第1話 謎の光
「犬と猫どっちが好き?」
「はぁ?えぇ?……ここどこですか?」
目を開けると、どこまでも続く真っ白な空間にいた。そして目の前には大きな光の塊がふわふわと浮いていた。
「え?ここは私の仕事場。で、どっちが好き?」
「まぁ、どちらかといえば猫ですかね。それより少し質問いいですか?」
「へぇー、今回は猫派かぁ。質問?いいよー。」
「変なこと聞くんですけど、私って今生きてます?」
「んー、どちらかといえば死んでるよー。」
はぁ、やっぱりか…。残っている最後の記憶が、病院のベットに横たわっている俺を見ながら家族が泣いている場面だからなぁ。となればここは天国でこの謎の光は神様ってところか?
「そして今から君には転生してもらいます。」
「はい?転生?楽園に行くんじゃないんですか?」
「楽園なんてないよ。何言ってんの。そうじゃなくて転生。何になりたい?やっぱり猫好きだから猫人族?」
「ちょっと待ってください。転生ですか…。人間への転生はダメなんですか?」
「純人族はダメだよ。他の種族に作り替えないとリソースが余っちゃうから。」
リソースって…。なんで転生なんてしないといけないんだと思わなくもないが、まだ転生先を選ばせてくれるだけマシか。
「とりあえず、もう死にたくないです。」
「お望みは不死性ね。不死なら吸血鬼かなー。」
「吸血鬼って日光とか銀の剣で死にませんか?」
「そうだねー。それなら聖なる吸血鬼なんてどう?名前の響き的にも素敵じゃない?」
「そんなのいるんですか?」
「いや、いないよ。今から作る。じゃあ、種族はそれで決定ね!ほい!」
ほい!って軽い感じだなーと思ったのも束の間、身体がぐちゃぐちゃになって、何かが混ざり合い、そして1から作り替えられる感覚に襲われる。
「これどうなってるんですか!」
「君は今光ってるよ、ものすごく。」
そんなこと聞いてねぇよ!と言いたい気持ちを抑え、気を確かに持ち、光が収まるのを静かに待った。
「よし、これで完璧だね!気分はどう?」
「はぁ、気分自体はいいと思います。頭がすーっとします。あぁ、それよりこの身体中に巡ってるものは何ですか?」
すぐにわかった身体の変化としては、背が少し伸びて180cmくらいになったこと。身長が伸びた割には身体が軽いこと。そしてめちゃくちゃ五感が鋭くなったことくらいだ。鏡でもあれば見た目を確認できるんだか…。そして何より血液のように身体中を巡っている何かがある。少しムズムズする。
「それは魔力だよ。ま、そのうち慣れるよ。色々と説明面倒だから自分でステータス確認して。」
謎の光がそう言うと、俺の目の前に半透明のボードが出現した。
〈神魔族:吸血鬼(純血種):下級〉
Lv 1/100
[種族スキル]
暗黒魔法Lv 1
血魔法Lv 1
神聖魔法Lv 1
聖火魔法Lv 1
超音波Lv 1
飛行Lv 1
完全代謝
超回復
[固有スキル]
なし
「なんかすごいですね…、超音波とか飛行って完全にコウモリの特徴じゃないですか。」
「そうだね、基盤が吸血鬼だったからね。あとまだリソース残ってるから何かスキルあげるわ、何がいい?」
「スキルですか、悩みますね。どうせなら色々なスキルを使ってみたいですけど…。」
「そう、わかった。なら【同調】でいいでしょ。他のスキルが使えるようになるまで時間かかるだろうけど、君不死身だから寿命ないし。」
「【同調】……ですか?」
「そう、魔物の魔石を取り込んで種族スキルを入手するスキルだよ。ランクに応じて魔石の必要数が変わるけど、そこら辺は向こうに行ってから自分で確認してね。」
質問は許されないということか。かなり性急な感じがするが何か訳があるのか?
