白瑪瑙2
辺りを見渡せば、旅装の者が多い…
街道の筈なのに道を挟んで露店が並んでいる…
一部の閉鎖が解除されているといってたっけ…
揺れる馬車の中から外を眺めると、王都で過ごした短い時間を懐かしむ…
「………でも、行かないと」
懐かしんでるわけじゃない…惜しかった…
やらないといけない事があれば優先してこなす、集落ではそうやって育った…
王都を出発して丸1日…
小さな宿場町と行った感じかな、王都に来る時は全然気付かなかった、そっかあの時はオニキスも、わたしも倒れていたのか。
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ゆっくり走っていた馬車が急停止すると同時に、対面で座って寝ていた、モルちゃんが呟いた…
「敵襲だ…」
モルちゃんがゆっくり目をあけると、武器を手に取る。
窓の外から、もう一度確認すると街道の向こう側に砂塵が舞っているの見えた。
魔物の群れが此方に向かってくる。
数にして30体ほどの小鬼だ、中には狼に騎乗した小鬼が数体確認できた。
カンカンカンカン
緊急時の警鐘が響き渡る。
「敵襲ーっ!」
一気に宿場町に緊張が走ると、自警団の人間や冒険者達が戦闘準備に、はいっている。
御者をしている特務隊のお姉さんが、馬車を道脇に巧みに寄せ止める。
腰に携えている2本の剣を確かめ御者席から飛び降り一声かけると駆け出していった。
「お前達はここにいろっ!」
猫人種特有の、しなやかな無駄の無い動きでゆき惑う人達をすり抜けていく。
続いて御者席にいたアンナちゃんも飛び降りると後を追うように駆け出す。
「ちょっといってくる!」
一連の動作が速く、一瞬で見えなくなった。
「わたしたちも…」
「大丈夫、任せた方が良い…」
モルちゃんの眼には未来視が見える…
わたしも魔力を紡ぐと、色々な情報が伝わってくる…自警団、冒険者達の数、魔物の数、今まで、こんなに受信出来たことがない。明確に誰かには見えているのだ…
考えるまでもなく、モルちゃんだ…
未来視、加えて千里眼?
一部の冒険者と足の速い敵、狼に騎乗した小鬼が戦闘に入った。
冒険者がすれ違い様に横凪の一撃を放つが跳躍され回避されると思いきや、猫人の特務隊員が跳躍し、狼に騎乗した小鬼の首を一撃で切り飛ばす…
主を失った狼が一瞬停止すると、アンナちゃんが狼の喉に一撃を加え絶命させる…
おそらく戦闘に入った時の連携を予め決めているんだと思う。
30体の魔物が瞬く間に減っていく…
自警団や冒険者の活躍さることながら、猫人の特務隊員とアンナちゃんが強すぎるんだ…
シアさんやハルさんと同等の力を持っている…アンナちゃんの強さには驚た…
「うそ…」
「ほんとだよ…」
モルちゃんが納得したように応える…
「能力の解放だよ、きっと…きっかけは昨日だアンナちゃんと似てる感じのハルさんだっけ?…普通はあり得ないと思う、同系統なだけで、ここまでアンナちゃんが強くなるとは考えにくい、他の者の存在…恐らく、ボクかウルマちゃん…ボクの眼にそんな力が有るかというとどうだろうか?ウルマちゃんの受信記録が一番可能性が高い…能力を記録したときの副産物…もしかしたら過去に、いや最近?、何かの能力を記録していたのかも知れない…」
わたしは考えたモルちゃんの話は妥当だと思う…
アンナちゃんの強さは恐らく無意識に発動されている、どちらかと言うと感覚に近い…
力や能力の引き継ぎ、譲渡は難しいと思われる本人達の意志が重要だ…
自分で今引っ掛かった言葉が出てきた…
…譲渡!?
以前スクロールを使ってオニキスに血を分け与えた…
考えられるなら、ハルさんの経験や体捌きを受信した私を通して受信可能な存在アンナちゃんに譲渡能力を持って経験や体捌きが記録された…?
仮説だ…
「終わったようだね」
モルちゃんが、そう言いながら街道向こうを
見ると、猫人の特務隊員とアンナちゃんが此方に向かって帰ってくる…
二人とも怪我は無さそうで、胸を撫で下ろした…