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夕焼け色のハッピーエンド  作者: ドラ太郎
6/7

謎のサッカー少年

河野先輩の誤解も解けたし、後はあたしが学校にいけるようになれば……。

 あの掲示板の犯人はいまだに解らないままだ。

学校に、いくのがまだ怖い。

だけど、河野先輩もみんなの前でちゃんと説明してくれると言っているし。

 次の日曜日は、誰も誘わず、あたしは一人でサッカーをしていた。

「ドロボウっ」

小学3年生ぐらいの男の子が、大声であたしに向かって叫んでいる。

いつの間にいたんだ? この子。

いや、それより、今なんて言った?

ドロボウ?

「ぼく、どこから来たの? 何年生? ドロボウってどういうこと?」

あたしの質問には答えず、

「教えてほしかったら、ぼくもサッカーに入れろっ」

なんだ、ただサッカーに入れてほしいだけか。

よし、どうせ、一人じゃひまだったし、相手をしてやるか。

「いいわ、お姉さんが、遊んであげる。君、名前は?」

「トオル」

「何年生?」

「小学3年」

「ドロボウっていうのは?」

「……」

やっぱり黙り込んでしまった。

まあ、いっか。

子どもの言うことをいちいち真に受けなくても。

「じゃあ、トオル君、壁当競争しよっか」

「うんっ」

トオルは、目が輝いた。

壁当て競争とは、どれだけボールを奪って、壁にボールを打つことが出来るか競うものだ。

チャンスは、10回勝負。

いざ、勝負。

男の子だけあって、体力はあるみたいだ。

だけど、テクニックならあたしは負けない。

ドリブルもボールを奪う技術もあたしの方が上だ。

結局、10対0であたしが勝った。

もう、辺りは、暗くなり始めた。

「また、相手をしてあげるから、今日はもう帰ろう?」

男の子は、ぱっと笑顔になって、

「じゃあ、明日もまたくる」

「うん」

それから、お店の手伝いが終わった後も、男の子と、初心者のあゆみも呼んで3人でサッカーで遊ぶようになった。

クマおじさんも、誘ったけど、今は忙しくて来れないとのこと。

残念だな。

「なんで、こんな小さな子と……」

あゆみは、最初、ぶつぶつ文句を言っていたが、ふたりの実力は、ほぼ互角なだけあって、お互い、汗をかきながらも熱中していた。

最後の日曜日。

トオルが飼っている(トラ)という大型犬もやってきた。

「わー、かわいい」

犬が大好きなあゆみは、トラにメロメロだった。

そして、いつもどおりサッカーを始めようとすると、

「なんだよ、俺を差し置いて……」

なんと河野先輩が、やってきた。

あたし以上に、あゆみはさらに驚いて目を丸くしていた。

トオルは、だれこのひと? という感じだ。

トラが、河野先輩に一目散に走っていった。

「わ、なんだ、なんだ」

あたふたする先輩の胸に容赦なく、突っ込んでいった。

その反動で、河野先輩はそのまま倒れこんでしまった。

「いってーな、なんだよもう」

トラの口には、チョコレートが。

先輩の胸のポケットにチョコレートが入っていたみたいだ。

「トラは甘いものを見つけるのが得意なんだよ」

トオルは、自慢げにあたしたちに教えてくれた。

「なんだそういうことか。びっくりした」

河野先輩は、やれやれと立ち上がった。

「か、河野先輩がどうしてここにいるの?」

あゆみには、河野先輩との誤解が解けたことは、説明していたけれど、ここまで関係が良くなっているとは、思っていなかったらしい。

「今日は、仕事休みだから、ちょっとケーキ屋まで行ったんだ。そしたら、ここでサッカーをしてるっていうから。今日は、友達も一緒か」

「は、はい」

あゆみは、緊張しているようだ。

「おれも、入れてほしいな。いいかな?」

「もちろん」

断る理由なんかない。

なんだか、面白くなってきたぞ。

せっかく4人いるから、今日はチーム戦で戦うことになった。

あたしは、あゆみと、河野先輩は、トオルと同じチーム。

女子対男子の出来上がりだ。

試合が、始めるとやっぱり、河野先輩は強い。

全然、ボールを奪えないし、ドリブルも早い。全く追いつけない。

だけど、最高に楽しい。

いつまでもこうしていたい。

盛り上がっている中、邪魔をするように雨が突然、降り出した。

「今日は、いったん中止だ」

あゆみも、河野先輩もいち早く、小さな屋根のついているベンチに戻って行った。

「あたしたちも、戻ろう?」

「いやだ。まだ勝負はついてない」

雨は、どんどんひどくなり、芝生もびしょびしょになっている。

トオルはボールをけり損ねて、泥んこまみれになってしまった。

「もう、何やってんのよ。だいじょうぶ?」

思わず、あたしは、なんだかおかしくなり笑ってしまった。

「ふ、ふえーん」

トオルは、泥まみれで、泣き出してしまった。

「泣かないの。 男の子でしょ? うちに行こう、着替えかしてあげるから」

みんなで一緒にうちで雨宿りすることになった。

「あらあら、大変だったわね」

お母さんが、人数分のタオルをすぐに準備してくれた。

「このままじゃ、かぜひいちゃうわね。パジャマかしてあげるからそれに着替えようね」

あたしが、着替えるのを手伝っていると、

「ん? あれ?」

