18.口下手な奴が何時になく饒舌になっている時って、調子コいてんだぜ?
知らぬ間に総PV5000、ユニーク1500越えていました。
ありがとうございます。
レジーナとクラウディアには悪い事をした。
話の続きは明日にすると約束しておきながら、思いっきりすっぽかした格好になってしまって本当に申し訳無い。
……だが、とうに日付が変わってから、かなりの時が経っている。今更の話だな。
一度、冒険者ギルドへ赴いてアンとシルヴィアの一件をあのハゲにも伝えておかねばならないし、明日は明日で忙しくなるだろう。問題の先送りをしているだけじゃないかという自覚は、当然俺の中にある。だが、優先順位をちゃんと付けておかねばならないのも、また事実だ。
それだけあの二人の身に降りかかった問題は、根深く、そしてヤバい。
”奴隷紋”の解呪は最優先。その後、ギルドに事情説明って所か。
問題は、いくらギルドで彼女達自身が証言した所で、それだけではあの馬鹿野郎をしょっ引けないって事だ。奴の犯罪を立証する確かな証拠が無ければ、なんの意味も無い。
だが、噂を流して、周囲から完全に孤立させる事はできる。
少なくとも奴に味方は居ない。一度でも口を開けば、必ず敵を作る様な下衆そのものだったからな。
今後の為にも、奴のせいで人生を台無しにされてしまわぬ様、犠牲者を少しでも減らしておきたいってのが本音だ。
まぁ、そんな程度で引っ込む様な殊勝な心掛けなんざ、奴が持っていないのはすでに承知しているがね。
さて、今後どう対処するべきか……?
……ベッドの中であれこれと馬鹿への対策を考えている内に、疲れ果て重くなっていた筈の俺の脳が次第に活性化し、ついには眠気が完全に吹き飛んでしまっていた。
「……眠れん……」
ただでさえ、アストリッドの美しい褐色の裸体が、今でも鮮明に脳裏に焼き付いているというのに。
……このままでは、非常に不味い。
流石に、仲間で”する”なんて絶対にしたくないし、する訳にもいかないだろう。もし、使ってしまったら、俺は明日の朝、彼女に笑顔で挨拶する自信が無い。
性欲を持て余し、悶々とし続けるだけの拷問の様な静寂の時は、遠慮がちに叩かれた扉の音によって破られた。
「……どうぞ」
ノックに返事をせず、このまま狸寝入りをするという選択肢も、当然俺の中にはあった。だが、この際何でも良い。この胸に突如沸き上がってしまった”罪悪感”を、今すぐ鎮めてくれるのであれば。
例えそれが……
「夜分遅くに申し訳ありません。ですが、何卒、わたくし達に、もう一度貴方の貴重なお時間をいたきたく……」
先送りにしようとしていた、彼女達二人の問題であるのだとしても。
◇◆◇
「……すまない、丁度茶葉を切らしていた様だ。ホットミルクでも良いかな?」
深夜帯の今時分であれば、ホットワインという選択も本来ならば無くはない。
ただ、レジーナはかなりの蟒蛇だが、クラウディアは下戸だ。なので今回は仕方が無いだろう。こういう場合は、そちら側になるべく併せるのが礼儀だからな。
「いいえ、お構いなく」
「ありがとね」
これに蜂蜜をたっぷり入れると、本当に美味いんだよな。少しだけ甘いものが苦手になった今でも、何故かホットミルクだけは、甘い方が好みだ。
そういや、どうしよもなく手の掛かるクソガキだった頃の俺を大人しくさせるのに丁度良いと、馴染みの家政婦達がよく作ってくれたっけか……これは俺にとって、懐かしき子供の頃の思い出の味なんだ。
「……約束、すっぽかしてしまって、本当にすまない」
まず、彼女達に頭を下げての謝罪。
「いいえ。わたくし達が勝手に”中断”させてしまったのです。レグナードさん、貴方がわたくし達に頭をお下げになる必要なぞ、微塵もございませんわ」
……正直に言ってしまえば、彼女達の問題を後回しにしたかった。
二人を拒んだヴィオーラの事もあるし、何よりも、アンとシルヴィアだ。彼女達の右半面に刻まれた醜き”呪いの紋様”を、この二人に見せてしまうのだけは、絶対に避けたかった。
彼女達は、四人が四人とも仲間意識を持っているか?
