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藍子の武者修行  作者: 山口 にま
第二章 
7/63

不登校問題

高円寺のライブをきっかけに藍子の交友関係は広がった。藍子はマリイの真似をしてまつげをビューラーで上げてみる。道場では化粧は禁止されているので本物のまつ毛だと偽るために極少量のマスカラを塗り、細くアイラインを入れた。


天水道場は基本的に週二回の稽古だ。天水克通師範の稽古は土曜日の午後。大手IT企業に勤務している天水が確実に時間が作れるのは週末だけである。週日の夜の稽古は妻の美紀師範が指導をした。

藍子、栗田大悟、綿貫紗羅が大学一年生で、合気道歴も同じである。カナダ育ちの紗羅は髪の毛を明るい色に染め、洗練された雰囲気を持っている。紗羅は時々外国人の初心者を道場に連れて来た。紗羅は勿論、天水も英語で合気道を教えられる。

ある週日、ヨーロッパ人カップルが紗羅の紹介で道場にやって来た。稽古の後半、紗羅は美紀師範と演武の打ち合わせだ。カップルはまだ練習がしたいらしく、藍子に教えを請うて来た。藍子は技を見せることは出来たが、英語で教えることは出来ない。藍子が困りきっていると打ち合わせを終えた紗羅が戻って来た。

「Ok,ok.I will teach you」

と言って藍子と外国人の間に割り込む。そして英語で

「彼女は英語が喋れないの」

紗羅はその言葉すら藍子には理解できないと思っているようだ。自分に自信のある紗羅は、時に目の前の人間を悪く言うような無神経な事をする。藍子は紗羅が苦手であり、外国語を自在に操り一流大学に在学し、合気道の上達も早い彼女を嫉ましくも思うのだ。


藍子が稽古を終えて帰宅する頃には、鵜飼家の夕飯は既に終わっていた。祖父の敬三は母屋に戻っている。藍子が温めなおした夕飯を食べていると、困り顔の母親が藍子の前に座った。

「今日、アガタで保護者面談だったんだけど」

セイントアガタ学園は藍子と姉の百々子の母校だ。今は末っ子の楓が中等部三年に在籍している。

「先生は何だって?」

「楓は高等部には行けないって」

「まあそうだろうね、あれだけ学校をサボっていたら」

最近の楓は保健室登校さえも渋っている。浴室からシャワーの音が聞こえた。楓本人は呑気に入浴中だ。

「で、どうするの?最終学歴が中卒?」

と藍子。母親は

「通信制高校ならどうだろうって先生と話しているの。そういうところならば毎日通う必要がないし」

「大丈夫なの?そんな訳あり生徒が集まる高校で」

「そんな嫌な言い方はしないの」

初子は藍子をたしなめる。天水道場の稽古では飽き足らず、他の道場に押しかけてまで合気道の稽古をし、清彦のバンドを追いかけ、更にはその資金調達の為にバイトをするなど、精力の塊のような藍子には学校に行かないという事が理解できない。

「イジメにでも遭ったの?」

「楓は違うって言っている」

「じゃあどうして?」

「満員電車が嫌だって言っている。それに騒がしい教室に入っただけで気分が悪くなると」

「誰だって満員電車は嫌だよ。うるさい場所も嫌だよ。でもそんな事を言っていたら生きて行けないよ」

藍子は強い口調になる。初子は浴室に目を走らせ、

「楓がお風呂から出てくるから・・・・・・」

と話をうち切ろうとする。

「ふん、勉強しなくって恥ずかしい思いをするのは自分なんだからね」

彼女は英語が出来ないから、そう紗羅に言われた時の屈辱を思い出し、藍子の口調は益々棘を持つ。

「あ、おじいちゃんのお布団を敷かなきゃ」

母親は壁の時計を見上げて言う。祖父の敬三の身の回りの事は全て初子がやっているのだ。

「あんな広い家なんだからベッドにして貰いなよ」

母親は朝な夕な布団の上げ下げをさせられ、まるで旅館の中居ではないか。

「おじいちゃんはベッドが嫌なんだって」

母はそれだけ言って、廊下伝いの母屋へと駆けて行った。あれが嫌、これが嫌、どいつもこいつも我儘ばかりだ。藍子は苦々しく思う。

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