TKシリーズ内の作品のどれかにひとつでもスター
とある日、とあるカフェに、めい、ゆあ、ここに呼び出される。
「あたし、忙しいんだけど。」
ハルセが満面笑顔の3人に迎えられる。
「あ、座って座って」
ハルセが座ると同時にカフェのメニューが渡される。
「おごってくれるんなら、ランチ食べたいんだけど」
ハルセの一言に3人が顔を見合わせて無言で相談し始める。
「あー腹減ったなあ」
ハルセがオオリュウの口癖を真似して、ランチメニューを確認しだす。
「炙り肉寿しは…」
ハルセが言うと、
『ないよ』
3人がハモる。
「もうー、何、どうしたの?」
ハルセが待てずに尋ねる。
「あのね、エブリスタにスター特典ていうのがあって、」
「TKシリーズに一つでもスターをくれた人にお礼として」
「6000文字くらいの話をプレゼントしようってことになったの」
ここが応える。
「じゃ、ここの話でいいじゃん」
ハルセの問いに、
「リア充爆発しろって言われるのが怖いんだって」
ゆあが代わりに応える。
「じゃ、ゆあの話でいいじゃん」
ハルセの問いに、
「多趣味崩壊してざまあみろって言われるのが怖いんだって」
めいが応える。
「じゃ、めいの話でいいじゃん」
ハルセの問いに、
「経済学の話なんて誰も読んでくれないよ」
もう誰もピケティ読んでないでしょ、とここが応える。
「ええ~、なんで、あたしぃ~?」
ハルセが文句を言う。
「サワがいるじゃん」
「サワも考えたんだけど」
なんだよ、サワの方が最初かよ、とハルセが噛みつく。
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「サワの旦那さん、ほら、将族だから機密事項が多いでしょ」
ここの言葉に、
「うちのダンナも将族なんだけど」
ハルセの人相が悪くなる。
「サワの旦那さんは、水難救助隊の隊長だったし」
ゆあの言葉に、
「うちのダンナも水難救助隊の隊長やったよ」
ハルセの人相がさらに悪くなる。
『デザートのパフェあるよ!』
めい、ゆあ、ここがデザートメニューを差し出す。
季節限定の春のブーケをイメージしたパフェにハルセは迷うことなくスプーンを入れ、微笑む。
「んで、どんな話がいいの?」
「ハルセとオオリュウをメインに」
「ハルセが一人ノギに残ってから」
「星の宮でりら妃と合流するまでの話が無難だと思うの」
「他のところだと時系列がおかしくなったり」
「本編の内容と矛盾がでやすくなるでしょ?」
「あーなるほどね」
スプーンにイチゴを載せて、ハルセがかぶりつく。
「姫宮がまだつかまり立ちだった頃から」
「バッドを振り回せるようになるまでかあ」
ハルセが懐かしそうに呟く。
ハルセが話し出そうとすると、めいが持ってきたノートを開いて、ボールペンをノックしてペン先を出す。
「めいだけで、書記役十分じゃない?」
「いいタイミングで、相槌うつから」
ゆあがにっこりと微笑み、
「はじまり~はじまり~」
ここが喜ぶ。
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現帝の兄宮であるシーアノ宮様とりら妃が、まだつかまり立ちだった姫宮を連れてノギを去った後の生活は、
「暇。」
以外何もなかった。
やることは毎日あった。おばさん(サワの母)の店の手伝いもあるし、ノギの役場に暇なら手伝いに来てほしいと言われているし、時々屋敷の掃除を頼まれてもいた。
でも、心は暇だった。
「サワちゃんのところにでも遊びに行けば?」
会う人みんなに言われるが、新婚家庭のサワのところに遊びにいくのはためらわれた。
あっという間に過ぎていった2年が2年じゃなくて、もっと長かったらよかったのに。国の中心にいる宮様にそんなことが許されるわけもなく、2年でも十分長かったとわかっていても、やはり寂しかった。
こんな毎日が一生続くのかと思ってた頃、
「水難救助隊の合宿?」
「海ないよ。ここ」
教えてくれたのは役場に勤めている50代のおじさんで、
「たまには講習会もやらんといかんだろ」
