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第34回 ネックレス

 神山の兄が以前店に来たときに、神山は兄の結婚相手が幼なじみだと言っていた。

 なんですぐに気がつかなかったのだろう。その人が神山の幼なじみであるということに。



 年が明けた。しばらくの冬休みの後、パン屋はまた営業を開始する。久しぶりの開店ということもあってか、店は繁盛した。

 また、私は知らなかったことだが、去年の平日の秋に雑誌の取材が来たらしい。私は書店でそれを確認し、なかなか大きく取り上げてもらったことを知った。その影響も今ここに出ているのかもしれない。

 冬に限定品として出しているのが、きのこグラタンというパンだ。筒型のパンを等間隔で切り、その上にきのこグラタン用の生地を乗せていく。あとはそれを焼き上げて完成。きのこが嫌いな人以外にはとてもウケがよかった。



 昼近くに焼き上がった明太フランスにパセリを振りかけていると、店のほうから笑い声が聞こえてきた。不思議に思って私は厨房から顔を出すと、

「あっ、宮崎さん」

 武藤や神山の友達の小塚だった。約1年ぶりに会うことになる。

「小塚君!久しぶりー」

「今日バイトが休みでさー、ちょっとお邪魔しに」

「えー」

 私がクスクス笑うと、小塚も人懐っこく笑った。それから、なにかを思い出したかのように、

「そうだ。宮崎さん、今日バイトが終わったら用事ある?」

「特にないけど・・・」

「じゃぁ、3人で飲みに行かない?近くにおいしい店ができたんだ」

 3人というのは、小塚と私と神山のことを指しているらしかった。なかなかないメンバーで面白いかもしれないと考え、私は行くと承諾した。


            ◇


 飲み会の趣旨(しゅし)を知ったのは、店に入り、いざ乾杯をするときだった。

「さて。今日は神山の誕生日ということで、ささやかですが―――」

「え?誕生日なの?」

 場の空気を全く読まない私は思わず声を出してしまった。目の前の神山を見ると、彼は無表情で頷いた。

「ご、ごめん。知らなかった・・・・」

「ううん。おれも言ってなかったしね」

 知らなかったにしても他に言い方があるだろうと、すぐに私は後悔した。

 場を取り直すように、小塚が続ける。

「とにかくカンパーイ!!」

 3人のグラスが音を立てて重なった。



「やっぱり潰れたなー」

 まるでわかっていたかのような小塚の言い方に、私はへーと思った・・・・・・1時間後、神山が目の前で顔を赤くして寝ているのだ。

「お酒弱いからな。昔から」

 昔って・・・一体いつからお酒を飲んでいるのだろうか。たった今成人になったばかりのような気もするが。ちなみに、同じくらい小塚の顔も赤かく、ピンピンしているのは私だけのようだった。

「顔に出ないのが羨ましいよ」

「家族みんなお酒に強かったから・・・遺伝かな」

(遺伝って・・・そういえば前に)

 神山が以前言っていたことを思い出す。兄が遺伝的なもので病気だった・・・みたいなことを言っていたが、ひょっとしたらそれは弟である神山自身にも起こりうることではないのだろうか。

「ねぇ、神山君って・・・お兄さん――」

 言いかけてやめた。小塚が不思議そうにこっちを見ていたが、私はなんでもないと首を振ってごまかす。本当にこれはプライバシーの問題だ。私が知ったところで、なんの解決策にもならない。



「お兄さんって言えばさ・・・神山の兄貴、もうすぐ結婚するよな」

 小塚がはしで神山の頭をつつきながら呟く。彼も相当酔っているのかもしれない。

「う、うん・・・そうだね」

「結婚相手はこいつの幼なじみでさ、昔っから好きだったみたいなんだよね」

 知ってる。私は頷く。

「その子の大切にしてたネックレスがあるんだけど、彼女昔なくしたことがあるみたいでさ、必死になって神山が探してたんだ。朝から晩まで学校さぼって探してて・・・結局見つけたはいいんだけど、なんか変な所にあったみたいで、神山の背じゃ届かなかったんだって」

「それで・・・どうしたの?」

「兄貴呼んだら一発で取れたんだってさ。それからは彼女は兄貴に落ちたとか」

 ははっと小塚は笑う。その笑い方はバカにしているわけでもなく、心底おかしそうな笑い方でもなかった。なんていうか、とても寂しそうな・・・

「バカだよなぁ・・・・見つけたのはおれだって素直に言えばいいのにさー・・・兄貴に花持たせちゃって」

「・・・・・そうだったんだ」

「うん。でも神山らしいな・・・・そういうトコ武藤と似てる。そういう奴はおれみたいな軽そうな男と友達やってると、いろいろ中和されてちょうどよくなるんだよ」

 胸の奥が熱くなった。小塚の言葉にも、神山の昔のことにもも、なんだかとても苦しくて、とても寂しくて、とても温かくて――



 そのうち小塚が寝てしまうと、入れ違いに神山が目を覚ました。酔うのもあっという間だが、酔いが醒めるのも早いらしい。

「おはよー。起きたね」

「聞いちゃったか・・・」

 なにについて言われているのかわかった。私は少し迷ったが、こくんと頷いた。

「起きてたの?」

「寝てなかったから。眠かったけど」

「ごめん・・・」

「ううん。小塚もわかってて言ったんだと思うし。じゃなきゃあんなにつつかないでしょ。起きるって・・・っていうか、なさけないなぁ、おれって――かっこわるくて笑っちゃうよね」

 頭をさすり、逆に小塚の頭をはしでつつく。うーんと唸っているが、その目が開く様子はない。本当に寝ているようだ。

 私はぶんぶんと首を振るが、言葉が出てこなかった。



 ふと私は考えた。

「みんないい人だね」

「え?いい人?」

「うん。武藤君が帰ってきたらまた3人で集まってみなよ。あ、もしかしたら小塚君と武藤君でお店に来てくれるかもよ」

「・・・どうだろうね・・・実際おれはあとちょっとでバイト終わりだし」

(え―――)

 初めて聞く言葉に、私は固まってしまった。

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