60.街歩き。みんな並んで歩こうよ。でもドラ○エ歩きじゃないからね?
Gメン歩き(横一直線)は、マジで迷惑なのでやめましょう。
予約ミスってたので時間ズレてます。申し訳ありません。
「……だからってなぁ。いくら何でもやり過ぎだぜ、レグぅ」
「すまん。反省している……」
翌朝、俺とヴィオーラ、レジーナ、クラウディアの4人でギルドに”襲撃者”達を連れてきたのだが、当然と言うべきか俺はギルドマスターにこってりと叱られた。
「カサンドラの奴ぁ、ありゃもうダメかも知れねぇ。どーすんだよ、おい?」
なまじ才能があったせいか、カサンドラは”痛みに対する耐性”が無かった様だ。俺の闘気剣未満の”斬撃”によって、彼女は完全に心が折れてしまったのだ。
「痛みによる”恐怖の記憶”というものは、心だけでなく、身体にも深く刻まれてしまいます。恐らく彼女はもう、戦う事なぞできないでしょうね……」
クラウディアは苦しげに顔を歪ませながら、カサンドラの”現状”を口にする。
彼女自身、拷問と陵辱の記憶に苛まれていた一人だ。
今でこそ、彼女はそれを表に感じさせない立ち振る舞いをしてはいるが、俺が知らないだけで今も苦しんでいるのかも知れないし、今は立ち直っている様に見えていても、何かの拍子に急にそれが吹き出して心が壊れてしまう……その可能性も、まだあるのかも知れない。
「参ったなぁ……このままいけば、城塞都市最初の”剣舞踏士”と呼ばれたかも知れねぇってのに……」
剣舞踏士とは、軽戦士系統職の中でも最上位に在る”称号職”の一つであり、剣聖にも並ぶ程の栄誉のある”称号”の一つでもある。
あの馬鹿の精神支配に屈したとはいえ、彼女の”実力”は確かに本物だった。
格下相手なら問題は無いだろう。だが、少しでも彼女が脅威を覚える者と対峙してしまったら、恐らく彼女は戦えない。”恐怖”とは、そういうものだ。
俺は、一時の感情だけで、そんな彼女の輝かしい”未来”を潰してしまったのだ。
「でもさ、あたしは耐える事ができたのに、あんなに凄い人達が、あいつの<魅了>にかかるって、ちょっとおかしくない?」
「そもそもアレが魔導具によるものなのか、あいつの技能なのかも解っていない以上、何とも言えないな……」
もし魔導具による影響ならば、ヴィオーラが抵抗できているのだから、カサンドラクラスの人間ならば早々かかる筈は無い。
だが、もしアレがあの馬鹿の技能……恐らくは”魔眼”とかになるのだろうが……であったとしても、正直、奴の”格”程度では、カサンドラクラスの人間が抵抗できなかったというのは、やはり考え難いのだ。
「多分、だけれど、あれは”魔眼”って奴だったと思うわ。あいつの”視線”を浴びた途端、一瞬気が遠くなるのを感じたの……すごく、気持ち悪かった……」
その当時を思いだしてか、ヴィオーラは自らを掻き抱きがらぶるりと震えた。
「”技能は使えば使う程成長する”ってさ、この前レグナード言ってたよね? だったらさ、”魔眼”が育っている可能性、あるんじゃ?」
「……ああ、なるほど……」
確かにレジーナの言う通りだ。”あの馬鹿が成長する”等という発想が、どうしてもイメージとして頭に結びつかなかったせいで、完全にその事を失念していた様だ。
「そういや、今ンところ確認できた奴の被害者は全員女だよな? ”限定条件付き”なら、その分強力になるから非常に厄介だ」
この手の”魔眼”は発動条件が厳しくなればなるほど”影響力”が高まるらしいとおやっさんは言う。
コカトリスの”石化”の魔眼は、対象が奴の両目の視界に入った時点で発動する。聞くに恐ろしい話だが、発動条件が緩い分、それに抵抗できる者はそれなりにいるらしい。
そんなコカトリスの何が脅威なのかと言えば、魔眼に限らずだが魔力による状態異常の影響は、徐々に蓄積していくという点だ。奴の視界内にずっといるだけで、最初は抵抗できていた者でも何れ石化してしまう恐れがある。
対してあの馬鹿の魔眼は、ヴィオーラの話が本当であれば、それなりの時間を奴と眼を合わせる必要があるみたいだ。条件が厳しくなる分、対象への影響力は確実に上がるだろうし、更に”女性限定”であるとするならば、支配力は単純に倍になるだろう。
そして、一度軽くかかってしまえば、後は幾らでも強固に縛れる。そう考えれば奴の格が低くとも、確かに恐ろしい能力だ。
「……もうあの馬鹿を取り押さえなきゃ不味いんじゃねぇかい、おやっさん?」
