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第30回 お金がない


今回は大学生らしい心境のお話です。



 パン屋でバイトをしているが、1人暮らしの私にとってはそれだけでは足りないときもある。例えば今月はギリギリの生活を送っていて、たとえ目の前にかわいい服があったとしても絶対に手を出してはいけない―――のに。

(やばい・・・これかわいいよー)

 菜月と一緒にショッピングモールを買い物中の出来事。持ち合わせ金額4千円と少し。給料日まで残り1週間だ。

(買っちゃう?でもこれ買っちゃったら他になにも買えなくなるし・・・だいたいごはんとかどうすればいいのよ。やめよ)

 1度はそう思った。しかし、本当に私好みの服だ。値段は39800(サンキューッパー)。買えなくもない値段だが、給料日までの日数を残りの金額で生活するには少々きつすぎる。

「雪乃、ほしいものあったの?」

「え、あ・・うん。かわいいなって思ったんだけど」

「ほんとだ!かわいいじゃん。雪乃に合いそう」

「でも・・・・今月は―――無理!あきらめる」

 後ろ髪を引かれるが、その場を後にしようとする。しかし、菜月が一言。

「給料って次いつ入るの?」

「一週間後だよ」

「じゃあそのときにまた買えばいいんじゃない?」

「そうだね!」

 急にテンションが上がる。そうだ、今日が無理なら給料が入ったら買えばいいんだ!と、そのときは思ったが、

「でも1週間以内になくなっちゃうかもね」



 で、結局買ってしまった自分がいた。

(だってこれすっごくかわいいんだもん――誰かに買われちゃうくらいなら、無理してでもゲットだ!)

 試着もせずに買ったものだが、見事に私の体にフィットする。鏡を見てみた。我ながらかわいいかもしれない。

(これ着て明日のバイトに行ってみようかな)

 いつもと雰囲気が違う服でバイト。なんだかとても楽しみだった。


            ◇


「おはようございまーす!」

 元気よく挨拶をすると、すぐ近くにいた由良が笑顔で挨拶を返してくれた。

「おはよう!あれ?その服新しい?」

「はい。そうなんです!すごくかわいかったんで、昨日買っちゃいました」

「ほんとーかわいい」

 そう言ってもらえてとても嬉しかった。私は気をよくして、後藤にも神山にも元気よく挨拶をした。2人とも私が元気なことに驚いていたようだが、もちろん服については気づかなかった。



 しかし、すぐに失敗したと気づいた。パン屋でのバイトは粉の飛び交う中でのバイトだ。下手をすると、ジーパンなどに白い粉がついていることも少なくない。そして、それは新しく買った服も例外ではなかった。

「ああ・・・・粉がこんなにー・・・」

 洗えばとれるだろうが、それでもショックだった。なんたって昨日買ったばかりの新しくてかわいい服だ。なにより、有り金はたいて買ったものなのに―――



「どうしました?雪乃さん」

 バイト終了後、着替えの部屋で落ちこんでいると、心配してくれた後藤が声をかけてくれた。私は慌てて笑顔を作る。

「いえ。なんでもないんです」

 まさか新しい服が汚れたからだとは言えない。だったら着てくるなという話だ。

「でも顔色がよくないですよ」

「え?そうですか?」

 意外な指摘に私は目をぱちくりとさせる。

「今日は早めに寝てくださいね」

「はい。そうします」


            ◇


 翌日、後藤の心配したことが的中した。

(体だるっ)

 思うように体が動かない。目の前がくらくらし、力が入らない。気力がなくなった。しかし、今日もバイトがあるため行かなければならない。

 昨日と違ってどうでもいい服を着て、バイト先まで向かった。



「おはようございます・・・・・」

「おはよー・・・どうしたの、ゆきちゃん。なんか死にそうだよ?」

 由良が怪訝(けげん)そうに訊ねる。

「大丈夫です。根性でがんばります」

 原因はわかっている。服を買ったせいで、1週間倹約生活を送っているのだ。まだ冷蔵庫にはいろいろと残っていたが、朝ごはんを抜いたり、極端に量を減らしているために、どうも力が入らないのだ。

 水を飲めばなんとか空腹がごまかせるので、飲みまくる。おかげで水っ腹だ。



「もしかしてダイエットでもしてんの?」

「そういうわけじゃないんですけど・・・」

 私は口ごもる。しかし、由良にじっと見られ、正直に話すことにした。

「昨日の服を買っちゃって―――もうお金がないんです」

「ははは!そういうことかー!」

 豪快に笑われ、私は思わず赤面してしまう。このことが後藤や神山に知れたら恥ずかしすぎる。それを察したのか、「大丈夫大丈夫」だと由良は手を振って笑う。

「これ援助したげる」

 渡されたのは焼いたばかりの小さなあんぱんだった。空腹の私にはそれが涙が出るほど嬉しかった。

「由良さんー・・・ありがとうございます―――」

「もー、ゆきちゃーん・・・泣くなよー」

「今の私には本当に嬉しいんです。ありがとうございます!今度お礼します」

「――――じゃあ1つ貸しにしとこうかな」

 この由良の言葉は、後に実現されることになる。予想していなかった、とても意外な形で。

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