俺の妹はツンデレらしいが、そんなこと言われても困る ~今さら告白されてももう遅いって! 今までの関係がそう簡単に変わるわけがない!~
「……なんで、いるのよ!」
俺が廊下に出ると、義妹の仁奈と鉢合わせてしまった。
「わ、悪い」
「あたし、寝起きなの! こっち見ないで!」
「……あ、ああ」
仁奈は今にも泣きそうな顔で、廊下を駆けていき一階へと降りていった。
……やってしまった。
仁奈はどうにも寝起きの顔を見られたくないらしい。そのため、こうして朝とか鉢合わせするとそれだけで不機嫌になる。
だから、仁奈が起きるよりも早くにいつも活動しているんだけどなぁ。
今日は珍しく仁奈が早起きをしてしまっため、こうしてばったり会ってしまったわけだ。
仁奈は義母の娘さんだ。
三カ月ほど前に父親が再婚して、俺の義妹となった。
俺と仁奈の関係は今でこそ義妹であるが、元々は幼馴染だった。といっても、一緒だったのは小学校中学年くらいまでだが。
昔は、「宗にぃー」といって甘えてくる可愛い子だったんだがな。俺の名前が宗太だから、宗にぃ、と呼ばれていた。
まあ、仕方ないか。思春期に血のつながりがない同年代の男と一緒に暮らすというのは、それだけでストレスになるだろう。
そんなことを考えながら、俺は学校へと登校した。
「彼女を作りたい?」
俺は友人の明にそう説明をした。
明は、校内一のイケメンとも呼ばれるほどの男だ。見た目が整っているだけではなく、服装などにも気を配れる俺の友人にはもったいないほどの男だった。
「……仁奈がいるだろ?」
「ああ、そうだな。世界で一番幸運な男だよなおまえ。あんなカワイイ妹さんが出来るなんてよ!」
「いや、それはいいんだけどさ……。俺、全然仁奈と仲良くなくてさ」
「あー、確かに。いつもにらまれているよな?」
「そうなんだよ。でさ、考えたんだけど……ほら、俺って彼女とかいないオタクだろ? オタクってやっぱり奇異の目で見られることが多いだろ?」
「まあ、そうだよな。最近では多少減ってきたとはいえさ」
「仁奈からすれば同年代の血のつながりがない男と一つ屋根の下。それで、俺はまあどちらかといえば美少女アニメとかが好きなキモオタだろ? そんな奴と一緒だとそりゃストレスもたまるし、睨みたくもなるだろ? だから、せめてさ。彼女でも作れば仁奈も警戒しなくなると思ってな」
両親のためにも、俺は仁奈と仲良くしたかった。……義母さんも俺と仁奈の関係を心配してしまっているからだ。
「なるほど、な。それじゃあとりあえず、もう少し髪型整えて、服装も整えて……会話の話題も増やした方がいいな」
「そ、そうだよな」
「とりあえず、今晩。オレの姉さんの美容室予約しておいたよ。そこで髪と眉を整えようぜ」
「お、おうありがとな!」
「いいってことだ。オレも合コンメンバーに困らなくて済むしな」
「え、合コン? 高校生だぞ?」
「ま、合コンってほどじゃないけどさ。他校の女子とファミレスとかで普通に食事するだろ?」
「しないが!?」
「するっての。SNSとかで地元の同い年の人と連絡とるだろ? そのままオフ会、的な感じで遊びに行ったりするんだよ」
えぇ……リア充こわっ!
