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フルーツおでん伝  作者: 前歯隼三
おでんフェスタ編
8/14

“フルーツおでん”はおでんか否か?

R01.11.10 大幅修正


「大阪おでんギルドのタコ焼き旨かった!」


「おでんじゃ無くて!?え?タコ焼きおでん?何それ!?」


わー

わー

わー


 今日は2日目、10月11日の日曜日

 明日も祝日 三連休の中日とあって

 中々の賑わいを見せている。


「案外この場所でよかったかもなー」


「そうねー」


 …青葉通りの“東”は人通りが激しい、静岡おでんギルドのテント前ビアガーデンは日が沈んでからは常に満席だった。呉服町(ごふくちょう)の一歩裏通りは元々が安めな飲み屋通りでおでんをつつき、酒を楽しむ“大人な楽しみ方”に東は強い。

 一方西は最果てに公園と噴水、店が少なく人通りは無いが、家族ずれやカップルが集まってる。噴水の広場ではアマチュアのミュージシャンが流行りか自作か、なかなかポップな歌を歌ってる…あ、なんか河童も対抗している、店はどうした?え?昨日完売でもう閉店?凄い!


「うちらの店は若者向けだからねぇ」


「フフフ、甘味は正義よ」


わー

わー


「おねーさんイチゴおでん2つ!」


「おっありがとな嬢ちゃん!シナモンはお好みでな!」


「すいません、ちょこばなな1つ」


「バナナおでんね、あいよー」



 平和な時が流れた。昨日は午前はさっぱりだったが、昼過ぎからなかなかに売れ初日は仕込みを少なくした事もあって夕方には完売できた。ビールと合わせるおでんじゃないので、どっちみち夜中はそこまでだった事だろう。


 今日は日曜とあって出だしも好調、テレビ効果か予想以上。むむ…むしろ明日の分が怪しいくらいか、起き出したおでん忍者に買い出しを頼んだ。本当によく働いてくれる…え?静岡じゃ普通?ブラック過ぎない?


「今夜は私残ろうかしら…流石に悪いわ…」


「うーん、止めたいけどなぁ…というか寝袋でここで寝るか?そうすればあいつらも休めるだろ」


…そんな時だ。


「…こんなのはおでんじゃ無い!!」



   ◆    ◇    ◆    ◇




 家族ずれに苺おでんと、ナシおでんを渡しているとクレームが入った。お客からじゃない、外から見ていただけの人間、眼鏡をかけた若い男だ。


「僕は“静岡大学”で郷土料理の研究サークルをしている者だ!」


 なんかドヤ顔で言ってくる。…静岡大学?


「る…流々(るんるん)嬢ちゃん…その大学ってすごいのか?」


「さ…さぁ…東京大学と京都大学…とかは聞いた事あるんだけど」


 まぁ…地方でそこそこ凄い、大学なんだろう。うん

 流々(るんるん)蘭乱(らんらん)も、全国行脚の武者修行するほど時代遅れな頭の持ち主、学歴社会の外で生きているのでなんとも凄さが解らない…うーんそもそも、凄い人だとして、そこの大学生がなんなのか?


「…こんなのはおでんじゃ無い!!」


「んまぁ…議論は分れる所だとおもうよ。確実に色物だしな」


「なんでおでんフェスタに参加している!!」


「…いやぁ、申請通ったんだから…運営に文句をいってくれよ…」


 ……うぐぅ買ってくれそうだった、女子高生たちがスルーしていってしまった。マズイな、最初からトゲがある感じだったが、大学知らなかったからか機嫌が悪くなってる。冷静じゃない…


「兄さん、悪いけど文句は運営に言ってくれよ…とりあえず、商売の邪魔だ!」


「フン、出店する資格もないのに邪魔とかな…誰が買うんだ?こんなゲテモノ」


グツグツ

グツグツ


 うん、おでんじゃない、ハラワタが煮えたぎって来た。

 確かに色物だが味は絶品、思い付きで作ったが…思い付いたのはお嬢の発想と自分の料理経験からだ…思い付く一瞬で出来たのではなく、修行期間の十年あっての一瞬だ。それを何だ?大学生ってのはそんな偉いのか?


「あぁあん?」


 額に血管が浮かんでくる、元々きつい目元が血走る。

 (蘭乱(らんらん)よ…血気の勇を鎮めるのだ!)

 昔父に言われた言葉がよぎるが、理解出来るほど冷静じゃない…こんにゃろう…


「……あらー、お兄さんそれは酷いわ、結構リピーターも居るんですよ?」


ゾクり

 ……危ない危ない。ぶち切れかけた蘭乱(らんらん)だったが、流々(るんるん)の口調で冷静になった。声のトーンがいつもと違うし、まったりオーラから戦闘オーラにシフトしている。あ…だめだ、結構切れてる。うん、私は冷静になろう。血気の勇を鎮めよう。

流々(るんるん)が切れて「竜宮拳」なんて使いだせば、今度は全国で指名手配だ。うん、私の料理の為に怒ってくれるのは嬉しいんだけど…ひーひーふー


「わかったよ兄さん…悪いね、今回初参加なんだ」


「フン、まったく」


 あーやっぱムカつくわ、鼻の一つもへし折りたい。


「ところで兄さん、後学の為に教えて頂きたいんだが“おでん”ってなんだ?」


「ほぉ~おでんの定義か!良いだろう」


(うぜぇええ!!あぁああああ!)