普段は海やらプールで訓練ばかりしているが、研修も必要で、ついでに懇親会も兼ねて、
「宮様が、使わんと屋敷が痛むからって」
勧めてくれたという。
「案内、頼むな」
「ええ~、なんで、あたしぃ~?」
「前日までに屋敷の掃除もよろしくな」
「かっこいいにいちゃんと知り合えるだろ?」
自称世話焼きのイルが笑った。
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みんな、忙しいんだよ。と言われてしまい、不満を言ってはみたが、なんにもない、平和しかないノギでの楽しみが出来て、顔は緩んでいた。
「とりあえず、隊長ともう一人くるから」
それがダタボシ隊長とオオリュウだった。
見た目通りの30代の男性二人。隊長はいかにも管理職です、という雰囲気を持った人で、
「忙しいところ悪いね。案内してくれるかな」
「構いません。暇なんで」
なんだか宮様たちがいた頃を思い出させた。
「姫宮を懐妊するまで、2階の南の寝室だったんですが」
「1階の東側の寝室になったんですよ」
屋敷を誰かに案内するのは初めてだった。
「”隆くん”たちが使っていたのが2階の寝室だったので勧められたみたいで」
「”隆くん”?」
「あ、すみません。りら妃がそう呼んでたから」
「”りら妃”?」
「あ、すみません。」
「いや、別に構わないよ」
ダタボシが微笑む。
「宮妃と親しかったみたいだけど」
「なぜ、皇都には一緒に行かなかったの?」
その一言がハルセの表情を曇らせる。
「なんか、あったんか?」
驚いて訊いたのはオオリュウで、
「何もないですよ」
「図々しく、皇都に連れて行ってほしいなんて言えなかっただけです」
ハルセの言葉にダタボシとオオリュウが顔を見合わせる。
「それは違うと思うよ、きっと」
「あの方は」
「ここに何かあるから、君を置いて行ったのだと思う」
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ダタボシ隊長にそう言われると、そんな気がしてきた。目の前に水難救助隊が合宿のため屋敷にあらわれると、確信もでてきた。
「何でも手伝うよ!」
ハルセは毎日屋敷に顔を出すようになった。
「おう!ハルセ。食料買い出しにつきあえ」
オオリュウが大八車と呼ばれる、二つの車輪がついた木製の人力荷車を引いてきて、ハルセに声をかける。
「とりあえず、すみに載れ」
何も荷物がない荷車を浮きにくくするために、ハルセを荷台のすみに載せる。
「らっくらく~♪」
「えっほ♪えっほ♪」
屋敷から坂を下って、右に曲がって市場に入ると、みんなに注目される。サワの母の店の前で止まる。
サワの母の店の品物をすべて買い取ってしまったのではないかと思うほどの食材を荷台に載せて、帰り道、屋敷への上り坂を荷台を押しながら進む。
「ちゃんと押せや」
「…地獄」
屋敷に着くと、地面に両手をついて息を整える。
「助かったわ」
「また、頼むな」
ハルセが地面に這いつくばって、オオリュウを見上げると、米袋をそれぞれ両肩に載せて屋敷に去っていったのが見えた。
「…体力バカ」
こっちは一般人の力のない女の子なのに。
男ばっかりの水難救助隊にハルセは重宝がられた。
「ヴァリに絶対来いよ!」
合宿が終わる頃には全員の顔と名前は覚えてて、個人情報も知ってて、
まあ、どこにエロ本隠してるか、とか、彼女には内緒の話とか、ええ、どうでもいい話です。
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「ハルセ、ハルセ」
「な、イイヤツだろ?」
新婚家庭のサワのところには行きにくいが、ヴァリの水難救助隊の事務所には通いやすく、足繁く通ううちに、みんなに薦められるようになった。
「またオオリュウの話〜?」
「だって、あいつ、一生独りじゃ」
「なあ」
「なあ」
「俺ら心配でさ」
「なあ」
「なあ」
行けばオオリュウが迎えに来てくれて、帰るときにはオオリュウが送ってくれて、みんなの見え見えで単純なお気づかいと言う名のお節介を受けるようになる。
