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第15回 雑誌の取材

 11月。夏場は忙しくなかったパン屋も冬になるとシーズンを迎える。バイトに入ってきて1番の忙しさというものを私は体験することになる。

 トレーがない。トングがない。それらを店に出さなければならないのに、焼きあがったパンも次から次へと出てくる。だけど、目の前でレジに並ぶお客さんを待たせるわけにはいかない。とか思っていたら、予約のお客さんが来たり・・・・・とにかく忙しい。

 そんなときに舞い込んできた1つのニュース。

「雑誌?」

「はい。パン屋の特集を組むそうで、うちもどうかと電話があったんですよ。ちょうどいい機会だし、無料で行ってくださるのでお受けしました」

「へーすごい!雑誌に載るんですね!」

 ちなみに、普段は店側から雑誌に電話して、お金を払って載せてもらうことが多いらしい。たまに特集を組んだり、パン屋だけの本だとこうやって向こうから電話がかかってくるそうだ。そういった事情を知らなくて、私は感心してしまった。

 雑誌に載る・・・後藤や由良の作ったパンを全国のみんなに知ってもらうチャンスだ。

「楽しみですね!」

 取材の日を私は心待ちにした。


            ◇


 そして11月の中旬。開店時間よりも前なのに、いつもより焼きあがっているパンが多い。たぶん取材のために急いだのだろう。店内の写真を撮るだろうから、それなりにパンがないと困る。

 普段よりも早く来た由良が冬なのに暑そうな顔で厨房から出てきた。

「やー・・・カメラとかが来ると思うと、いつもより気合入っちゃうね」

「そうですよね。私関係ないのになんだかどきどきしてきましたよ」

 今回撮るのは店内の写真と、いくつかピックアップしたパン。それから、簡単に店長の後藤にインタビューをするそうだ。

「きっと店長の素性とか、開店当時のこととか聞くんじゃない?」

「それなら由良さんだって聞かれるかもしれませんよ」

「うーん・・・パンのことは答えられるけど、開店のときのことは無理だなぁ。そのときはいなかったし」

 そう言って肩をコキコキと鳴らしながらまた厨房へと戻っていく。

(ってことは、由良さんは開店当時のメンバーじゃなかったんだ)

 そうなると、後藤は他の人と一緒にパンを焼いていたのだろうか。そのときに武藤がいたかどうかはわからない。後で聞いてみようと思ったとき、店の前に黒い車が停まった。一目見ただけで、それが取材の車だとわかった。



「おはようございます」

 入ってきたのはショートカットの女性と、逆にロングヘアーの男性の2人組みだった。2人とも冬だというのに薄着で驚いた。男性のほうは腕まくりをして持ってきたカメラの脚立を組み立てていく。

「はじめまして。私、『オンリーワンだふる』編集部の竹田といいます」

 その言葉の途中で奥から後藤が出てきた。彼は柔らかい笑顔で彼女を迎えた。

「店長の後藤です。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

 竹田という女性は(ふところ)から取り出した名刺を後藤に渡す。

「早速ですが、店内の写真といくつかパンを撮らせていただきます」

 竹田は男性に指示を出し、とりあえず店内の写真から撮るようにしたようだ。



 写真撮影中、私は邪魔にならないように店の隅で予約の人のパンを確認していた。それと同時に、編集部2人の行動を見ていた。

(写真撮るのにあんなに時間がかかるんだぁ・・・)

 別にけなして言っているわけではない。プロだと感心しているのだ。カメラのことは詳しくないが、ピントとかアングルとかいろいろあるのだろう。きっと1番いい条件で撮ってくれるのがプロなんだ。

「さっきから手が止まってますよ」

 ぎろりと武藤に睨まれ、私は慌てて今やるべきことを把握する。もう予約の準備はできたから、厨房からトレーを持ってこようと小走りになる。



 厨房では後藤のインタビューが行われていた。いや、正確には後藤はパンを作りながら答えていて、竹田がその邪魔をしないように配慮しながら質問をしているという感じだ。

「――学校を卒業してからはホテルでパンの製造をしていました。そこでパティシエの経験も積みましたね。自分の店を持とうと思ったのは3年前です。知人や従業員の人たちと協力して2年前に持つことができました」

(へーそうなんだ)

 心の中で相槌を打ちながら私はトレーを持ち上げる。

「お1人で作られてるんですか?」

 メモをしながら竹田が訊ねる。

「いえ。現在は同じホテルで働いていた女性に手伝ってもらい、分担して作っています」

(えっ?由良さんって前はホテルで働いてたんだ)



「そうだよ」

 私の声が聞こえたのか、すぐ後ろにお手洗いから出てきた由良が立っていた。びっくりして思わず大声を上げてしまうところだった。

「だから、私も店長も基本的に同じ作り方してるの」

「あの・・・なんでホテル辞めちゃったんですか」

「前の旦那に反対されてね辞めちゃった・・・・・でもやっぱりやりたくて・・・たまたまここに入ったら募集してたの。ブランクあったけど、それでもいいからって店長が言ってくれたんだ」

 照れくさそうに由良は微笑む。

「それが1年半前の話。そのときにはもう猛君いたんだよ。本人から聞いたわけじゃないけど、たぶん開店当初からいたと思うよ」

 ということは、後藤の言っていた従業員とは武藤のことなのかもしれない。じゃあ・・・知人って―――?



 取材はすぐに終了した。カメラも無事に撮り終えたらしく、竹田とロングヘアーの男性はお礼を言って帰っていく。この記事は2ヶ月後に掲載される予定らしい。それを店宛に送ってくれるそうだ。私は発売と同時に本屋へ買いに行くことを決めた。

 自分の働いているパン屋が雑誌に載ることはとても嬉しい。私はうきうき気分と、少しだけもやもや感を抱いてパン屋のドアに『OPEN』という看板を立てた。

頭でっかちな話になりましたね。

反省してます;;

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