とある皇帝と傘
ざぁぁぁぁぁぁ
刻々と強くなる雨を避け、木の下で蹲っていた。どれくらい、こうしているのだろうか。かれこれ、二刻半は蹲っている気がする。
もう感覚のない手で顔を覆う。
何もかも失ってしまった、自分はここでこのまま野垂れ死ぬのだろうか。
それでも良いだろうと木に背中を預け、ジッとしていると、ふと足音が聞こえた。
靴が水を吸った、ぐちゃぐちゃと汚い音だ。
それはだんだんとこちら側に近づいてるように思えた。
しばらくすると、雨を弾く音が頭上でした。
「大丈夫?君ずぶ濡れだけど、それに…」
随分と若い女性の声だ。嵐の中、この森に何の用だろうか。
「………ご心配おかけしました。僕は大丈夫なので放っておいてください。」
冷たく突き放した、今だけは放っておいて欲しいのだ。
「……そう、じゃあ傘、ここに置いていくわね。」
そういって、女性はスペアの傘をさして、どこかへ去っていった。
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また、足音がする。
今度は随分と力強い、それに複数人いるように思える。
やっと来たか…。
「賊を見つけたぞ!繰り返す、賊を見つけたぞ。」
純白の甲冑に身を包んだ騎士が木の周りを囲み、抜刀する。
どうやら捕縛するつもりはないらしい。
それもそうか。
私の体にはいくつもの切り傷があり、
逃げるほどの余力はもう残っていない。
最早これまでであろう。
先頭にいる大柄な男に向かって不敵に笑って叫ぶ。
「遅かったな…だが、大儀であるぞ!」
男の目が見開かれた、何を言われたのか理解できないといった様子だ。
「殺せ!この賊を殺せ!塵一つ残すな!」
あぁ、私の人生はここで終わるのか。
あまりに短い人生だったが、
不思議と自分の死を受け入れられた。
まるでそれが決まっていたことであるかのように、穏やかな気分だ。
それは生前では余り感じることの無かった気持ちだ。
剣を構えた騎士が迫る。
数秒後には自分が消えると思うとちょっぴり怖くなり、目を閉じた。
早く、早くしてくれ……。
……………………。
いつまで経っても痛みがこない、ひょっとして自分はもう死んでいるのだろうか。
恐る恐る目を開いた。
そこには……
傘と倒れた騎士がいた。




