36.こうなったら乗りかかった船って奴だ。俺が全力で癒やす!
職場が変わって更新日が安定しません。申し訳ありません。
「……だからってよぉ。こぉんな厄介事を、態々冒険者ギルドに持ってくるのはどうなんだよ、レグぅ?」
「”太守府”に持って行ける案件じゃなくなった以上、ギルドを頼る他無いだろうがよ。今回の件はそもそも、アストリッドを俺に引き合わせた時と同じ理由になるんじゃねぇのかい、おやっさん?」
奴隷商人の”証言”は、この城塞都市に顧客がいた可能性が示唆されていた。
それだけでも充分に頭の痛い話ではあるのだが、残された彼の”商品”……高い練度を持った暗殺者達と、商品の価値を顧客に披露するための”巻き藁役”の亜人種達の扱いをどうするのかという難しい案件だけが残されてしまったのだ。
後は性処理の”道具”として用意されたという、老若男女各種揃えられた”森の人”達の処遇も困りものだ。
奴隷商人の死によって、これら事態の収拾を図る事が難しくなってしまったのが非常に残念である。
何せ、城塞都市を治める上層部に彼の”顧客”がいる可能性もある以上、下手に全てを丸投げなんぞしたら、逆にこちらが一方的に悪者にされる最悪の場合も考えられるだろう。であれば、少なくとも裏切られる可能性が低い方を俺は選ぶ。つまりは、そういうことなのだ。
「またえらく信用されてんだか、はたまた全く信用されてねぇんだか……」
「おやっさんを信用しているからこそ、こんな厄介事を持って来たんだろうが。暗殺者共は正直どーでもいいが、手足を喪った彼らを、俺は助けてやりたい。だったら、頼れるのはもうギルドしか残ってねぇよ」
冒険者ギルドは、その理念上、国家の枠組み一切に囚われない広域組織だ。
職員の中には、当然今まで育ってきた世間の慣習、因習というモノに囚われてはいるだろうが、それでも全員が全員という訳ではない。
そもそも、種族が違うからといって、色眼鏡で見る様な人間ではギルドの職務を全う出来る訳が無い。そこに関わる人種はそれこそ多岐に渡り、世界の縮図と言っても過言ではないからだ。
であれば、人間以外の亜人種を人として見れないであろうこの国の官憲達には、絶対に任せる事のできない案件だとも言える訳で。
「彼らの”治療”は俺がやる。手の空いている奴が手伝ってくれるとありがたいが、強制はしなくて良い。空いている部屋を全部貸してくれ。代金は俺が後で払うから」
まずやる事は彼らの手足の再建、再生だ。獣人や”大地の人”は生命力が他種族よりも強いらしく、今のままでも特に命に別状は無い。
問題は、”草原を跳ねる人”や”森の人”等、精霊種に近しいせいか、比較的生命力の乏しい種族達だ。処置の如何によっては、今後の生活にも支障が出る怖れがある。なるべく処置が早いに越した事は無い。
暗殺者達の性能評価の為の試し斬りによって斬り落とされた彼らの手足は、捨てられる事無く現場にあった事が幸いした。
手足を繋げる程度ならば、消費する生命力も、マナも少なくて済むからだ。
ただ、奴によって愛玩用として”拉致”されたであろう”森の人”達の中の一部……手足を切り落とされてから長い時間が経過してしまった人達は、そう簡単にはいかない。
塞がってしまった傷口までの神経や、筋肉繊維、果ては骨までをも再生させなくてはならないし、身体が忘れてしまったそれらの動かし方を思い出させてやらねばならない。幻肢痛が残る人はまだ望みがあるが、その感覚を喪って久しい者達は、絶望に似た長い時間を地獄と共に生きる覚悟が要るだろう。
……それを強いる権利なぞ、端から俺には無いというのに。
優しく手を差し伸べる態で、さらなる絶望へと、彼らを突き落としているだけなのかも知れないというのに。
彼らを救いたい。
そう思う事すら傲慢なのだと、嫌な現実を突きつけられる様で、本当に嫌になる。
……だが、それでも。
俺の力ならば、彼らの傷を癒やせる。それを信じて。
◇◆◇
「アストリッド。すまないが、目覚めた彼らへのフォローをお願いできるかい?」
「ええ。勿論です、レグナード」
いくら彼らに真摯に事情を話してみた所で、”人間である”俺達の言葉なぞ端から信用される筈もない。そもそも、彼らがこうなってしまった原因は、一方的に残忍な人間側の所行にあるのだから。
”褐色の森の人”の彼女の口からの説明であれば、少なくとも俺達からよりかは受け入れて貰えるだろう。それ程までに、亜人種達の人間への不信感は根強い。更にそのトドメをやらかしやがったのは、奴隷商人とその取り巻き共だ。
これでは、”光の精霊”の”偽装”を解いたアストリッドと、二人で城塞都市の街中を出歩くなんて事は、俺の存命中には決して叶わぬ夢物語で終わってしまうだろう。
全ては、人間種の驕りと傲慢が招いた事態だ。
やがて、因果は巡る。
結局は、彼らとの交流の一切が断たれての現在が、正にそれを示しているのだろう。
表面上は多種族が共に手を取り合って繁栄している国が、すぐお隣に在るというのに。
まぁ、あの馬鹿野郎の出身地であり、侯爵様の権力の根源だし、あまり良い様に言いたくはないのだけれど……あいつにとって、人間種だろうが亜人種だろうが等しく”家畜”と変わらぬ扱いだった訳だから、また違うのだろうがね。
それでも、この国で禄を食む”男爵位”貴族のドゥーム家当主の俺としては、恥ずかしい想いでいっぱいになってしまう訳で。
「アン、シルヴィア。君達もアストリッドを手伝ってやってくれ。ただ、無理はしなくて良いからね。怒鳴られたら怒鳴り返せ」
「「りょー♡」」
彼らの辿った運命には、心底同情する。
同情はするが、だからと言って、それでこちらが一方的に怒鳴られる様な事態に甘んじるつもりも無ければ、頭を下げねばならぬ謂われも勿論無い。
何か言われたら、当然言い返してやるし、殴りかかってくるのであれば、無論返り討ちだ。
俺達は、無抵抗の平和主義者ではないのだから。
「ミリィ。彼らに必要なモノがあったら何でも手配してくれ。費用は全部ドゥーム家が持つ。この際、遠慮は無しだ」
「ええと……本当によろしいのですか?」
傷が癒えた所で、この街では彼らに与えてやれる”仕事”なぞは何処にも有りはしない。彼らの”自立”ができるまでの滞在費が幾ら掛かるのかは、正直解らない。
だが、正直乗りかかった船だ。ここで放ってしまうなんて出来る訳が無い。
「気にしなくて良いよ。あの奴隷商人と、無頼漢共の持っていた金で、ある程度は賄えるだろうさ」
どうせ、大本はあの侯爵様の小遣いだ。精々派手に使ってやれば良い。
それでも足りないというのであれば、仕方が無い。”慈善活動”といこうじゃあないか。
「……本当に、貴方様というお方は……」
俺も全力の回復術の連発で、周りを見る余裕なんざあまり無かったのだが、それでもミリィの何とも言えない表情だけは、何故かとても深く印象に残った。
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