62.傷付け、傷付けられの関係は不毛過ぎるな。本当に、そう思うよ……
「来ます。ぼっt……お館様、ご指示を」
糞っ。こいつ、本当にしつこいな。完全に弄りネタにされてら。
「ノナ、ヘキサ、テトラの三人はセバスのフォロー。エーデガルド、デボラ、ニルは周囲の警戒。増援に備える事。ただし戦況が悪い様なら4人を援護してくれ」
あれから三日、連日連夜の襲撃に俺は心底嫌気が差してきた。あちらさんが連夜襲撃してくるというのなら、こちらも”最大戦力”をぶつけてやるまでだ。ウチの家宰セバスは、元黄金級のノナ達”暗殺者”系の最上位職でもある”闇追い人”だ。夜陰の戦闘において、これに勝る職はまず無いだろう。
「セバス、頼んだぞ」
「畏まりてございます」
日中の”業務”をほぼ丸投げにしているというのに、こちらの都合で夜も働かせてしまって本当に申し訳無い。だけれど、もう俺は本気で腹が立っているんだ。さっさと全部を終わらせてしまいたいから、少しだけ付き合って欲しい。
「よし。こっちは鬱陶しい周りの監視を掃除するぞ。クラウディアは家政婦達のフォロー。シルヴィア、レジーナはアストリッドに従って右から。ヴィオーラとアンは俺と一緒に左だ。もう遠慮なんか要らないよ。全員殺すつもりでやってしまえ」
相手が”裏ギルド”の構成員だと解れば、もう遠慮なんかする必要は無い。少々乱暴で雑な話になるが、全員当家に侵入しようとした”賊”扱いで殺してしまっても問題は無い。我が敷地内に奴らの死体を入れてしまえば、その理屈が成立するのだから。
所詮、奴らはその手の”無頼漢”なのだ。どちらの言い分が通るかはもう自明の理という奴だろう。熟々”貴族”ってな酷いよな……
まずは裏ギルドに”ドゥーム男爵と敵対したら、絶対に割に合わない”。そう教え込む必要がある。
あの馬鹿が、どれだけ自分のお小遣いをつぎ込んだのかは知らないが、その程度の端金では足りない。そう奴らに思わせる事ができればこちらの勝ちだ。
情報屋の話では、現在のあの馬鹿の懐事情はそんなに良くはないらしい。もしかしたら、あの奴隷商人は侯爵様縁の”工作員”でもあり、”援助者”だったのかも知れない。
まだ全部に眼を通していないからはっきりとは言えないけれど、あの時押収した書類の中にもしかしたら”国際問題”に発展しかねない火種が紛れているのかも、と思うと……おおう。なんだか怖くなってきたぞ。
……うん。話題を変えよう。
「そんな訳で。できる限り、討ち漏らしの無い様頼むよ」
「「「「「はいっ」」」」」
完成した徒党としての初の実戦相手がただの”無頼漢”っていうのは、何とも締まらない話なのだけれど。まぁ話の始まりからすでにグダグダだったのだから、この際目を瞑るしかないか。だからこそ、こんなつまらない相手に怪我を負うなんて事は絶対にあってはならない。
「てな訳だから、ヴィオーラ、アン。速攻で行くぞ」
「了解。サクっと殺るわっ」
「りょっ♡ 毒でも、窒息でも、焼きでも、ボクは何でもイケるよー☆」
……相変わらず物騒だな、この二人は……
攻撃力だけで言えば、この二人が【暁】のツートップだろう。人間相手でも躊躇しない所は本当に頼もしい限りなのだけれど、言動はもう少しだけ配慮が欲しいかなぁ……って思わなくも無い。一応は年頃の娘さんなんだからさ。
敵の位置は俺が割り出し、ヴィオーラが突貫。討ち漏らしがあった場合アンが潰すという作戦。あちらの組は、シルヴィアが索敵、レジーナが突貫、アストリッドがフォローという形。徒党の戦力を二分するなら、今はこうするしかない。クラウディアに白兵戦を経験させるのは、まだ少々厳しいかな。これも追々考えていかなきゃならない課題か。
「あはっ、身体がすごく軽いわ」
蒼鉄鋼と聖銀の合金で造られた鎧はとても軽い。重過ぎた黒鉄鋼製の鎧から解き放たれ、翼を得た戦乙女は、まさに舞い降りた告死天使の如く裏ギルド構成員を次々に刺し貫いていく。
「てか、ダメ野郎。ボクの仕事、全然無いんだけどー?」
「そこは楽ができてると思って諦めてくれ……」
装備一つでここまで変わるのかと俺も少しびっくりだ。改めてグスタフに感謝だな……
まぁ、材料費で考えたら軽く御殿が建つレベルの金額だし、このくらいは……ね? これが”無料”だなんて、今思えば大地の人親娘を得る事ができたのは本当に良かったと言えるな。うん……エディタがエディタなのは残念だけれど。
多分向こうの組の倍はスコアを付けるであろう”エース”の勇姿を、結局最後まで俺達二人は呆れる様に見るだけだった。
◇◆◇
流石にセバスまで出したのは、少々やり過ぎだったかも知れない。
現役を引退したとはいえ、俺の<影技>の師匠の技量は、未だ健在なのだから。
「ほっほ。少々やり過ぎてしまいました」
「ぼっt……いえ、お館様。ワタシ達の仕事、全部セバス様に奪われてしまったのですが……」
恨みがましい6つの瞳が俺を刺し貫いてくる。何だか凄く居たたまれないというか……君達ってさ、もしかしなくても不眠番、結構楽しんでいたのかい……?
「与えられた仕事を完遂してこそのワタシ達ですので」
「”人形”の存在意義を奪われては困ります」
「仕事、くれ」
……ノナ。何かさ、君だけちょっとキャラぶっ壊れてきてない?
まぁ、良いや。今それは置いておこう。
「はぁ。<魔剣二刀>のカサンドラがいたのだから、もしやとは思っていたけれど……君もか、ブリギッテ」
<聖剣>のブリギッテは、あのカサンドラと二人で徒党を組む”相棒”だ。城塞都市でも数少ない呪歌を操れる”歌手”であり、騎士号を持つ”剣闘士”という異色の冒険者でもある。
その剣技はカサンドラと比べ幾分劣りはするが、彼女には必中の”呪歌”がある。”個体戦力”として見るならば、脅威度は彼女の方が上かも知れない。
……うん。やっぱりセバスを出したのは正解だったか。よくよく考えれば、今回も不寝番全員でかからねば不覚を取りかねない相手だった訳だ。やはり家政婦達とセバスとの技量差が有りすぎる様だ。それを補う意味でも、不寝番達の装備も考えなければならないだろう。
「わたしはお前に”復讐”する為に来たのだ! わたしのカサンドラを壊したお前をなっ!!」
……うん。これは俺が頭を下げるしかない案件だった。
「”魅了の精霊”の影響下に在ります。レグナード、彼女の言葉を気にしてはなりません」
アストリッドはそう言うけれど、まさかあの馬鹿がそっちの方向で攻めてくるとはなぁ……
憎しみと殺気が籠もる彼女の鋭い視線に、俺はどう対応したものかと頭を悩ませるのだった。
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