終話 勇者の存在しない…この世界で…
草原に吹き込む風が以前より澄み渡っている…
約半年前ここで繰り広げられた戦いの爪痕は痛々しさが今だに残されており献花台に花が絶えない…
発表された戦死者は56730人…これ以前の魔物の大量発生を追加すると約70000人規模に膨れ上がる。
この数字は低いのか高いのかは、後々の文化人達が決めるのか…
王国特務隊の調査によると滅ぼされた小国家や都市が幾つか存在しているらしい、十分な戦力を有していない国程、被害が甚大であったと言える。
これを機に各国が軍備の増強を行い、門の解放に備える動きを見せている。
魔王国内部や王国内部に存在している門については解放事態が困難である為に物議を醸し出した。
街や城に魔物が出て良いわけがない…そこで学者や魔術師達は門を解放するために門より出現した魔物を転移させる魔方陣を敷いたのだ。
各国の武装強化に魔物の出現増加…
物々しい世界情勢である。
今僕は慰霊碑の前にいる。
『この苦難を我々は決して忘れてはいけない、世界の危機は回避された。
多大な犠牲を払い勝ち取った未来に我々は立っている。
ここに眠る勇者達の為にも我々はこの世界を守り抜こう。
勇者の存在しない、この世界を…』
「勇者の存在しない、この世界か…どういう意味なんだろ…」
真新しい慰霊碑には隙間なく散った勇者達の名が刻まれている…
頭上に影が掛かると空を白い竜が通過してゆく、騎乗の人影が大きく手を振り、何かを叫んでいたようだった…白い竜が大きく旋回すると目の前に降り立った。
白いフードマントの下には白い鱗鎧、竜に取り付けられた鞍より降りると竜の頭を撫でてからプラムが足早に近付いてくる。
「久しぶり、黒うさ君!」
久しぶりに見たプラムが以前より子供っぽさが抜けていた。
「久しぶりプラム、わざわざごめん迎えに来て貰って…5つ目の門の守護者はもう慣れた?」
5つ目の門は破壊の魔獣が出現した時、破壊されたままであった、すなわち目視出来ないが空間に穴が空いているのだ…
早急に門を建造しなければならない…そう感じた各国首脳陣は挙国一致で承認した、そこで更なる問題が起きたのだ門の守護者の存在である。
門の守護者の条件として、天啓者そして神聖武具の所有。
目に止まったのがプラムである、魔剣士ファビウスが更に後押し、彼女が着任する事となった、先代の戦乙女で神槍の持ち主とファビウスは旧知の仲だったみたいだ…
この白い竜も先代の戦乙女の騎獣だったらしい。
「本心は門の守護者なんかやりたくないですよ…でもやらなきゃならないんです…だから精一杯やりますよ…さて黒うさ君、乗って下さい門に向かいますよ。」
「プラムも苦労してるんだね。」
白い竜の背に乗ると竜が力強く羽ばたき始める。
「そりゃ苦労してますよ、道化師のほうが楽ですよ、落ちないように気を付けて下さいね、しがみついてもいいですから…」
どんどん高度が上がっていく、竜の背から見る地上は格別の眺めだ、まだまだ高度を上げ雲を突き抜けると目下には雲海が広がる…
「プラムには出会った時からたくさん助けられたね…一緒に旅が出来て楽しかったよ」
「わわっ急に何をいいだすんですか…!私も楽しかったですよ、一緒に冒険出来て…」
「ねえプラム」
「何ですか?黒うさ君…」
「なんでもない…」
「むぅ、なんなんですか…いったい!あと少しで到着ですよ、高度を落としますから、ちゃんと掴まってて下さいよ、もう…」
雲の中を滑空するように飛ぶと抜けた先には青い大きな湖が広がる…
隆起し広がった孤島には少しの建物が建てられ小さな集落を完成させている。
船着き場には多数の船も停泊している。
「皆にはお別れを言ったんですか?」
門らしき建物が見えてくるとプラムが背中越に話す。
