちらを軽く睨んでくる。


「ちっ!面倒ごとを増やしやがって。お前ら、俺はルオッカさんたちと出発の時間決めてくるからこいつをよろしく。」


 そう言い残し、馬車から出て行った。取り残された俺はとりあえず自己紹介をした。


「初めまして、ジュークと言います。ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします。」


 それに対して青い髪を短く切り揃えている愛嬌のある顔の若い女性が反応する。


「よろしくねー、私はナオン。わぉ!本当に美男子だねー。ルオッカさんが放っておかないのもわかるわー。保護欲が湧いちゃうよねー。」


「ナオン、あまり捲し立ててジューク君を困らせるな。初めまして、ジューク君。私はニックと言います。それでこっちで寝ているライです。いざとなればちゃんと働く女性なので心配しないでください。さぁ、空いてる場所に座ってください。」


「はい、ありがとうございます。」


 ニックさんは灰色の髪で、彫りが深い顔をしている。40歳くらいだろうがかなり落ち着いた雰囲気だ。ニックさんが指すところにはこちらに背を向け丸まって寝ている黒髪で長髪の女性がいた。俺は一番まともで喋りやすそうなニックさんの隣に座る。そしてそこからニックさんとナオンさんとの雑談が始まった。


「珍しいですね、一人旅なんて。どこからいらっしゃったんですか?」


「西方面の田舎の村から出てきました。お金も大して持ち合わせていないので、乗合の馬車にも乗らずじまいで。」


 素直に北東から来たと言うのは危険だろう。時間が経てば北東75-4村での出来事は露呈する。そこから俺に結びつく可能性は低いと思うが、わざわざ素直に言う必要もないしな。


「なかなか苦労してるんだねー。魔物とか大丈夫だったの?田舎の方の道だと出てくるって話だけど。」


「まぁはい。ゴブリン程度なら私1人でもどうにか…。」


「へぇ、そうなんだ。まぁ、それにしてもルオッカさんのお眼鏡にかなってよかったねー。私たちこう見えても、金級冒険者なんだよ。この馬車に乗っていれば安心安全だよ!」


「はぁ、金級ですか…。それはなんとも……すごいですね。」


「ナオン、多分ジューク君に金級云々の話は伝わってませんよ。彼はこれから冒険者になる予定なんですから。」


「あぁ、そうか!ごめんね!説明すると、冒険者は実力と実績、それらに伴った信頼度によってギルドから評価を受けて、8段階に分けられるの。下から順番に、見習い→銅級→鉄級→鋼級→銀級→金級→白金級→ミスリル級って、かんじで分けられてて、ジューク君はこれから見習い冒険者としてスタートするの!」


「へーそうなんですね、勉強になります。ちなみに金級冒険者はどれくらいの数いるんですか?」


「そうですね、冒険者全体で言ってもかなり少ないですよ。体感で言うと上位1%くらいですかね。」


「そんなにですか!本当にすごいですね。」


 かなり雰囲気はのほほんとしているが、彼らはかなりの強者のようだ。下手な言動は慎まないとな。いくら村の人たちを殺してレベルが多少上がったとはいえ、彼らのような猛者を敵に回すのは危険だ。


「そうだよー、それに私たちアルセル所属の冒険者だから何か困ったことがあればいつでも頼ってね。先輩冒険者として君を導いてあげよう!」


「はい、その時は是非よろしくお願いします。」


 そうこうしていると、カンさんが外から戻ってくる。


「おい、どうやらこのままアルセルに向かうらしい。一応護衛なんだからライもそろそろ起きとけよ。」


「カンさん。私はジュークといいます。ご迷惑を――」


「あぁ、いいよいいよ、そういうの。気にするな。……それよりさっきは強く当たってすまんかったな。ルオッカさんのワガママにイライラしてたわ。」


 カンさんは赤髪を掻きながら、申し訳なさそうな顔で謝ってくる。ツリ目気味な顔で怖そうな雰囲気が少し丸くなっている。


「いえいえ、私は乗せていただく立場なので。アルセルまでよろしくお願いします。」


「こちらこそよろしく。改めて、俺の名前はカンだ。一応、このパーティーのリーダーをしている。」


 カンさんと話していると、馬車が動き出す。この馬車は前のルオッカさんが乗っている少し豪華な馬車を追うような形で進んでいくようだ。俺はふと抱いた疑問をカンさんに投げかける。


「移動中は外に出て護衛とかしないんですか?」


「そうだよー。ここら辺はアルセルと近いしかなり安全な街道だからね。魔物や盗賊の心配はないよー。」


「まぁ、ナオンの言う通り、ここらは安全だからな。それに俺たちは臨時の護衛で、何かあった時は前の馬車に乗ってるルオッカさんの正規の護衛たちがどうにかする。今回はルオッカさんが俺らの馬車に人を乗せるって勝手に決めたからでしゃばっただけで、本来俺らは正規の護衛たちに従ってるだけでいいんだよ。」


「そうなんですね。やっぱり、なんか申し訳ないですね。」


「いや!別にジュークを責めてるわけじゃないんだ、そこは勘違いしないでくれ。全く、ルオッカさんのワガママには困ったもんだな。はははー。」


「カン、焦ってやんのー。さっきは完全に責めた口調だった癖に。もう取り繕うのはムリだよーだ!」


「うるせぇ…。なぁ、それよりジューク。アルセルへは冒険者になるために行くって言ってたよな?」


「はい、そうですよ。」


「なら、メインはやっぱりダンジョンだよな?ダンジョンはいいぞー。最近では14階層で宝箱が見つかったらしいし、潜り甲斐がある。男のロマンだよなー。」


「男のロマンですか。……ダンジョンってなんですか?」


「……え?」


「すみません、私何も知らないまま村から出てきたので。」


「あぁ!そうか、なら俺が教えてやるよ。男のロマン、ダンジョンってやつを!」


 カンさんは謎にドヤ顔を決め、嬉しそうに話し始める。

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