「状況証拠が幾らあっても、実証ができねぇ以上不可能だ。お前さんも解っている筈だ。彼女達は記憶が残っちゃいるが、自分の意思でやったと思っているんだぜ?」
……そうなのだ。
”精神支配系能力者”を摘発する上で、それが一番の壁になる。被害者達に”その自覚が無い”からだ。だからこそ余計にその手の能力の所持が公的に認められた時点で、何処の国の法であっても”処分対象”になる。
……その”公的に”という点こそが、今回一番のネックになる訳だけれど。子供であれば尻尾を掴むのは容易いが、下手に知恵を付けた相手の実証はほぼ不可能だ。
「考えてみたら、ほんっと面倒臭い話ね……もういっその事、あいつ探し出して裏で殺っちゃわない?」
「ギルドとして今の発言は聞かなかった事にしてやる。自重しろ、ヴィオーラ」
「はいはい、ありがとうございますよーっだ」
……実は俺もヴィオーラと同じ事を思ったのだが、おやっさんには内緒にしておこう。
「だが、この際はっきり言わせて貰うが、もう襲撃者の身の安全は一切保障しかねる。おやっさんには悪いが、俺だって他の徒党の奴らと同様に”家族”の方が大事だからな」
これが本当に俺の命を狙っての行動なのか、ただの嫌がらせ目的なのか、そんな話はもうどうでも良い。実際”家族”に被害が出てしまった以上、どちらを優先するのかと言えば、この判断は当然の帰結だと開き直ってやる。流石にあちらにはもうカサンドラレベルの”戦力”は無いと思いたいが、油断はできないだろう。
「ギルドとしちゃ、絶対に頷けないンだが……お前さんの主張は当たり前、かぁ……」
少しだけカサついた頭頂部をぺたぺた叩きながら、ギルドマスターは疲れた様に嘆息した。
◇◆◇
「帰る前に少し寄りたいところがあるんだ。すまないが付き合ってくれるかい?」
「あ♡またアレ、買ってくれるの、レグ?」
知らぬ間に”少し余所行きの高級生菓子”を出すお店の常連になってしまっている。お陰で今では色々とおまけしてもらえるだけでなく、”新作”のアイデアをも求められたりと、今まで想像もした事の無い状況になっている時点で、自分でももう笑うしかない。
「残念だけれど、今日はそっちじゃないんだ。また今度な?」
「「ちぇー」」
勝手に期待で大きく膨らませた胸を俺の一言によって急速に萎まされた事に抗議する様に、二人して唇を尖らせブー垂れるヴィオーラとレジーナを無視しながら、俺は城塞都市の街中をゆっくりと歩く。
笑えるくらいに下手くそな尾行があるけれど、今はそっちも無視。後ろの三人は、どうやら気付いていない……か。これは説教、だな。
「どうして今日三人に付いてきてもらったのか、君達は気付いているのかい?」
「え? 昨夜の侵入者の方々をギルドにお連れした以外に、何が?」
はい残念。クラウディア君不正解。
「それだけなら俺一人でも充分だろう? 彼女達の<魅了>は、もうすでに解けているのだから」
「ああ、確かにそうですね……でしたら、何故?」
俺の問いにクラウディアだけではなく、二人も同様に首を傾げる。はぁ……、これはシルヴィアにもチョイと手伝って貰わないとダメかな。
「他にも目的があるのだけれど、まず一つ。”尾行者”の気配に気付けない様じゃ、冒険者としては三流以下、だよ。実は今日その”試験”のつもりで君達に付いてきてもらったのさ」
まぁ、これに関して言えば普通に生きている分には決して養う事のできない”感覚”なのだけれど。少しだけ欲を言えば、せめて多少の違和感くらいは覚えていて欲しかったな、というのが正直な感想だ。
「あっと、絶対後ろ向いちゃダメだからね。まずはこいつらをふん縛る。付いてきて」
次に、尾行者の捕縛。俺は人気の少ないだろう路地裏へと足を向ける。
付いてくる人数を把握し、相手にそれと気取られる事なく、誘い、捕まえる。
ここまでできて漸く二流以上だろうか。その場で依頼者と目的を吐かせる事ができれば、そこで一流。ハナマルだ。
今回は最初から”試験”のつもりでいたので、例え失敗したとしても全然困らない。この場で尾行者の”排除”さえできればそれで良い。そのつもりだからこそ彼女達へは最低限度の武装の指示しか今日はしていないのだから。
「なるだけ気を落ち着かせて、楽にしてね。緊張でガチガチになっちゃ、失敗する確率上がるから」
「「「……」」」
誰が発したのか。それは解らなかったが……ごくり。と唾を飲み込む音は、しっかりと俺の耳にも届いた。
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