64.とある家政婦の述懐。
何故か二人もNo.3がいたので慌てて修正しますた。
「ええ、ええ。No.4。どうやらこの中では、君が一番性能が良い様ですねぇ……」
ワタシは、そう創造主様から言われた事がある。ワタシはそれを”誇れ”ば良いのか……No.1~15までの番号を振られたワタシ達には、その様な機能など最初から存在していない。ワタシはその時聞き流す事にした。
「ふむぅ。どの斬り口も鮮やかでございましょう? ほほほ、ご覧下さいませ。あの屈強な”大地の人”ですら、わたくし共の作品でしたらこの様に。ええ、ええ。閣下もお一つ……どうでございましょう? 今ならこの”森の人”の男の子もセットで、お付けいたしますよ」
”試し斬り”。
ワタシ達の”性能”を、お客様に披露しろ……創造主様のご命令だ。
命令には絶対服従。そうワタシ達は”調整”されている。ヒトガタが相手だろうが、ケモノが相手だろうが、そこに差違は無い。
手にする武器は、各々ワタシ達の体躯に見合ったモノ。ワタシが持つ得物は、二振りの短剣。他よりも間合いが狭いワタシは、素早さと手数を優先して調整された為こうなっている。
創造主様に”調整”されたワタシ達は”商品”。”売れて”こそ、その意味がある。
「ほほほほほ。確かに。これは良い買い物かも知れんのぉ。ふむふむ。では、ワシはそこの赤髪と金髪の奴を頂くとするわい。ああ、そうそう。森の人はできれば娘が良いのだが……」
「ほほう。閣下は尻穴はお好みではないと? それは申し訳ありませなんだぁ。ええ、ええ。では閣下。お詫びも兼ねて、森の人の母娘両方をお付けするといたしましょう。さぁ、No.1、No.3。今日からこのお方が君達の”ご主人様”ですよぉ。精々お励みなさいな」
アレらは体躯も良く、力がある。両手剣を軽々と振り回す膂力があり、殲滅力だけで言えば、ワタシはアレらには一歩も二歩も及ばない。だから、これは仕方が無い。
「No.2、行ってきなさい」
……何故? アレは、ワタシより力も弱く、動きも遅い。何故ワタシが選ばれない?
「No.5、No.12。お二人ともお達者で」
……なんで? その二つは魔法が使えるから選ばれたというのですか”お客様”?
「No.11、No.14、No.15。あなた達はぁ、素晴らしい”ご主人様”方に出逢えましたねぇ。ええ、これからも頑張って」
……どうして? ソレらはワタシに一度たりとも勝った事が無いというのに。
「ほほう、No.10でございますかぁ。いやぁ、これはお目が高い!」
……ワタシの目の前で、”同型”が次々に売れていく。
何故だ?
ワタシは、一番性能が良い。その筈、なのに。
何故ワタシは、選ばれない? どうして売れ残る?
ワタシの得手が短剣だから? 殲滅力が無いから? 魔法が使えないから? 何故? 何故っ? 何故っ?!
「ははは、良い”商売”が続いている様だな。父上もさぞかしお喜びになるだろう」
「ええ、ええ。お陰様を持ちまして儲かっておりますよ、ギリアム坊ちゃま。もう本当に儲かって儲かって。更には帝国に甘美な”毒”までをも、わたくし共の手で仕込まさせていただけているのですからぁ。ああ、笑いが止まらないとは、きっとこの事を言うんでしょうねぇ……ええ。今後、わたくし共の”販路”、帝都にまで拡大させてご覧にいれましょう」
”帝都”にまで行けば、ワタシを高く買って下さる”ご主人様”が、現れるというの?
此処、”城塞都市”ではなく、帝都にまで、創造主様と行けば……?
”売れ残った”ワタシを、”お客様”は選んで下さるというの?
「良い。貴様、良く弁えておるな。その話、我にも充分益があるわ。父上には良くやっていると、しかとお伝えしておこうぞ」
「ええ、ええ。アルバート侯爵閣下にはよろしくと、是非にお伝え下さいませ。ギリアム坊ちゃま」
創造主様が、頭を下げる。
ワタシ達は一斉にそれに倣う。
そうする様にワタシ達は”調整”されている。そこに一切の疑問を挟む余地は無い。一番最初の”調整”項目が、それだからだ。
「はははははっ、良い。そこな”人形”どもを使い、精々我と我がアルバートを潤せ。然らばそれが我が”西風王国”を潤す事に繋がるのだからな」
男の気配が消えるまで、創造主様とワタシ達は頭を垂れたまま動かずにいた。
ここまでせねばならないのだから、創造主様にとってあの男は、きっと良い”お客様”なのだろう。ワタシ達を買っては下さらない”お客様”なのに。
◇◆◇
『これはこれは。城塞都市が誇る最強の冒険者様ではございませんか。この様な薄汚い”小屋”にお越しになるとは、貴方様は一応は”貴族”であらせられる筈。そこまで生活にお困りではないでしょうに……』
……売れ残って。
そして、生き残って……
ワタシ達の”価値”は、一体何処にあるというのでしょうか?
圧倒的なまでの”戦力差”によって、ワタシ達は敗北してしまいました。創造主様を失い、己の”商品価値”を失い……何もかも無くした後に目覚めたこの世界の何処に、ワタシ達は”存在”すれば良いというのでしょうか?
「そんなの俺が知るかよ。だが、てめぇらが少しでも”生きたい”。そう思うのなら良い”ご主人様”に会わせてやるぜ?」
そう宣う”頭髪が一切無い筋肉男”の口車に、ワタシ達は縋るしか無かった。
売れ残って生き残った上に、創造主様までをも失ったワタシ達には、”道標”も無ければ、”存在価値”も無いのだから。
『ああ、よろしく頼む。一応俺は、君達と殺し合った仲になるし、元の主を殺しているのだが、その事については、君達に何か思う所は無いのか?』
ハゲの筋肉達磨に紹介された”ご主人様”は、あの時遭遇した異常戦力。
ワタシ達と”同種”でかつ、比較するだけ意味の無い異常な技能を持った男。
ワタシと同じ黒目、黒髪の、一見弱そうな見た目とは裏腹に、あの男が内包する特異なまでの”戦力”は、一薙ぎするだけでワタシ達は簡単に消し飛ぶだろう。
売れ残り、生き残ってしまった以上、ワタシ達に選択の余地は微塵も無い。
”ご主人様”が気に入らないと仰るのであれば、ワタシ達はこのまま”廃棄”されるのみなのだから。
「いえ、特に何も。戦って死ぬのは、己が未熟だった……それだけにございましょう? そして、今の主は、貴方様。ワタシ共には、それ以上でも、それ以下でもございません」
だから、ワタシはこう答える。
願わくば、この男がワタシ達の”価値”を正しく”理解”し、”使って”下さる”ご主人様”であって欲しい。
そうでなくば、ワタシの今までの生きてきた”意味”が儚く消えてしまうのですから。
”人形”として、今まで”調整”されてきた、ワタシの……全て。
そうでなくば、きっとワタシは簡単に”壊れて”しまうでしょうから。
だから、どうか、ワタシを”失望”させないでくださいまし?
ねぇ。どうか、どうか、お願いいたします。ワタシの”ご主人様”……
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