「うーん、一応言って来ましたよ…」
「一応って…ほんと、ですかー?」
陛下には手紙の鑑定をしてもらい、旅の了承を得ている、まぁ臨時の宮廷道化師なので大丈夫なはずだ…
陛下曰く
「引き留めるには無粋であろう」
手紙の出所はわからないが信憑性が高いと判断してくれた。
旅に従者をつけた方が良いのでは?手配しようかと打診までしてくれたが、自分の問題なので丁重に御断りし気持ちだけをいただこうとしたが、通常報酬と別に数点の魔法の道具を承った。
最後に戦場となった草原の慰霊碑まで飛空艦で送ってもらった、次の日に中立都市で会談なので物のついでだそうだ。
最後に陛下が
「失った名を必ず取り戻して戻ってこい、そして祝杯をあげようではないか」
という言葉とともに送り出してくれた。
直接会えない仲間達には出発の報告と短いお礼の手紙を出しておいた。
白い竜がふわりと地上に降り立つとキュルルと一声鳴いた、竜の背から降りると頭を擦り付けてきたので撫でてやる。
「人懐っこいね、この子」
「この子は凄く賢いんですよ」
プラムが竜を撫でまくっている…
「さて、門に到着しましたよ」
目の前に聳え立つ門には槍を携えた女性と盾を掲げる二人の女性の浮き彫り彫刻が施されており、所々プラムに似ている気もしないでもない…
門の素材には大理石と真銀が使われており所々に魔石が埋め込まれている、門自体と床にはルーン文字と精密魔方陣が描かれており、通常より高い錬金術や魔法技術が用いられていることがわかった。
プラムが神槍の石突で床を叩くとルーン文字と魔方陣が輝き出す…
「黒うさ君、無茶しては駄目ですからね…門を開きますよ」
プラムが神槍の真ん中を両手で持ち、腕を伸ばすと一言呟く…
「戦乙女の門よ開け…」
…………!?
ゆっくりと門が開いてゆくと、白い虎の魔獣が飛び出してくる…
プラムに振り下ろそうとする爪を魔剣で受け止めるとそのまま魔剣に魔力を流し振り抜く。
プラムが神槍を構え臨戦体勢に入る…
「大丈夫…僕はもう弱くないっ!」
プラムを制して優しく言い放つと魔獣の攻撃を回避し魔剣で受け止めては切りつける…
「存在なき存在が力をくれる…」
ひと振りごとに魔力を込めていく…
「信じる友がいるから…」
全力で目の前の敵に意識を向ける…
「信念があるから…」
開いた瞳は決して逸らさない…
「今の僕は存在している…」
魔獣が静かに倒れる…
魔獣の喉に魔剣を突き刺し絶命させると振り返る。
「黒うさ君強くなりましたね、手合わせしますか?」
「お願いします」
魔剣の血を拭き取り構え直し腰を落とす…
プラムが駆け出すと楽しそうに神槍を切り払ってくる…
僕は魔剣で受け止める…
練兵所で…
旅の途中で…
お互い強くなるために剣と槍を交えた…
短いようで、長い時間…
長いようで、短い時間…
「黒うさ君!」
「ん!?」
「なんでもない…隙…ありですよ!」
容赦ない神槍の石突を腹部にもらい踞る。
「私からの餞別なのですよ」
プラムが手を差し伸べると手を取って立ち上がる…
「油断したら駄目だってことですよ…絶対…帰って来てくださいよ」
開いた門から見える景色は何もない荒野が広がっている。
「必ず帰ってくるよ」
「ほんとに絶対ですよ」
無邪気な笑顔から溢れる涙を心に焼き付ける…
「じゃあ、行ってくるね、また会おう」
繋いだ手を名残惜しく離すとプラムが手の甲で涙を拭う…
「また会いましょう」
「勇者の存在しない…この世界で…!」
優しい追い風が僕の歩みを進ませる。
end
SpecialSunkus
my friend bestprayers
プラム様
シア様
モルス様
ユアンナ様
ネム様
パール様
シャミィ様
翠様
ハル様
アルカ様
シーサン様
小説出演に承諾くださった
友人達に
最高の感謝を!