俺が明におびえていると、彼は肩を組んできた。
「他にもな、オレの彼女から男の紹介頼まれるんだわ。そういうわけで、気の合いそうな相手がいたら紹介してやるからな」
明がにかっと笑ってきた。
「あと、色々指導するからな? ちゃんとついてこいよ?」
「あ、ああ」
それから、明との地獄の訓練が始まった。
「背筋をピシッと伸ばせ!」
「会話をするときは表情筋も使え!」
「しっかり眉毛整えろ! あと髪も!」
「服はきちんとアイロンかけろ!」
「頭の先から爪の先までしっかり! 爪を伸ばしすぎるな! 靴が汚れている!」
「声の調子を一定にしろ! いきなり早口になるな!」
「相手にへりくだりすぎるな! 自分の意思をしっかりと持て!」
そんなこんなで明との地獄のような日々が始まった。
いきなりデートをするのは大変なので、明のお姉さんに協力してもらったり、他にも明の友人とか後輩の女性に協力をしてもらっていた。
そして、一ヵ月が過ぎた俺は、一ヵ月前と比べればかなりマシになっただろう。
「あっ、先輩おはようございまーす」
「ああ、おはよう」
俺は今日待ち合わせをしていた女性――神崎彩菜と合流していた。
彼は明のお姉さんの後輩であり、面白そうだからと俺の恋人作るための特訓に付き合ってくれている女性だ。
今日も彼女は全身ばちっと今風の格好に決めている。彩菜は、俺の隣に並ぶと腕を組んできた。
……初めはこれにかなり緊張したが、今は多少慣れている。
「それじゃ、先輩。映画見にいきましょう!」
「ああ、今流行りのアニメで良かったよな?」
「はい!」
彩菜は見た目こそイケイケなのだが、結構なオタクだった。俺の練習相手としては、このくらいは悪くない。
「ほら、先輩。背筋曲がってますよー」
そういって俺の背中を撫でてくる。
いきなり背中を撫でられ、びくりとする。まだ意識外からの一撃をもらうと緊張してしまう。
「びくってしたー。やっぱり先輩カワイイですねー」
「か、からかうなっての」
にこにこと楽しそうに笑う彩菜。俺は背筋を伸ばし、軽く息を吐いた。
……彼女に合わせて笑顔を浮かべつつ、いつものようにデートをしていた時だった。
「え?」
驚いたような声がやけに耳に残った。
その聞きなれた声に反応して、俺がそちらを見ると――そこには仁奈がいた。
な、なんでここに?
「先輩、どうしたんですか?」
彩菜が俺の腕を掴んだまま、同じように振り返った。
その時だった。
「……確か、義妹さんですか?」
「ああ、そうだ」
一度彩菜には義妹がいると話をして、写真を見せたことがあった。
と、仁奈はこちらへとずんずん歩いてきた。
仁奈は俺たちの前で足を止めると、いつもの鋭い目を浮かべる。そして、僅かに目尻に涙をためた。
「宗にぃ? そ、その女は誰なのよ!?」
「あーっと彼女は――」
「か、彼女!?」
いや、そういう意味ではなくて。仁奈が驚いたように声をあげ、俺が否定しようとしたときだった。
彩菜がぎゅっと俺の腕を抱きしめてくる。柔らかな胸が押し付けられ、俺は思わず声をあげそうになる。
「どうも! 神崎彩菜と申します! お兄さんの恋人させてもらっていまーす!」
いや違うだろ!? あくまで俺の師匠の一人なだけであって――。
しかし、俺が何かを言おうとするたび、彼女は胸をぎゅぎゅっと押し付けて、俺を動揺させにくる。
次の瞬間、仁奈が目を見開き、俺と彩菜を見比べていた。
「……そ、宗にぃ。ほ、本当に付き合ってるの?」
仁奈は、涙をぽろぽろと流していく。
「ど、どうしたんだよ!?」
彼女のそんな姿、今までに見たことがなかったため、驚いてしまう。
俺が問いかけると、仁奈はいつもの強気な視線でこちらを見て、
「だ、だってぇ……わ、私だって宗にぃのこと、好きなのにぃぃぃ!!」
「はああ!? ちょっと待て!?」
そんな恥ずかしい大絶叫を残し、仁奈が走り去る。
いきなりの告白に訳が分からなかった。しかし、仁奈を追いかけなければと思っていた時だった。
ぎゅっと彩菜が腕をつかんできた。
「先輩。彼女を置いてどこに行くんですか?」
「い、いや仁奈が泣いていたから……それに俺とおまえ、別に本当に付き合っているわけじゃ――」
「だからって……他の女のところに行かれたくはないです……っ」
彩菜が不服そうに腕をつかんで離さない。
に、仁奈……。
今さら告白されても、もう遅いって! どうしたらいいんだよ!
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