30.街中での殺陣。きっと後ですごく怒られるんだろうなぁ…
「クソ野郎、こっちがなんか騒がしい」
「よし、行ってみよう」
アストリッドと二人で出かけようとしていたら、アンとシルヴィアに捕まってしまい、二人も付いてくると何を言っても聞かなかったので仕方無く連れて行く羽目になった。
だが、考えてみたらこれはこれで良かったのかも知れない。
城塞都市の中はかなり広い。
たった一人の影を追ってみた所で、早々見つかる訳はないのだ。眼が多い方が都合良いのは明白だろう。
「アストリッドとシルヴィアは向こうの方を頼む。念の為、日が落ちる頃に冒険者ギルド前で落ち合うとしよう」
「了解しました」
「はいよー、解ったよレグナード」
二人の返事を聞いたと同時に、俺は蹴り足に魔力を込めて一気に駆け出した。
城塞都市の路地ほぼ全てに石が敷き詰められているお陰で、加速は十二分に付けられる。問題があるとすれば、まばらながらもまだいる通行人達が少々邪魔に感じる事か。それでも俺は彼らの間を縫う様にして目的地へと駆けた。
「こらーっ、クズ野郎! ボクを置いていくなんて酷すぎるぞ-!」
後ろでアンが何か喚いている様だが、今はもう構っていられないのであえて無視する。それに、あいつは魔導士だ。魔力の扱いには手慣れている筈。放っておいても直に追い付いてくるだろう。
急に人垣が左右へと何かを避ける様に一気に広がり、そこから男達が慌てて出てくる様子が遠目から見えた。
先頭に立つ男が抱えているのは、あれは女性だろうか?
金色の長髪……ビンゴ。
アレはヴィオーラの様だ。
「待てっ!」
「……っち。もう来やがった」
男達の行く手を阻む様に、俺は両手を拡げて路地の真ん中に陣取った。
ヴィオーラを抱えている男と、周りの取り巻き達のいでたちを改めて確認してみる。
一目見て、こいつらは冒険者でない事は直ぐに理解できた。
黒一色で塗られた鎧と具足で統一されたその姿は、まさに不気味の一言。さらには鎧も具足も夕焼けの光を一切反射していないときた。恐らくは、その手の集団なのだろう。そこらの無頼漢共と違い、奴らの振る舞いからも、隙を見出すのは極めて難しい様に思えた。
それだけで、彼らが手練れなのだと充分に理解させられた。冒険者ギルドの杓子定規に当てはめてみれば、個々の戦力は最低でも鋼か黒鋼級だろうか。ヴィオーラが不覚を取るのも頷ける。
少なくとも、あの馬鹿野郎の馬鹿親は、俺に対する嫌がらせの為に金を惜しむつもりはなさそうだ。
「さて。お前さんが抱えている女性は、ウチの”家族”だ。大人しく返してくれると言うならば、見逃してやっても良いのだが、どうするかね?」
特に気にしなくとも、辺りからはかなり濃い血の臭いがしている。
もしかしなくとも、ヴィオーラは深手を負ったのだろう。こんな下らない問答に時間を費やしていては、彼女の生命に関わる。なるべく早く済ませてしまいたいのが、こちらの本音だ。
「悪いが、こっちも”仕事”でね。ほいじゃあ返すって訳にもいかねぇんだ。ただでさえ、こーんな街中で色々とやらかしちまってるかんなぁ。力尽くで押し通らせてもらうぜ?」
どうせ無駄だろうと思いつつの提案ではあったのだが、やはり案の上って奴だ。
人通りのある街中で、さらに人目を気にせず盛大にやらかした彼らは、最初から目的を達成次第、城壁の外へと逃げる算段だったのだろう。
だが、少なくとも危険を冒してまで【暁】の面子一人を拉致するよりも、こいつらが直接俺自身の命を狙う方が早かったのではないだろうか?
……まぁ、本当に今更の話なのだが。
「そうか、ならば仕方が無い。俺の大事な”家族”を傷付けたお前らには、早々に死をくれてやろうか」
この国では、俺唯一人の称号職である”魔影舞踏士”の力を見せてやる。
「面倒臭ぇ。おい、やっちまえ」
ヴィオーラを抱えたままの男は、周囲の仲間に声を掛け後ろに跳ぶと同時に、男達が大小様々な得物を携え俺に向かって殺到してくる。
その間に彼女を連れて逃げるつもりなのだろう。誰がそんな事を許すと思ってやがんだ?
腰に佩いた魔剣を手にかけたまま、俺は暗黒闘気を解放する。
暗黒闘気は槍の様に形を変え、今まさに俺を斬り刻もうと殺到してきた男達は、人体の急所である額、喉、心臓へと寸分違わず暗黒闘気で形成された槍によって串刺しとなり全員が事切れた。
「……は?」
「ふん。こいつらで肉壁を作るだけにしておけば、少なくとも目的は達成できただろうにな」
軽戦士系の最上級称号職は、基本的にどの職であっても、『一対多』を想定したスキル構成となっている。
ましてや、魔影舞踏士の特徴である”影技”に関して言えば、ほぼ”初見殺し”で構成されているのだから、この結果は当然の帰結だ。
どうやら幾名かの犠牲は承知の上だった様だが、まさか一瞬で全てが死ぬとは思っていなかったのだろう。男にとっては想定外の事態で立ち竦んだ。俺にはその隙だけで充分だった。
「”影縛り”」
影技の一つで、男の身体の動きを封じる。身体の力だけでは影の鎖は決して千切れる事はない。ここで詰みだ。拘束した男から素早くヴィオーラの身柄を確保し、俺はありったけのマナを注いで彼女の怪我を癒やした。
怪我の具合を看る限り、仮にこいつらが俺の手を振り切って拉致に成功したのだとしても、その時点で彼女の命は無かっただろう。内腑がはみ出る様な怪我を負っては、血は瞬く間に足りなくなってしまうのだ。
「くそっ、どこまでもデタラメな野郎だ……」
「褒め言葉、どうもありがとう。さて。憲兵隊の皆さんが来るまで、少し俺とお話しようか? ああ、そうそう。毒を飲もうが、舌を噛もうが、俺が絶対に治療してやるからそのつもりでいてくれ。そんな事をしても、お前さんはただ無駄に苦しむだけだからな?」
即死でさえなければ、俺は絶対に治す。
この手の輩は、情報の流出を恐れてか、大概自決しようとするので尋問する際に本当に面倒臭い。だから、そんな事をしてもただ無意味に痛みを味わうだけだと忠告しておいてやる。
「それと、一つお前さんに忠告しておこうか。黙秘を続けるのも、俺はあまりお勧めできない。こちらには拷問の手段がいくらでもあるのだからね。ほら、ウチの頼もしい”家族”の一人が来たよ。彼女の魔法は、さぞかし痛くて苦しいだろうねぇ……」
「ふぅ、ひぃ、はぁ……このゴミ野郎。こんなに苦しい思いをしているってのに、可愛いボクを放置するなんて……なんてテメーは鬼畜なんだ。本当に、そんな所もクールで好きだよ♡」
何とか俺に追い付いた魔導士は、肩で息をしながらも、人目を憚らずモジモジと内股を擦り合わせて急に悶えだした。
「……頼もしい?」
「……お前さんには、当初の予定よりもちょーっと痛い思いしてもらうか?」
半眼で俺とアンの顔を胡散臭そうに見比べる男の問いに、恥ずかしさのあまり頬に熱が帯びてくる。この娘を【暁】の面子として迎え入れて良いものなのか、俺は急激に不安になってきたのだった。
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