そこは、長く単独を続けてきた俺には、端から見た程度ではさっぱり解らない。
だが、少なくとも俺は、同じ徒党を組んできた”仲間”だったという気持ちが、彼女達の中にもきっとあるのだと信じたかった。まぁ、ただの甘ちゃんがほざく理想論だがね。
「……今夜は、わたくし達の今後の身の振り方を……ご相談したく……」
「……うん。アタシも正直言うとさ、現実を受け入れるのには難しいところが、まだまだあるんだけどね。それでもさ、あんたの所にずっと甘えている訳にもいかないでしょ? だから、さ……」
態々こんな時間にやってきてまで話を急ぐのは、自身の意思によるものではなかったのだしても、俺を裏切り明確に敵対した”負い目”が、彼女達にはあるからか? つまりは、そういう事なのだろう。
まぁ、どうせそんな話だろうなという予感は、最初からあった。
だから、俺は”先送り”にしよう。そう考えていたのだ。
……そうしている間なら、少なくとも彼女達は、俺に黙ってこの屋敷から出ては行かないだろう。そういう性格なのは解っていたから。
「そんな事、全然気にしなくて良い。今は、ただ癒やせ」
俺に対し”負い目”を感じるのは、もうこの際仕方が無いだろう。
実際、レジーナは剣を抜きかけていたのだし、クラウディアは俺に弱体付与を仕掛けようとしていたのだから。あれが迷宮の中での出来事ならば、俺は確実に彼女達の命を奪っていただろう。
だが、そんなもの俺はもう気にしてはいない。所詮、命のやりとりなんてのは、その刹那だけに限った話だ。後に引き摺る様なものでもない、本当に今更の話なのだ。
「でも、ご迷惑では……?」
「うん。アタシ達、もうここの徒党面子じゃないんだし……」
「ああ、確かに次の日にギルド行って、【暁】から君達の登録を抹消させてもらったよ」
「……でしたらっ」
あの日の選択は、今でも当然だったと思っている。
だって、そうだろう?
人の”徒党と財産”を、殺してでも奪おうとした奴の、その仲間なんだぜ?
まだ俺だけなら笑って許しても良いが、あの時はヴィオーラもいたのだから、これは徒党主であれば当然の”処置”の筈だ。
「……だけれどね、あの日君達を見かけて、この家に連れてきた時に、俺はもう君達を”家族”として認識してしまったんだ。君達の事を迷惑だなんて俺は思わないし、むしろ迷惑をかけてくれると嬉しい」
あの時、あの路地裏で見た、変わり果ててしまった彼女達の凄惨な姿を思い起こす度に、俺の中で名状為様の無い、昏く黒く滾る怒りが沸々と沸き上がってくるのだ。
……同情? ああ、あるかも知れない。
……憐憫? うん、それも何処かにある。
「なんで、なんであんたは、そんな簡単に言えるのさ……? アタシ達は、冒険者として終わってるし、もう女の価値なんか、全然、何処にも無いんだよ……?」
所詮俺は男なのだから、あの時の彼女達の気持ちなんざ、一生かかっても理解できやしないだろう。だが、それでも……
「それがどうした? 俺は何も気にしないし、君達は君達だ。俺に言わせりゃ確かに冒険者としちゃひよっ子だが、女性として充分に魅力的に見えるぞ?」
彼女達をそのまま受け入れて、肯定する事はできる。
”魅了”のせいもあるかもだけれど、元々見向きもされていなかった俺なんかが、今更彼女達に何を言っても、何の意味も無いかも知れんがね。
「今の君達に言っても、何も響きはしないのを一応は理解しているつもりだ。結論を急ぐ必要なんか無いさ。まずは、心を癒やせ」
まずは、心を落ち着けてからだ。この先の話なんてのは、冷静になって前を向く余裕ができてから、だろう。
そこに至る前に、彼女達の心がどうしても耐えられない。そう言うのであれば、ダークエルフの”禁呪”に頼るのも、まぁ一つの選択だろう。ただ、今はその事を彼女達に言う時ではないだろうが。
「さ。すっかり冷めてしまったけれど、今夜はそれを飲んでおやすみ……」
「はい。ありがとうございます、レグナードさん……」
「うん。冷めても美味しいよ、レグナード……」
涙に潤む四つの瞳達が熱を帯び、まるで俺に縋る様に向けられる視線を見て、俺は今し方自身が吐いた臭い台詞の数々を後悔した。
人の弱味につけ込みやがって、こいつは本当に……想像の中で、俺は自分自身を何度も何度も殴り付けた。
なぁに格好つけてやがんだ、拗らせ童貞の癖に。チョイと女性と会話が長く続いたからって調子コキがって、コノヤロウ。
ああ、なんか。本当にドツボだな俺。
彼女達が部屋から出るのを見送る際、名残惜しそうに何度も何度もこちらを振り返る姿を見て、どうしようもない自己嫌悪が俺を襲った。
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