 ちょっと店の裏手に招きいれて、おでんの講習をしてもらう事になった。とりあえず店はお嬢に任せる。うん、任せろお嬢…私は忍者に教わったおでん知識がある、こいつは必ず潰す。

 うん…だからオーラ抑えよう、鳥たちが騒めきだしただろ?うん…手刀作る必要はないぞ?





   ◆    ◇    ◆    ◇





「おでんと言う料理の原点は“田楽(でんらく)”だ!」

(知っとるわボケ、おでん忍者に聞いたわボケ!)


「へぇーすごーい、かしこーい」


「フフフ」(照れ


「おでんは広義では“煮物”“なべ物”に定義される日本料理で…地方によって様々な進化をとげ…(略)」


「……なるほど」


「解ってくれたか?」(ドヤ顔


 話が長すぎて、途中で仕込みをしながら聞いていた。冷水からリンゴを取り出しカットをしバナナの皮をむいてカットする、そして串を刺して…んん?

 おでんの歴史と分類は忍者に山中で聞いてるわけだが…


「つまり…定義は結構曖昧なんだな?」


 確かにだ。フルーツおでんはおでんと言うには語弊がある。この事態は想像に難くなかった。…事実バナナおでんを求める客が、チョコバナナと口にしているくらいだ。

 おでんっぽく串をさして、おでんっぽい形にシロップに付け込んで甘く煮込み、ダシ粉を付ける感じでシナモンを振ったりチョコをふったり。お好みでホイップクリームを付けたりもする。“おでんごっこ”みたいな工夫を重ねた…本当に際物の類だった。けれど、この工程で一つ気になる。


「少なくとも煮込み料理なら…おでんって名乗っていいんじゃないか?」


「む?…うむむむ…うーん」


 蘭乱(らんらん)の質問に男は悩む…大変宜しいらしい脳みそで、スパッと答えを出して欲しい。


「そう……なのかな?」


「いや…こっちが聞いてるんだけどな、…ところでだ。」


グツグツグツ…

男を店の調理場に案内した。


「煮込んでるんだこれ」


「…は?」


「シロップで」


「…ふぇ?」


「「…………………」」



 世界は広い、私が島を飛び出して…料理修行の旅に出たのもそのためだ。小さな世界、小さな常識、それは一歩外に出れば…簡単に崩れさっていく。


わー

わー

わー


この祭りでは、色々な店が並んでいた。

静岡おでん以外おでんではない!黒い汁以外おでんではない!…そう言った意見は極端だが、もっと視野を広げてみるべきだ。


 大阪おでんギルドはタコやクジラを入れてるし、お祭りの乗りでタコ焼きおでんを売り出した。


 東北おでんギルドは貝を入れてる。


 関東おでんは魚の軟骨や酒を使っているそうだ。


 河童はイカ墨を入れ成功したし。


 静岡おでん、暗黒おでんはそもそもそうだ…真黒だし…ダシは牛だ。


 …うん、おでん友の会が地味だな。あっなんか目があった。そもそもフルーツおでんの発想は。黒いおでんとの出会いからで…あえて正道を踏み外した物なのだから、道を説かれてもいささか困る。


わー

わー

わー


 改めて見渡していて、気付いた事があった、目の前の議論よりよっぽど大切な事かもしれない。


「私は旅に出て気付いたが…、この祭りに来た人たちは、この通りを渡るだけで気付けるんだな」


 勇気を出して、覚悟を決めて、故郷を出た者がようやく気付ける世界の広さを、一般の人達が簡単に気付ける…結構、良いイベントなのかもしれない


「わーわー!蘭乱(らんらん)大変!ミカンが無くなっちゃったわ!」


「ただいまでゴザル!イチゴ追加買ってきたでござる!」


「うぉおお?わるい忍者!次ミカン!ありったけ頼む!」





   ◆    ◇    ◆    ◇





 昼を過ぎ、午後から混雑してきた店の裏、眼鏡男は一通りの(たね)を食べてまだ考えてる…正直邪魔だ。


パクリ…モグモグ…うーん

ペロ…


「うぅーん…やっぱりおでんと認めたくない…」


「まぁ議論は解れる所だしな、…ところでそのおでんタダじゃないぞ?」


「えーっと、お代は?」


ドタバタ

ドタバタ


「とりあえずひと箱買えたでござる!あとは尻月(しりづき)どのが山に取りに行って下さった!」


「おー助かる…えーとお代は~そぉだなぁ…」


 眼鏡男にはミカンの皮むきひと箱を頼んだ、小ぶりなミカンは甘くて旨い。忍者は目利きも出来るようだ。


……

…………

………………


「なんとか二日目も終われたな!みんなお疲れ!」



 フルーツおでんは夜まではやらない、早く終われば喰い歩きだ。


 昨日の夜から作りなおしたという「暗黒おでん」を食べながら、公園で歌う河童を眺めた。うむ、敵ながら普通に旨い。


「お前…イカ墨おでんの店結局どーしたの?本当に閉店?」


「あぁ!一日目で完売したあと閉店してな、レシピ買ってくれたから遊んでいる!店は静岡おでんギルドが回してるぜ?」


 実に河童らしい事だ!ある意味この大会を一番優雅に楽しんでいる。


「お前明日空いてるなら手伝ってくれよ、案外混んで大変だったわ」


「え~ 尻子玉でもくれるんならなぁ~」



わー

わー

わー


 なんとも平和な、田舎の市街。

 多少のトラブルはありながらも、こうして2日目も無事終わった。


 「うーむ…卒業論文はこれでいくか…“フルーツおでんはおでんか否か”」


郷土料理研究家=合瀬妙事(あわせみょうじ)、彼が名を上げ輝くのは、もう少し先のお話だ。


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