「ハルセ、筋肉スゲーって言ってたじゃん」
「なあ」
「なあ」
「言ったけど」
調子に乗って、オオリュウが今、面倒くさいことになってる。
て、言ったよね。あたし、みんなに。
「いやいや、あれはハルセのためだって」
「なあ」
「なあ」
「イイヤツだろ?」
「な」
「な」
オオリュウを押しつけられてる、気がする。
オオリュウの性格に問題はない。オオリュウの顔面偏差値も低くはない。街を歩いていれば声をかけられ、海を眺めていれば、遠巻きに女性が並ぶ、のをハルセは気づいてた。
別にあたしじゃなくても…。
ん、待てよ。
「あたし、もしかしてひとめぼれされてる?!」
「いやいや、最初ハルセのこと、っぐ!」
「余計なコト言うなって」
「ちょっとぉ」
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だけどオオリュウはもう完全にみんなに騙されてて、
「指輪を買いに行かな」
「は?」
「将宮のとこに全部揃ってるから」
「行くだけでいいよ」
「あれは便利だよなあ」
「お、そっか」
オオリュウは単純だった。
これ、あたし、別に、オオリュウなんて全然タイプじゃないし、実はカレシいるんだよねぇ、て言ったらどうなるんだろう?
「うん、オレらも心配してたけど」
「なあ」
「なあ」
「ハルセって」
「全然、女っぽくないじゃん」
「なあ」
「なあ」
「もう、オオリュウしかいないって」
「だって、ハルセ、一生独りじゃ」
「なあ」
「なあ」
「俺ら心配でさ」
「良かったなあ、ハルセ」
あたしもみんなに洗脳されていたのかもしれない。
「ハルセ!何これ?!」
「何これって、結納品て書いてあんじゃん」
「ねえちゃんのカレシじゃね?」
「誰だってぇ?!」
「ヒィ」
ねえちゃんがフラレ、いえ、ご縁がうすかったことを知りませんでした。
「オオリュウてだれ?」
「さあ〜誰でしょう〜?いたずらかなあ?」
自分の周りが徐々に狭まれている気がした。
最後の最後で大ドン伝返しがあるかもしれない、という覚悟だけして、何となく流れに乗ってぼんやりしていた。
「ご挨拶はいつなの?」
母親の至極常識的な質問に、
「あいさつ?誰と誰が?」
「向こうのご両親はご健在なの?」
「親?」
天涯孤独な風貌をしているだけのオオリュウにも兄弟や親せきや両親がいることを考えたこともなかった。
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「ねえ、今何文字くらい?」
ハルセがここに確認する。
「4067文字」
ここが正確な数字を答える。
「もー、ここまででいいじゃん」
飽きてきたハルセが逃げようとする。
「ねえ、プロポーズは?」
ゆあが興味津々に訊く。
「そんなのはないよ」
「ええー!!!!」
「ほんとにほんとにほんとに?」
隠してるだけじゃない?と言う、ここの目が怖い。
「ここまでの話で、大体気づけよ」
「ええー!!!!」
「あの、ね、ぶっちゃけ」
めいが恐る恐る確認するように、訊く。
「オオリュウさんから、こんなはずじゃなかった。離婚してほしい、て言われたことってある?」
こことゆあが、固まった。
「ないよ」
あっさりハルセが答える。
「これからもないね」
ハルセが断言すると、こことめいとゆあの目が驚きで大きくなる。
「…なーんてね」
ハルセがおどけると、こことめいとゆあの目からビームが照射される。
「ハルセたちは、周りが進めた、紹介結婚で上手くいってるんだね」
「ま、ね。うちらで進めて、結婚させた部下の隊員も何人かいるよ」
「そうなの?」
「オオリュウがそうかは、わかんないんだけど」
「ああいう体力メインの仕事してるやつらって」
「上半身と下半身が別人格。」
「こら!」
3人に突っ込まれる。
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「けっこう、ピュアな恋愛をしながら」
「中身のない頭で知り合ったばっかの女と浮気する」
「こら!」