トオルのお腹に青いあざが見えた。

「トオル? このあざ どうしたの?」

「なんでもないっ」

トオルは、すぐに服を引っ張って隠した。

「なんでもないって、なんでもないことないでしょ。そんな大きなあざ、どうしたの?」

「なんでもないったらっ」

見せることを拒んだ。

「どうしたの?」

あゆみが、ひょこっと顔を出した。

「え、いや、なんでも……」

あたしは、嫌がるトオルにこれ以上なにも聞けなかった。

着替えが終わると、

「ぼく、お腹がすいた」

パジャマ姿のトオルは、その場に座り込んでしまった。

そういえば、お昼まだだったな。

よし。ついにこの時が来た。

「あたしがみんなに料理をつくってあげる」

あたしの宣言にすぐにみんなが反応した。

「へ? ケーキは、おれ今、食べれないな。今はご飯がたべたい」

「あたしも。運動の後のケーキは太るしなぁ」

リビングでくつろいでいる二人は、あたしがケーキしか作れないと思っている。

「いいえ、違います。作るのはちゃんこ鍋です。お母さんに習いました」

河野先輩が、ガバッと体を起こした。

「まじでっ? 俺、大好きなんだよ、ちゃんこなべ」

急に、子供の様にはしゃぎだした。

「ともこが、鍋を作れるなんてうそみたい」

ともこは、まるで信じていない。

よーし、見てろ。

「すぐ作り始めるから、お待ちなさい」

お母さんに、貰ったレシピの通り、鶏がらスープでだしを取って、具材を切り分け、ちゃんこ鍋を作り始めた。

「お待ちどうさま」

あたしは、どうだ、といわんばかりにみんなの前でちゃんこ鍋を完成させた。

「わー、おいしそう」

湯気が立ち、ぐつぐつと煮え渡る鍋を見て、みんなの期待は高まるばかりだ。

「早く食べたい。早く食べたい」

トオルは、足をばたばたさせて待ちきれないでいる。

うん、思った以上に、うまく出来たぞ。

「さあ、みんな、召し上がれ」

みんな、いっせいに鍋に箸を突っ込んでいく。

「うまいっ」

一番に、河野先輩が、声を上げた。

「こんな美味しい鍋を食べられるなら……。ともこ結婚しよう」

「いや、女同士で無理だから」

トオルには、あたしがお椀についであげた。

「おいしいっ」

トオルの端を持つ手は止まらない。

「そっか。よかった。よかった」

こんな、あたしでもこんなにみんなを喜ばせることができるなんて。

みんなの嬉しそうな顔をみて、あたしの不安が一気に消えた。

よし、決めた。

「みんな、あたし、明日から学校にいこうと思う」

あたしの宣言を聞いた二人は、

「そう、こなくっちゃっ。よーし、あたしも放送部がんばるぞ さっきも、先輩から特大スクープ映像があるって連絡が来たんだ。まだ見てないけど、帰ってチェックしなくちゃ」

あゆみは、待ってましたと言わんばかりに、強くうなずいた。

「明日? よし、じゃあ、おれも明日学校に行こう。みんなの前であの掲示板が嘘だということを説明しないとな。おれがみんなの前で話すよ」

「ありがとう 河野先輩」

 次の朝、心臓が、破裂しそうなくらいドキドキしていた。

久しぶりに学校へやってきた。

正直、怖い。

すると、例の学校掲示板に人だかりがまた出来ている。

まさか、あの記事がまだ?

いや、今更、もう驚くひとはいないはず。

あたしは、おそるおそる掲示板に近づいていく。

あたしは、頭が真っ白になった。

(スクープ第2段‼ 悪魔の子、再び! 今度は児童いじめか?)

また、あたしの姿が、写真で映ってる。

そして、そこには、泥の中で転んで泣いているトオルの姿が。

昨日のサッカーの時の場面だ。

写真の中のあたしは、たしかに笑っている、そこだけ見たら、あたしがトオルを転ばして泣かせているようにも見える。

でも、実際は、そんなんじゃない。

ただ、サッカーをしていただけなのに。

「あ、悪魔の子が来た」

「図々しい、よくこれたな」

あたしは、大勢のひとから指を差され、あたしの心は言葉の矢でゆっくり壊れていく。

「あんた、よくも、やってくれたわね」

小川先輩?

河野先輩と同じ、芸能活動をしている先輩が、あたしをにらみつけている。

「この子は、あたしの弟よ」

……小川先輩の弟?

「あたし、数日前にトオルのお腹にあざがあるのを見つけてたの。あの子、なにも言わないからずっと分からなかったけど、犯人はあんただったのね」

まるで、探偵映画の犯人を見つけ出した時と同じように、あたしを指さしてにらみつける。

「違います。あたしじゃない。あたしじゃない」

だけど、あたしの言う事なんか、誰も耳を傾けない。

「やっぱり悪魔だ」

その場にいた大勢の内のだれかの言葉が、あたしの心を貫いた。

力が抜けて、その場で膝から崩れてしまった。

あたしじゃないのに。

誰か、誰かたすけて。お願い。

その時だ。

その時だ。

「ピンポンパンポーン」

突然、校内アナウンスが流れた。

「全校生徒の皆さん。おはようございます。 緊急臨時ニュースを送りますので、在校生は、速やかに講堂へお集まりください」

「臨時ニュース?」

「なんだろ?」

その場にいたみんなが全員、講堂へ向かった。




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