66.突貫っ! アジト。
「ダメ野郎が配置に付いたよー」
「オッケー。それじゃ、そろそろこちらも動くとしますか」
あたし達の役目は、正面からの派手な”奇襲”。如何に相手に気付かれる事の無い様に素早く見張りの人間を排除して突貫できるか……そこが重要になってくる。
「アンの<拡大睡眠術>の発動を合図に突貫。抵抗された場合のフォローはあたし、シルヴィア、レジーナで。クラウディアは<祝福>を。アストリッドは念のためあの馬鹿の<魅了>対策をお願いね」
そんな重要な指揮をあたしがやる羽目になるだなんて……少しだけ胃が痛くなってきてたり。
「それと、みんな。なるだけ殺さない様にね? 相手が死んでさえいなければレグがきっと治してくれるだろうから」
あちら側の人間が”食い詰め冒険者”だったとしたら、彼らは今回のゴタゴタの被害者でしかない。なるだけ社会復帰(?)ができる様にしてくれと、我らが徒党主の願いなのだから、優秀たる面子である筈のあたし達は、それを叶えてあげなければならない。
『ただし、相手が裏ギルドの構成員だったらその限りでは無い』とも言われているのだけれど……ね?
「あ痛てててっ」
「……どうかなさいました?」
「ううん、何でもない。ちょっと抜け駆けしようとしたら”説教”が飛んできただけだから」
「「「「「?」」」」」
っていうか、『ごちそうさまでした』って、どういう意味なのかしらね、アン?
「……それじゃ、アン。お願い」
まぁ、アンだし……?
で済ますあたし達も、正直どうなんだって話なのだけれど……でも、今はそんな事置いておかなきゃね。
「あいあい。ほいっ<拡大睡眠術>☆」
「行くわよ【暁】突貫っ!」
「「「「はいっ」」」」
見張り役の男達は、どうやら”食い詰めた”冒険者だったみたい。
身に付けている防具の品質はそこそこ。でも、その割には技量の方は見かけほどでも無いって感じ。宵越しの金を持たなかった彼らは、まぁその程度って事よね……
「いぇい、フルHit☆ 有能過ぎるボクを褒めて褒めて♡」
「後でね。ほら、ここから派手にぶちかますんだから、気合い入れて頂戴」
後は、裏口からレグが入るのをあちらに気取られない様に、精々ド派手に暴れてやるだけ。相手はこちらの倍以上の数がいるのだから、最初の一撃が肝心だわ。
「んじゃ、このおっきな扉を派手に壊しちゃうよー☆ イクよ、複合魔術<火炎旋風>ボクの魔法は、熱いぜぇ。熱いぜぇ! 熱くて、死ぬぜぇぇぇぇぇっ!!」
「だから、殺すなって散々言われてンだろ……」
無駄よ、シルヴィア。この娘、本当にノリだけで生きてるみたいだから。
確かに”派手に”って注文を入れたのはあたしだけれど、アンがここまでド派手な魔法を出してくるなんて、思ってもみなかったわ。
火と風の複合魔術ってだけでも、かなりの高難度なのに更には中級魔術での複合とか……普通に考えて、これを平然と発動させる様な人間が青銅級の魔導士だなんて、一体誰が信じるというのだろうか?
ああ、ホント今なら彼が言っていた事が良く理解できる気がするわ。『アンだから諦めろ』って……
アンの複合魔法によって、鉄製の扉は高熱によって内側へと大きくひしゃげ、そのまま高圧の風によって押し流されていった。数多に挙がる悲鳴と共に。
「……どうやら今の魔法で、半数は無力化できてしまったみたいです……」
ていうか、これって”無力化した”というより、絶対に死んでると思うのだけれど。そこはどう思うの、アストリッド?
「ふっふ-ん。今回の殊勲賞はボクが貰った。ちなみにさっきの台詞は、あそこまで全部呪文の詠唱だから。最初から殺すつもりは全然ありませんでしたー☆」
「なんかすごい嘘臭いナー。ねぇ、クラウディア?」
「……わたくしはノーコメント。ノーコメントです」
……うん。みんな何か急に力が……緊張が抜けちゃった感じ。でも、逆に良かったのかもと思おう。そう思わなきゃ、たぶん続かないと思うの。
「ほらほら、みんな。今のウチよ。一気に制圧っ!」
やっぱり、あたしに党主は向いてないみたい。というか、もう二度とやりたくない。
まさか味方の一人こそが”不確定要素”だなんて、一体誰が想定するというのか……
ああ、今までの彼の苦労が偲ばれるわ。今度、胃に良いお薬でも用意してあげようかしら……あたしも、今それがすごく欲しいし。
◇◆◇
「<突進>」
相手の混乱に乗じて、一気に制圧をかける。相手はこちらと同じ冒険者だ。少しでも時間の余裕を与えてしまったら、きっと立て直されてしまうだろう。そうなったら、こちらの”利”が失われてしまう。今は少しでも戦力を削らなくてはならない局面だわ。
「<注目> 何人たりとも、アタシの後ろに行かせないっ!」
一ヶ月以上に及んだ”特訓”の成果は、今の所みんなしっかりと発揮できているみたい。新生【暁】の実力は、何処でも通用するのだ。それを絶対世に知らしめてやらなきゃ!
「おっと。詠唱なんかさせてやんないよっ! アンタらはここで大人しくしてなっ」
レジーナが盾と剣を駆使しあちらの攻撃役を薙ぎ倒し、シルヴィアとあたしで詠唱職を次々に潰していく。
「<対魔結界><全能力向上付与術>……ああもう、失敗したー。最初にかけときゃ良かったぁ」
アンが面子のみんなへ、次々と支援魔法をかけていき。
「ああ、流石に冒険者のみなさん方の容態は、わたくしの回復術程度では絶対に間に合わないですーっ! ああん。早く来て下さいましっ、レグナードさーんっ!!」
クラウディアがチョーシこいたウチの魔導士の後始末を……って、ごめんね、それはあたしのせいかも。
「何だっ? 一体何が起こったというのだっ!?」
相手の抵抗がほぼ無くなった所で、ようやく”標的”が登場した様ね。
本当に今更。あいつが無能なのだという確かな証拠が、きっとこれだわ。今からでは、もう絶対に挽回なんかできやしないのだから。
「おいコラクソ外道。今までアンタがしてきた徒党【暁】への”嫌がらせ”、その仕返しにわざわざ来てやったわよっ!」
「……なんだとぉ?」
さて。我らが愛しの党主様には申し訳無いのだけれど、ここはあたし達だけでキメてやるとしましょうか。
みんな奴には恨みがあるのだから。ここできっちりその精算をさせてやらなきゃ、ね?
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