鉱山の戦い決着
意識が飛びそうになる…
目の前の空間が砂漠の蜃気楼のように蠢めいていて、通常では考えられない熱量を発している…
周囲の建物が全壊し多数の死傷者を出している…
一瞬の出来事だった…
竜人が大剣を掲げると大剣に周囲の酸素が集積されていく…
応援に駆けつけた兵士達が一斉に飛び掛かるが、急に動きが鈍くなったように見えた…
息苦しくなる…
「皆の者!放れろっ!ヤバイぞ!」
何処かで師匠の声が聞こえた…
とっさに、開けていない魔法障壁のスクロールに魔力を流す…さらに全身に魔力を巡らし、日緋色金の力を使い自身を強化し魔剣を地面に突き立て地面を隆起させる…
「もってくれ…!」
目の前に太陽が出現したように、強い発光を放ち周囲を呑み込んでゆく…
里に二度目の大爆発音が響く…
くらくらする頭を振って、手で頭を叩くと意識が鮮明に戻ってくる…
耳鳴りを堪えながら、周囲を見渡す…
「…………………」
「くそぉ…」
魔剣を突き立て、立ち上がる…
爆発の中心に竜人が立っている…
「あれで、生きてる奴がいるか…」
竜人が大剣を肩に担ぎシアに向かって歩き始める…
「死ねっ!」
竜人が大剣を大きく振りかぶるとシアに向かって、振り抜く…
竜人の前を影が横切るとシアに取りつき押し倒す。
竜人の大剣が空を切る…
「ウーちゃん、癒しをシアさんに」
ユアンナがウルマに癒しの行使を要求する…
「不愉快だ…」
竜人が呟くと、大剣を抱え直しユアンナとシアに近づく…
「させません…よ」
プラムが立ちはだかる…くるりと神槍を一回転さして竜人に突きを繰り出すと竜人が大剣で防ぐ…
プラムが示し合わしたように目で合図をおくるとオニキスとモルスが左右から最高速で斬撃を繰り出し駆け抜ける…
「ぐっ、なんて硬さだ…」
「次元が違うぞ…」
オニキスとモルスが振り返り魔剣を構える…
「息苦しく…ないか…」
「恐らく高圧酸素だ…深く吸うなよ、次第に元通りになっていくから…我慢だ…」
プラムが竜人と交戦状態だ…
プラムの繰り出す突きを竜人が大剣を使わず手で弾いている。
そこにオニキス、モルスが加り斬り付けるが竜人が微動だにもせず身体の鱗で受け止める…
竜人が尾を縦横無尽に鞭のよう振るうと、オニキスとモルスが吹き飛ばされる…
二人が瓦礫に激突する…
「弱い弱い弱い弱い…」
竜人が呟くと大剣を軽々と打ち込んでくる…
「黒うさ君、モルちゃん…くっぅ…!」
竜人に善戦しているプラムの均衡が崩れてくる…
「古きに創造されし指輪よ全ての力を我に解放せよ!凍てつく眼差しで心臓に爪を刻め、忘れる事無き氷の墓標…絶対零度」
ウルマが魔法の指輪から魔力を引き出し上級の氷系呪文を放つと竜人の回りの空気が静寂を放ち竜人を凍らしてゆく…
「プラムちゃん!」
ウルマが叫ぶ。
プラムが集中し魔力を神槍に巡らす…
「命を賭して勇敢に戦う戦士よ、あなたの為に舞い降りヘルギの歌を歌いましょう…
勇気と使命、親愛と慈愛を…秩序の槍で貫けっ…」
氷漬けの竜人に神槍最大級の一撃を叩き込むと竜人の氷が砕けちり吹き飛び幾つもの瓦礫と衝突して止まる…
「最近はよく凍らされおるわ…」
血だらけの竜人が起き上がりプラムを睨む…
「その槍には見覚えがあるぞ!あの女の槍か!違う奴が持ってるとはな…あの女は死に負ったか?
んっ!もしやお前たちは、あの女が持ち出した石かっ!」
竜人に一瞬で距離を詰めるとユアンナが短槍を肩に突き刺す…続けて腰のミスリルの小剣を抜き放ち胸に突き刺す…
「ちょろちょろと、小うるさいわー」
竜人がユアンナの肩を掴むと瓦礫に向かって、投げつける…
ユアンナが受け身をとって衝撃を和らげる。
「痛っ…オニちゃん借りるよ」
近くに倒れいるオニキスから魔剣を借りると魔剣の柄に取り付けられた宝石を地面に叩きつける…
「ごめん、オニちゃん」
ユアンナが大きく深呼吸しブーツの具合を確かめ直すと、竜人を睨み付ける…
ユアンナを禍々しい魔力が包んでゆく…
一瞬で距離を詰めると竜人を切り上げる…
「グゥ…紅水晶を持つものだな…シンプルだけに、やっかいな奴だ」
「よくしゃべるうるさいトカゲ…」
ユアンナが魔剣で竜人の大剣と打ち合う…
重量差でユアンナが吹き飛ばされる…
「モルちゃん…少し借りるよ」
モルスの魔剣を左手で掴むと2本の魔剣で、竜人に挑む…
右手の魔剣で打ち付け大剣で防がれると、左手の魔剣で切り上げる…
既に、打ち合い続けてユアンナも満身創痍だ…
「てこずらせおって…」
竜人の大剣の一撃をユアンナが2本の魔剣で防ぐが意識を借りとるには十分過ぎた。
「すまぬな、遅くなってしまった…」
金色髪の狼人種クリムトがユアンナの前で竜人を立ち塞ぐ…最初の爆風に巻き込まれたのだ、身体強化金色化で最低限のダメージですませたが、重症レベルだ…
「竜人よ手合わせ願おうか…」
クリムトが長剣を抜くと竜人と即打ち合いになる…
斬り付け、振り下ろし、突きを全て受け止める…
「金色化…」
一気に勝負を決める筈であったが既に数時間打ち合っている…
ここまでか…
「手負いの竜人よ痛み分けにしないか?」
「そうだな…私も血を流しすぎた…しかし、仕事はさしてもらうぞ…」
竜人が要石目掛けて大剣を投合すると音を立てて崩れる…
「なかなか楽しめたぞ…」
竜人が転移魔法を使ったのか姿が消える。
「完敗だな…」
薄暗い空の下…半壊した里を燻る炎…焼け焦げた塵が絶え間無く舞い上がっていた…




