31.やられたら最低でも倍返し。基本だよね……
結局アンの魔法や俺の回復術を使うまでもなく、男への尋問は拍子抜けするくらいにあっさりと終わってしまった。
言葉の真偽を確かめる魔術(偽証した途端に全身に激痛が走るのだそうで)やら、強制自白の術やら、etc……
本来ならば魔導士という称号職の習得魔法一覧には決して無いはずの数々の魔術を修めた”魔術オタク”と称しても一切の不足は無いだろう、アンの習得魔術のレパートリーは多岐に渡るというのに。それが少しだけ残念だ。
「俺らはまぁ、そういう人間だから確かに自決用の毒を持ってはいるが、どうせアンタがいたらコレも無駄なんだろ? だったら、もう仕方がねぇよ」
……と、いう事らしい。
まぁ、元回復術士の前に立ちはだかった己が不幸を精々恨むが良いさ。ついでにその自決用の毒も俺が取り上げておく。黄緑色のそれは如何にも見るからにヤバそうな雰囲気を纏っていた。
「……てゆかさ、結局ボクってば、ただ街中を必死に走らされただけで、良いトコ全く無かったんだけれど……?」
そだね。置いてってごめんね。
……でもさ、何が何でも付いてくるって言っ張った君が悪いんだからね? 俺は悪くないからね?
尋問中に、どこかに潜んでいた仲間の手によって、目の前の男が消される……なんて展開も無かったのは、些か不満ではある。この男達がどこまで本気の集団であるのか、俺は正直量りかねているのだ。
まぁ、そろそろこちらにやってくるであろう兵隊さん達に身柄を引き渡した途端に、そういう奴らがちゃんと後始末に来る可能性は大いに有る訳なのだが……
実力はそれなりにあったのだけは認めよう。だが、男達の行動はあまりにもお粗末過ぎた。
そもそも人通りの減る夕刻時とはいえ、未だ人目のある街中での目立つ戦闘行為など、それこそ追って捕まえてくれと言ってる様なものではないか。
「……ねぇ、クズ野郎? その辺もこいつに直接訊いてみたら良いんじゃね?」
そだね。君の言う通りかも知れない。
疑問が残る内は、この時間を有効に使ってしまおう。
「アンタらも俺らと同じ類いの生き物だろう? ……つまりはそういう事だ」
「どゆこと?」
「……なぁ、アンタ。この嬢ちゃん、本当に頼りになってンのか?」
改めて先程まで敵対していた人にそれを言われてしまうと、うん。どうなんだろうね? ……なんて不安感に襲われてしまのも致し方が無い事だろう。
「アン。つまりは、彼らも俺達冒険者も”信用”……今回の場合は”面子”って言った方が無難かな。それによって商売が成り立っている、ってことさ」
「ああ、なる」
曲がりなりにも、今後【暁】の主前衛を張る予定でもあるヴィオーラが、街中で無頼漢相手の大立ち回りで不覚を取ったと周囲に知れ渡れば、まぁそれなりに俺達の名声も落ちるだろうって事だ。
そのついでに彼女を拉致でもできれば、彼らやあの馬鹿野郎にとって、今後も俺達相手に好き勝手何でも要求できるボーナスタイムが続けられるであろう目論みだったというのだ。あまりにも下衆過ぎる話だが。
「それによ、城塞都市の兵の程度はとうに知れている。俺らにとっちゃ何の障害にもなりゃしねぇよ。アンタの”戦力”が非常識なだけだ」
言いたかないが、この男の指摘は尤もかも知れない。ちょっとした端金程度で、この国の”男爵様とその身内に”平気で手を出してきたのだ、その結果、自分達がどうなるのかすらも想像ができない頭の悪い輩達では、最初から対抗なんかできる訳も無いだろう。そんなうだつの上がらぬ兵の練度など、最初から推して知るべしだ。
お陰であのクソ野郎の考えは良く解った。
『どうせ自分の手に入らないのなら、徹底的に壊す』
どこまでも度し難い身勝手な糞餓鬼の発想だ。
「……さて。では君に最後の質問をしても良いかな?」
努めて俺は笑顔を貼り付けたまま、あの侯爵様の雇った奴らの根城の情報を、彼に求めた。
◇◆◇
「……では、レグナード。このまま直ぐに?」
「そのつもりだよ、アストリッド。ここで無駄に時間を置いてしまっては、奴らに逃げられてしまうだろうからね」
冒険者ギルド前の二人と合流して、俺はこれまでの経緯を説明した。
恐らくヴィオーラは血を流し過ぎたのだろう。傷は完全に治癒したつもりだが、未だ意識は回復していない。ミリィにお願いし屋敷に繋いでもらい、迎えを寄越す手配をする事にした。
彼女に挽回の機会を与えてやれないのは非常に残念だが、今回は仕方が無いと諦めてもらうしか他はないだろう。下手に残りを見逃してしまっては、後々面倒この上無い。どうせならドサクサの内に殲滅してしまいたいのが、隠し様の無い本音だ。
「……そういう訳だ。アン、シルヴィア。君達も付いてきてくれると助かる」
俺は二人にも協力をお願いする事にした。流石に俺一人の手だけでは、今回の作戦は持て余す。後腐れの無い様になるだけ多くの敵を逃がす事なく殺ってしまわないといけないのだ。数は力とは良く言ったものだ。
「りょ♡」
「あいよ、レグナード♡」
「こちらから協力をお願いしておいて何だけれど、今回は二人の”試験”を兼ねているからね? 頑張ってくれ」
金級や、銀級の人間が在籍する徒党等は、山賊、野盗の強襲、掃討という指名依頼が度々ある。
もしそいつらを数名捕り逃がしでもしたら、それでしか食っていく手段の無かったであろうゴロツキ共だ。またぞろ他所の地で同様の悪事を働くのは目に見えている。当然、取りこぼしなぞ許されぬ難しいミッションである。
つまりは、彼女達二人が今後【暁】で戦力としてやっていけるのかどうかを、今回の作戦行動で試験するよ。そう俺は彼女達に宣言してみせたのだ。
「ボク達の実力、ちゃんと君に示してあげるよゴミ野郎」
「おうさ。どうもにもウチのレグナードってば、オレらの力を舐めてるみたいだかんなぁ。いいか、しっかり見とけよ?」
「期待しているよ」
試験だ何だと言ってみたが、正直に言って彼女達の技量に対し、俺は不安を抱いてなんかはいない。
そりゃ、色々と足りないなとは思っているが、それだって彼女達の可能性……伸び代を感じているからこその不満でしかないのだ。
「ああ、精々期待しててくれよな」
「でもクソ野郎ってば、変わったよね? ちょっと前なら絶対に『お前らは邪魔すんな。俺一人でやってくる(キリッ)』って言っただろうにさ」
俺の真似をしているつもりなのかアンは自分の瞼の端を指で上にしながら低い声を出し、シルヴィアはそれを指して大笑いしてやがる。
何となく、何となくムカついてきたので、俺は二人の頭を軽く小突くと、彼女達は何故か嬉しそうに笑うのだった。
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