決戦8
間隔をおいて轟雷が鳴り響く…
吹き荒れる強風と大粒の強い雨が平常心をすり減らす…
濡れた体に吹き抜ける冬の風は、まさに心を折るには容易かった…
刻々と戦況が動いてゆく中で限界を迎える兵士が次々に現れる。
目の前の未知の怪物に最強種の竜達…
戦線が崩壊するのは時間の問題だ。
現に恐慌状態に陥り拠点の廃墟城まで撤退を試みる部隊が後を立たない…
「これは、いけませんね」
敗走していく兵士を眼下に浮遊する賢者が呟く…
最前線で戦う魔剣士が抜かれた場合この場所で防戦し軍を建て直す時間を稼ぐのが賢者の役目だ…
戦場に置ける第二防衛線である。
「ファビウスさんは竜と交戦中ですか…」
賢者が腰に吊るされていた袋の中身を全部地上にばら蒔くと杖を降り始め詠唱を開始する。
「魂なき土塊よ、ここに偽りの身体を与えよう、我が命に従え、巨人よりも強靭に城塞よりも鉄壁に…創造金属の胎児」
地上に魔方陣が出現すると地面が盛り上がり青い金属ゴーレムが出現する。
全長50メートル級の巨大ゴーレムが前方より這うように迫りくる分離した変異種に拳を振り上げると地面に叩きつけるかのように攻撃しかける。
節足動物多足亜門…変異種…
一つ触覚に一つの大顎二つの小顎…
六足昆虫のような足も存在するがムカデやヤスデのような多足も確認できる…
「これは、気持ち悪いですね…」
振り下ろした拳を避けるかのように変異種がゴーレムに巻き付いてゆく…
ピシッ…
「わわっ不味いですね…石の壁!」
賢者が続けて杖を振るとゴーレムに巻き付いた変異種ごと石の壁が包む。
更に呪文を継ぎ足す。
「炎の炉となり、燃やし尽くせ!燃焼炉!」
石の壁で覆われた即席の釜戸に降りしきる雨が降り注ぎ、辺りに水蒸気が立ち上る…
わずかに見える隙間から釜戸内部が白光し2000度をゆうに越え熱風が吹き荒れる…
「とりあえず時間を稼ぎますよ、各残存兵力
は全速力で撤退してください!拠点より第二陣の出撃をお願いします」
シーサンが杖に更に魔力を流すと炉内部の火力が増す!
「これで、焼結もすんだでしょう…これを砕けるのは金剛石くらいですよ!」
兵士達が後退を確認すると石の壁が崩れ落ちる…
変異種も全身が赤色化し所々に崩れている…
コバルトで出来たゴーレムは通常のアイアンゴーレムとは違い全身微粒子である。
これに1300度以上の熱を加えると微粒子が焼結し体積は減少するが硬度が大幅増し超硬化する…
「さあ、今度こそ時間稼ぎさして貰いますよ」
賢者が指をパチンッと鳴らすとゴーレムが変異種の首を掴み押さえつける。
熱せられた石の壁の残骸が終わることなく水蒸気を上げていた。