失ったもの
頬に落ちる大粒の涙で目が覚めた…
意識の混濁…曖昧な記憶…
破壊の魔獣の心臓に呪いの短剣を突き立てた所までは辛うじて覚えている…
その後は夢の中にいるような感覚だった…
今、僕は地面でプラムの膝枕を受けている…
心配そうな顔の皆が僕を見つめている…
みんなも大丈夫だったんだ、師匠、モルちゃん、ユアンナちゃん…
そうか…プラムの涙なのか…
また、泣かせるような事をしてしまったんだな…
頬から流れ落ちそうな涙を拭いながらプラムに謝る…
「ごめん、泣かないで…」
「黒うさ君っ…黒うさ君っ……うぅ」
「怪我も無いし大丈夫だよ…魔力は尽きてるけど…」
「黒うさ君の、名前が…名前が思い出せない…」
「………」
「えっ……僕は………プラム………師匠………」
「お前の名前の記憶が皆から消えているんだ…推測だが…呪いか制約じゃないかと思う、私も専門外なんで詳しくはわからない…アルカか魔王国の女王、もしくは賢者殿に視てもらう他ない…」
「あっー!腕輪っ!もしかしたら名前刻まれてる!?」
ユアンナちゃんが閃いたように声を上げた。
重たい腕…手首に視線を向ける…
「……ウ…」
腕輪に刻まれたウルマの文字……
「…………ウルマって…………………僕なのか………?」
皆に確認をとると…誰も答えられない…
「確かに…なんか引っ掛かる名前だよね、忘れられた名前…腕輪に刻まれた名前…ふむ…手掛かりか…仮に君の名がウルマだったとしたら、ボクとアンナちゃんはまず違和感を感じないはずだ…」
「でも言い慣れた感じはあるんだよねぇ」
モルちゃんとユアンナちゃんが首を傾げながら応えた。
「皆すまない…」
「謝る事じゃないよ…気にしたって仕方ないし…今は次の事を考えよう」
前向きなユアンナちゃんはいつもどおりだな…
思い出すには何が必要だ…
自分を知っている人間を探す…可能性として駄目だ、師匠や幼馴染みの二人でさえからも消えている…
なら、失った物を探す道具…能力者を見つける…きっとこれが正解ではないかと思う…
重い身体を起こす…
「立てる?黒うさ君…」
プラムが手を取り引っ張り起こすと何とか立ち上がれた…
正直、プラムの黒うさ君に救われる…
「有り難う…」
良く見ると回りは、戦後処理や怪我人の救助で忙しそうだ…怪我人が後を経たない…
そうか、終わったんだ…
喜ばしい事なのに胸が張り裂けそうだ、名前の欠落のせいなのか…喪失感に押し潰されそうだ…
「黒うさ君帰ろうっ!」
皆が手を差し伸べてくれる…
背中を押してくれる…
…………………僕は大丈夫だ…