「わかりました。」
「それならほい!っとな。」
身体がフワッとする感覚に包まれ、【同調】が身体の中に入り込んでくる。
そして改めてステータスを見ると、[種族スキル]の下に
[固有スキル]
同調
というものが追加されていた。
「ちゃんと追加されてる?」
「はい、追加されてます。」
「よし、これで面倒な仕事終わり!じゃバイバーイ!」
そう言うと謎の光は強く発光し始めた。
(あ…、こいつ面倒だからさっさと終わらせたかっただけ…か…よ…。)
そのまま俺は視界を奪われ、意識を失った。
◆
ここはどこだ…。周囲を見渡し目に映るのは鬱蒼とした樹々と青々と生い茂る草木。森特有の揮発性の匂いが鼻に刺さる。謎の光によっていきなり飛ばされたようだな。
上を見上げると、太陽のようなものが燦々と照っている。この世界にも恒星があるんだな。それに吸血鬼の弱点はちゃんと克服されているようだ。日光が気持ちいい。
そうか、森か…。まぁいきなり町中とかに飛ばされなくてよかった。言葉が通じるかもわからないし、色々と試したいこともある。そして1番の問題は、俺が素っ裸だということだ。この世界の街に法律やそれに類するものがあるなら俺は犯罪者になり、一発で牢屋送りだ。変態吸血鬼に成り下がってしまう。
まずすべきなのは周囲の探索と安全の確保、それに伴ったスキルの検証だ。スキルの発動自体はなんとなく感覚でわかる。最初はこいつを使ってみるか。俺はスキルの発動を意識する。
【超音波Lv 1】
発した超音波の反響によって物体の位置や形を把握することができる。これは『反響定位』と言われ、コウモリやイルカなど行っているらしいが俺でも問題なく使えるな。脳内で半径1kmほどのマップが出来上がった。かなり有用なスキルだな。これは常時発動しておこう。次は【暗黒魔法Lv 1】を使おうと思っていたが、このスキルは決まった使い方がないらしい。とりあえず攻撃手段として使ってみるか。
【暗黒魔法Lv 1】
身体中に巡っている魔力を捻り出す。そして手前にあった木に向かって手をかざし、ソフトボールサイズの球体の暗黒的な何かを放つ。すると、メキッと音を立て木の表面10cmほどを抉った。これはなかなか使える。木でこれなら人にぶつけたら部位によっては骨ごといけそうだな。これは『暗黒球』と名付けよう。これを槍状にして貫通力を高めてみると、木の半分まで突き刺さった。これはそのまま『暗黒槍』だな。
他に何かできそうなことは、……これいいな。俺は再び【暗黒魔法Lv 1】を発動し、暗黒玉を3つ浮かべる。そしてその3つの玉に魔力を集中させる。すると、暗黒玉は徐々に変形し、コウモリを形作る。
こいつらは単純な命令なら聞ける使い魔で、ある程度俺と感覚を共有できる。3匹操るのが今の限界だ。他の生き物でも作れそうだが、吸血鬼の俺と親和性の高いコウモリが一番作りやすいな。それにしてもこのコウモリたち、よく見るとかわいいな…。まぁいい、こいつらは俺の『反響定位』の範囲外の調査を任せよう。あ、飛んでいった。
そしてずっと気になっていたのが【血魔法Lv 1】。吸血鬼といえば血だ。これもかなり面白そうなスキルだ。使うためにはまず血が必要だ。爪を伸ばし鋭く尖らせ、反対の手の指を少し切る。そして血が滴り落ちる前にスキルを発動させる。
【血魔法Lv 1】
すると、地面に滴り落ちるはずの血は重力を無視して宙に浮く。わざと血を流れ出させて水溜りほどの量まで溜める。そして空中で溜まった血を凝縮させ、短剣を作り出す。
「真っ赤で無骨な短剣だな。切れ味は良さそう。それに刃こぼれしてもいつでも血で修理できる。これは『血創剣』にしよう。」
「よし、スキルの検証はこれくらいにしてそろそろ動き出すか。」
次に俺は血創剣を手を持ち、『反響定位』で見つけていた近くの川へと向かう。