「まあ、それで、気がつくと、寂しい状態で…」
「…」
今でも同窓会があるとそわそわするし、好きなタイプは大人しそうな、頭のいい、かわいい女のコだったりするのに、別人格の下半身が巨乳を見ると、暴走する。
「隊員同士の結束も強いんだけど」
「隊員の嫁さん同士のネットワークが強固で」
すべてを知っている隊員の嫁さんたちからのアドバイスはミラクルです。
「オオリュウにあたしを勧めたのも、最初は隊員の嫁さんで」
直接会ったこともないのに、合宿から帰ってきた夫の話を聞いているうちに、これは上手くいくんじゃないかと言いだしたのが恐ろしい。
「居心地はいいんでしょ?」
「ま、ね」
「あたしは幸せだよ」
めいとここが、うなづく。
「え、でも、大恋愛したかったなあ、とかないの?」
ゆあが訊く。
「結果から言うと」
「大恋愛で幸せになるか、ちょっとわからない」
「…」
「ケンカするし、離婚を考えたことも、ある」
「え!」
「ここだって、あるでしょ?」
「ま、いろいろ」
「え!」
ゆあが驚く。
「恋愛結婚だったら、売り言葉に買い言葉で」
「大ケンカのときに勢いでそのまま別れてたかも、と思うこともある」
「そっかあ」
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ハルセは隊員や隊員の家族らと支え合って幸せだという。
「恋愛結婚が一番幸せになる、ていう考えは捨てた方がいいと思う」
「結婚は両性の合意をもとにって言うけど?」
「あーうん。本人たちの合意はもちろん必要だけど」
「そもそも正しい選択が出来てるのか、という疑問がある」
「上半身と下半身が別人格だから?」
「あーうん。それもあるか」
「結局誰か一人に決められないんじゃないかな」
「それってあたしのこと?」
ゆあの声が震える。
「そこで反省したりして」
「自分に問題があるのか、高望みしてるのか、考えたりして」
「悩んで悩んで」
「…」
「その時間、無駄かも。」
「え?」
「と思う。」
「あ。意見には個人差があります」
「逃げるな。」
「周りが勧める、ていうのは確かにいいかもね」
めいが微笑む。
「だけど、誰かの策略かも、ということもあるからね」
「こっわー」
「うっふっふー」
ここが笑う。
「え、ちょっと、さらに怖い話とかしないでよ」
ゆあがビビる。
「しないよ」
「なんかさ」
「ハルセとこんな話する時が来るとはなあ、て思って」
「わかるー」
「ちょっと待てい」
一通り笑い終わると、
「りら妃もここにいてほしかったなあ」
ここが呟く。
「”でも、ひとめぼれとかなら絶っ対うまくいくよ!”」
「とか、言いそう〜」
「言いそう〜」
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「ね、サワにも訊いておいてよ」
「そうよ。サワの話も訊いておいてね」
トントン。
「すみません。お席の時間がせまっていますので」
人気のカフェはコースの時間とは別に、席の時間も決まっています。
「ぎゃ、こんな時間」
慌てるハルセに、
「あ、あたし、帰りにデパ地下で買い物しなきゃ」
ここが主婦の顔になる。
「めいは?」
ハルセが訊くと、
「カレが作って待っててくれてるんでしょ〜」
ゆあが代わりに応える。
「ちょっとぉ、めいの話、聞いてないんだけど」
「また今度ね」
「いや、それ、怪しいから」
「ストール、誰の?」
「あ、あたしっ」
「電車の時間、ちょうどいいのあるかなあ?」
「ね、次、いつ会えるんだっけ?」
「5月ね」
「GW。」
「うわ、バタバタよ、きっと」
「うちの葵衣姫、なんにもしてないのよ」
「ゼアに全部やらせないように、て言ったら」
めいは怒ってるのに、
「あたしが結局やる羽目に。もうー」
幸せそうに微笑む。
「あ、あたし。ここからバス乗ってくから」
「え、ホント?」
「今日はありがとう」
「うん、またね」
「またね」
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