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藍子の武者修行  作者: 山口 にま
第二章 
3/63

天水道場

「認証 鵜飼藍子殿

右の者、今般瀧田流合気道初段を認可す。

今後益々精進に努め、瀧田流気の道を体得する事を欲す」


袴姿の藍子は師範である天水克通てんすいかつみちの前に手をついて頭を下げた。顔をあげて両手で恭しく初段の免状と黒帯を受け取る。

藍子は大学一年生になった。中学三年生から合気道を始め、合気道歴四年である。ある程度のことは出来ると自負しているが、藍子の属する瀧田流では十八歳以上でないと有段者になれないのだ。道場の窓からは黒い森が見える。この道場は公園内にあり植物園に隣接しているのだ。窓から入る五月の夜風が心地よい。

「俺たちも遂に有段者か」

同時に初段を取得した栗田大悟が免状を見ながら言った。彼は熊のような体型だ。彼もまた合気道歴は長い。

天水師範が藍子に命じた。

「鵜飼さん、君はこれから武道家として武者修行に出てもらう。早速演武の予定が入ったぞ」

演武とは人前で技を披露することだ。藍子の属する流派には試合がない。大会では技の美しさや切れで点数を競い合う。

「私、人前に出ると緊張しちゃうし・・・・・」

藍子が難色を示すと、

「場数を踏まなきゃ強くなれないぞ。演武から学ぶことも多い。再来週中央線沿線で区民祭りがあると言うじゃないか。ステージの使用申請は出してある。そこでうちの流派の宣伝も兼ねてちょっとやって来なさい」

ちょっとやる、そう天水は軽く言うが、演武はちょっとやれるものではない。見栄えのする技を選び、出演者を決め、事前に何度もリハーサルを重ね、本番まで緊張の日々を過ごす。会場にマットを運び込まねばならず準備だって大変だ。勢い時間が有り余っている学生が演武に借り出されるのだ。

「まあ良いですよ」

藍子は気乗りしないまま、承諾する。大学に入ったら夜な夜なのコンパにクラブ通い、それが藍子の夢であったが、天水に命じられた通りに武者修行に出たら大学生活の四年間も合気道漬けになってしまう。

「やっと女子大生になったのにな」

大悟には藍子の落胆はお見通した。天水師範の妻、美紀は彼等のやり取りを笑いながら聞いていた。美紀もまた師範である。

この道場は天水夫妻で守られている。夫妻は共に三十代後半。子どもはいなかった。


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