50.気が進まないが出ないといけない酒の席ってあるよね。ホントは逃げたいけれど。
「「お断りだっ!」」
……デスヨネー。
そら、見知らぬ憎き人間種の男の話なんか、誰も素直に聞く訳が無い。
「そこを曲げて頼む。このお方は確かにわしらが嫌う人間じゃが、広いお心を持つ立派な御仁なのだ。それにな、お前さん達の両腕両足が今繋がっとるのも、このお方の持つ希有なお力があってこそなんじゃぞ」
「でっすでっす。主様は紳士過ぎて、逆に物足りなさを感じる所がダメダメですけど、良い人なのは間違いありまっせん。本音を言うと鬼畜な所がもうちょっとあるとぼくの”性癖”にガッツリ合うんですが、そこが本当に残念でなりません。ああ、でもでもいつかぼくの溢れまくる魅力でメロメロンにして、最終的にぼくの”いいひと♡”になってもらう予定ですんで、お二人ともご協力をお願いしまっす」
”同僚達”を諭すグスタフの真剣な眼差しを横目にしながら、俺は全然立派じゃねぇんだが……等と思いつつもあえて黙っておく。ここで俺が口を開いても拗れるだけだろうし。あとエディタ。お前やっぱ黙っとけ。
「グスタフよ、お主は今の環境に満足しとる様じゃけんど、わいらは不満なんじゃ。解るか? 見知らぬ土地、しかも人間だらけで同族はおらん。技量を存分に振るう環境も無ければ、美味い酒も全然呑めん。はっきり言うけんど、ここは”地獄”じゃど。あとエディタ、男は選べ」
「そそそそそ。あたい達はさっさと、嫌いな人間しかおらんこの国から出たいんよ。あんた達親子が一緒でないのは少しばかり寂しいけど、人間達の嫌らしい顔を見ているのも、正直あたいはもうウンザリなのさ。ロクに酒も呑めやしないしね。あとエディタ、あんたそこまで男の趣味悪かったのかい? お姉さん心配よ」
まぁあんな目に遭えば、そりゃ誰だって人間嫌いになるに決まっている。
だが、彼らの言葉にも色々引っかかるモノがある訳で。あとエディタ。やっぱりお前同族からも残念扱いだぞ、大丈夫なの?
「……まだ昼だが、酒でも呑むかい? 奢るから」
「「「おおっ、呑むっ! 呑むっ!! 呑むぅ!!!」」」
……本当に、それで良いのか大地の人共よ……
指名依頼で遠方から招聘する徒党の為、という名目でギルド本館に用意された”空き部屋”を、現在は俺が連れてきた亜人達の為に解放している様な状況だ。
彼らが滞在中の全ての費用を、あの奴隷商人から巻き上げた金で今の所賄ってはいるが、例のグスタフのやらかしのせいで、どうしても必要最低限の物しか出せていない状況だ。
当然、酒等の嗜好品なんかは夕食時に出すワインをジョッキに一杯のみだ。これ以上になると、俺の小遣いから捻出しなきゃならないので、正直勘弁して頂きたい。
「いやぁ、久しぶりの美味い酒じゃわい。次元倉庫に入れとった酒は、道中で全て呑みきってしまっておったからのぉ」
「そうじゃそうじゃ。そもそも、お主が考え無しにカパカパ呑むからこうなったんじゃけんの? わい秘蔵の火酒まで勝手に呑むとか……あかん、急に腹が立ってきたわいな。グスタフ、今すぐ弁償せぇ、弁償っ!」
「はあぁぁぁぁ。人のお金で呑むお酒って、ホント美味しいわねぇ……”五臓六腑に染み渡る”って、こういう事なんねぇ。もう面倒だから、瓶ごと持って来なさいなっ! 今日は今までの分を取り戻すまで、あたい徹底的に呑むわよん♡」
……なに、この混沌……
お望み通り酒を入れてやれば、少しくらいは胸襟を開いてくれるかと期待してみたが……まさかまさかのこのザマだよ。
(おい、グスタフ。お前さんまで一緒になって呑んで騒いでんじゃねーよ。説得しろ、説得をっ!)
(おおう、主殿すまなんだ。わしも久しぶりの酒じゃったので、つい……な?)
(ホント、ウチのダメ親父が申し訳ありません。あとでキツく叱っておきますんで)
(……てか、どっちかってーとグスタフよりお前さんの方を教育的指導したいんだがね、俺は……)
(あ、それでしたら二人きりの時に是非お願いしたいでっす♡ ぼくという無垢で真っ白なキャンパスを”主様色”に徹底的に染め上げて欲しいのでっす☆)
ああ畜生。どこまでもエディタがエディタ過ぎて、本当に嫌ンなってくる。
(……おい、グスタフ……)
(本当に、面目ねぇです……)
「そこぉ、何コソコソしてやがんのよぉ。やめてよ、折角のタダ酒が不味くなるわ。ただでさえ人間種が同席してやがるから、それだけで気分悪いってのにさぁ」
「がっはっは! きさん、多少不味くても酒ならば全部呑み干す癖によう言うわいな。じゃが、きさんのその意見には同意じゃの」
「あによー? 喧嘩なら半値でも買ったるわよ」
「ま、ま、ま……お二人とも、抑えて、抑えて……ぼくの可愛い顔に免じて、ねっ、ねっ、ねっ?」
……あ。何か急にどうでも良くなってきた。
面倒臭いし、城塞都市の武器屋で全部済ませてしまおうか。別にこっちにゃ大地の人謹製の装備に拘る理由なんかこれっぽっちも無いのだ。本当に良い装備を求めるなら、それこそ迷宮に籠もれば良い。そちらの方が遙かに性能は上なのだから。それに、出土するモノが希望する武具でなければ最悪それを売って購入費用に充てればいい訳だし……ああ、もうそれで良い。そうしよう。
「……はぁ、樽で買ってやるから後はあんた達で好きに呑みな。悪かったな、態々時間取らせてよ。俺ぁ帰るわ」
「おっ、ちょっ、主殿?!」
「ぼくは主様に付いていきまっす☆」
「付いてくんなよ……」
ああ、本当に。
俺は何で”期待”しちまったのかねぇ……?
ああいう”反応”は最初から予想付いていたのに。
そもそも最初の印象から最悪だったのだから、向こうから歩み寄ってくれる訳なんか、端から無かったと言うのに。
「しかし、ままならん、ねぇ……」
家に帰って少し呑み直すとするか。セバスになんて言われるか判らないけれど、たまにはこんな自堕落な昼酒も良いだろう。
アストリッドなら、付き合ってくれるかな……?
みっともなく弱音を吐いてしまいそうだけれど、何となく、彼女なら全部受け入れてくれるんじゃないか……そんな気がした。
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