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第33回 幼なじみ

 クリスマスイブ。特に予定がない私は寂しい思いをしながら町を歩く。行き交う人々は気のせいかカップルが多い。みんな人目を気にせずにいちゃいちゃしやがって・・・

(彼氏か・・・いいなぁ)

 とは思うのだが、告白なんて勇気がなくてできなかった。そんなうじうじした性格だから今まで彼氏ができなかったということに気づいてはいたのだが。このままできなかったら本当にどうしよう。



 ふと顔を上げると、見たことのある人物が目に入った。人混みで見失いそうだったが、その人物がこっちを見たので、思わず声を出してしまった。

「神山君!」

「え――宮崎さん?」

 意外そうな顔で目を丸くさせる神山。その隣に女の人がいるということに気づいてから、声をかけたことを後悔した。

「びっくりした。もう大学は終わったんだね」

「あ、うん。ちょっと用事があって・・・」

 クリスマスイブに一緒にいる女の人なんて彼女の可能性が高い。なるべく邪魔をしないようにその場を後にしようと考えたが、真正面から隣にいる彼女と目が合ってしまったので困ってしまった。



「もしかして、前に言ってたバイトの方?」

 彼女が神山に訊ねると、彼はうんと頷いた。

「あっ!私、清水まゆっていいます。直樹とは小学校のときからの友達なんです!」

「・・・っと、バイト先が同じの宮崎雪乃です」

「うわぁぁ・・・やっと会えたー!よろしくお願いします!」

 なんだか反応が違うような気がする。普通彼氏の目の前に女が現れたら誰だと思うものではないだろうか。ある予感が浮かんできた。

「直樹の彼女さんですよね?会えて嬉しいです!」

(違いますよ・・・勘違いです)

 案の定、どうやら私を神山の彼女だと勘違いしているのだ。

「違いますよ!バイトが同じだけだよね?」

 念を押すように神山を見ると、いつものように表情の乏しい顔でうんと頷く。なんとなく神山を不憫に思えてきた。私にはわかった。神山の好きな人が、この幼なじみであるということを。



 その後、どういう流れなのかわからないが、私たちは一緒に夕食を食べることになった。入ったのはショッピングモールのレストラン街。クリスマスイブだからなのか店内は混んでいた。

「すみません・・・なんか私までお邪魔しちゃって」

「ううん!大勢のほうが楽しいじゃないですか!」

 明るくて優しくてかわいい人だ。こういう人を神山は好きだったんだと私は興味を持った。2人の買い物にお邪魔した身だが、いろいろと聞いてみたくなった。

「あの、神山君って昔どんな感じだったんですか?」

 私の質問に、水を飲んでいた神山は噴き出しそうになっていた。

「昔っからこーんな感じ。なにも考えてなさそうなのに、頭はいいんだよねー。知ってる?医学部行ってるって」

「あ、一応」

「ほんと羨ましいよ。高校のときなんてね、期末テストのときとか―――あっ・・・こんなところで内輪話しちゃだめだね」

「プライバシーだよ」

 ようやく神山が呟く。その苦々しそうな表情が見ていて面白かった。



 しばらくして料理が到着するまで、私たちはいろいろな話で盛り上がった。その間ほとんど神山は喋らない。私はお邪魔していることも忘れて笑いまくった。

 話しているうちに、まゆとは年が近いことに気づき、自然と敬語を使わなくなった。

「――そのネックレスかわいいね」

 まゆの首に光る小さなネックレスを指して言うと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。ネックレスに手を添え、大事に扱う。

「昔、お母さんが誕生日プレゼントに買ってくれたものなの。私の宝物なんだ」

「へー・・・そうなんだ」

 よく見ると、それは小さなハートのついたネックレスだった。私も新しいものがほしいなと思いながら見ていると、

「1回これをなくしちゃったことがあって・・・」

「え・・・」

「それからは肌身離さず身につけてるの」

「そっか。なくしたらショックだもんね」

 何気なく会話していたが、このときの神山の表情を私は見ていなかった。私はなにも知らずに他人の領域にまで踏み込んでしまった。


            ◇


「じゃあね!ちゃんと送ってってあげなよ!」

 食事を終えると、まゆは用事があると言ってその場で解散になってしまった。今さらになって私はようやく自分の立場を思い出した。

「ごめん・・・早く行ってあげて。私は自転車だから大丈夫だよ」

「うん。でも本当に用事があるから」

 なんでもないことのように言うが、ますます私は肩身の狭い気持ちになった。

(なにやってるんだろう・・・いくらクリスマスイブで寂しかったからっていって、デート中の男女を邪魔しちゃったなんて)

 つきあってはないらしいが、神山が彼女を好きなことくらい見ていればわかる。それだけに申し訳なかった。

「ごめん・・・」

 しかも、その好きな人に誤解までされたのだ。だんだん不憫(ふびん)に思えてきた。

「家どのへんだっけ?送ってくよ」

「すいません」



 2人で歩く道。大通りは車通りが激しかったが、住宅街に入ると急にしんと静かになった。私のブーツの足音がやたら大きく闇に響く。

「今日クリスマスイブなんだよね」

 ふと思いついて呟く。隣の神山も白い息を吐いて「そうだね」と答えた。

「サンタさんは来そう?」

 冗談で訊くと、神山は真剣に悩んでくれた。そして、

「来るといいけどね。いい子にしてなかったから来ないかもしんない」

「はは。私も一緒」

「でも兄貴にはクリスマスよりも前に来たかな。来年結婚だし、めっちゃ元気になれたから」

 神山の兄が病気でパン屋になれなかったことは知っている。私は頭の中で言葉を考えた。

「もう大丈夫なんだよね?」

「兄貴?うん。遺伝的なものなんだけど、もう健康そのものらしいよ」

「よかった・・・結婚式が楽しみだね!」

 心から祝福したい――そう思った。そして、そんなテンションのまま私は神山にこう言ってしまった。私は後でものすごく後悔することになる言葉・・・

「神山君もいつかまゆさんとそうなったら、絶対式には呼んでよね」


「―――まゆは兄貴の結婚相手だよ―――」

もうすぐ最終回になります。

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