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フルーツおでん伝  作者: 前歯隼三
おでんフェスタ編
7/14

静岡おでんギルド

R01.11.10 大幅加筆修正



「ギルド長!暗黒おでん会が敗れたようです!!」



 青葉通り、東の端、駅から市役所に抜ける南北の通り商店街=呉服町(ごふくちょう)と交わる、もっとも賑わいある交差点。その一等地に陣取るのは、大会の主催者にして、自称“おでんの聖地静岡”の総本山「静岡おでんギルド」。


「……どういう事ですか?」


 夕方からの混雑を予想し、自ら大根を切っていたギルド長=田武好過(でんぶすきすぎ)は眉をひそめた。

 大会初日の時刻は15時、そもそもアンケート結果を競う大会であり、スポーツ大会のようにすぐ結果が出て敗れるような祭りではないわけだ…敗れるにしても早すぎないか…?

 詳しく報告を受け…聞いていた下の者たちの方に動揺が走る…


「歌う河童…!?イカ墨?…健康効果!?…駄目だ…勝てるわけがない!!」


「旅の美少女のフルーツおでん?…駄目だ、覗きに行きたい!」


「御黙りなさい!」


ザワザワ…ピシャリ!


動揺する部下達を、田武好過(でんぶすきすぎ)は一括する。


「売れる店が出たなら結構!そしてそこは他県のギルドではなく…いわばフリーの店ですね?」


 美しい桂剥き(かつらむき)を披露しながら、田武(でんぶ)は語る。卓越した包丁さばきによる、均等な皮むき…少しでも刃の当て方が狂えば一周するまえに皮が破けるか、大切な身が崩れてしまうが下積み時代身に付けた技、意識せずとも簡単に出来る。

シュパパ…トト

シュパパ…トト

 皮を剥いた大根には、十字の切れ目をいれて下ゆで(・・・)の鍋に入れていく。

 続け様に伝えられる敵陣の強さと身内の無様な報告にも、一切の揺らぎないその姿…部下達の心から不安が消える。


「フェスタ終了後に、“店”を出す打診をしてきなさい!そこまで話題性があるなら優勝など関係ないですね、細かい準備はこちらが持つと…ククク、従業員もこちらで用意し…レシピは盗ませて頂きますが」


 …さすがだ!この揺るがなき“利”への姿勢。この姿勢が彼をギルド長へと押し上げた。

 時刻は15時、静岡おでんギルドに客足は少ない。せっかく用意された“ビアガーデン”も、小汚いじいさんが3人ほどだ。


「良いのですよ。こういった祭りでは皆…普段食べているものではなく“珍しい物”に食いつくのです…それは結構、私たちはどっしりと構え。仕込むのみです」


 大根の仕込みを終え、卵、ジャガイモと仕込みを続ける。その後は厚揚げの“油抜き”だ!


「珍しい物を買い求め、一喜一憂し…そして最後に戻る“故郷の味”我々が守るのはそれで宜しい」


 仕込み以外にもまだまだやる事は山積み、大会運営としての活動もある…河童の件もあり撮影許可の追加申請も来ているようだ。

 部下に指示してビアガーデン周りの掃除もさせる、トラブルを見越して警備隊にも声をかける。



「大会自体は成功ですね…しかし、我々にも意地がある」



   ◆    ◇    ◆    ◇



 ギルド長の読みは当たっていた。

 都会の大企業の下の下請け、そんな中小儒細ばかりのこの町には…土曜も働く人々が多い。

 華の金曜日が一日ズレて、華の土曜日の訪れである。


ワー

ワーワー

ワーワーワーワー


「さぁ、17時になりました…そろそろですよ?ここからが我々の戦いです!」


 夏は終わり、季節は秋

 日が暮れる時間は日に早く…「おでんの時刻」が訪れる。


「大根とちくわ…えっと卵…あと生2つ!」

「まいどあり!」


 仕事帰りの親父共は、珍しい物よりもビールを好む。ビールに確実に合うものは…慣れ親しんだ“静岡おでん”


「おっと、レモンサワーの旗も建てて下さい、若者も逃がしてはなりませんよ!」


 怒涛の勢いで押し寄せた客、やはり親父が多いようだ。

 しかしそれではつまらないと、ギルド長は即座に指示を出す。


「ギルド長…旗なんて用意してないですよ?」


「ギルド傘下の店があります、ちょっと話をつけましょう…ふむ。もしくはドンキーでボードを買って作りましょうか?」


 昼の暗黒おでん会がそうであったが、ギルドの面々に柔軟性は無い…決まった所に店を構え、決まった客層を相手にしてきた職人たちだ。

 …しかし、ここは受け継いだ店でなく、目の前を通るは普段目にしないような若者…通行人…


「通行人ではないのです!客にしなさい!ここはいつもの“店”とは違うのですよ?」


 ッハとする面々…先刻知らせを聞いたばかりだ、歌う河童と負けた暗黒おでん会


「ぎ…ギルド長!じ…じぶん歌いましょうか?」


「積極的で宜しい…皆さんもどんどんアイディアを!…あ…あなたの歌は止めなさい、客が離れます!」


 ♪~ポロロン


「お…お前は!?イカ墨の?」


「一曲歌ってやろうかい?…お代はいらねぇ…歌いたいんだ…」


「敵襲!敵襲だ!」


「カチコミだぁああああ!」


「落ち着きなさい!警備員さん!見て無いで隅に誘導を…!っあーどうも!いらっしゃいませ!はいちくわと黒はんぺん!」



ワーワーワーワー

ワーワー

ワー


「ふー、みなさんお疲れさまです。鍋番を残して…解散と致しましょう!まだ飲んでるお客さんには“おでん横丁”へご案内を…!」


 時刻は21時、商店街にはシャッターが下り一本裏で居酒屋が稼ぐ…酒飲み相手にはまだ売れるが。大会の規定時間は守らねばならない…もちろん丁寧に案内するのは、ギルド傘下の「おでん横丁」。


 そして鍋番、夕方からのラッシュを共に頑張った部下には申し訳ないが、夕方仕込んだ分のおでんはグツグツと一晩かけて仕上げたい。

 金に汚く頭も回るが、それでもおでんへの“愛”はある…一切の手抜きは出来はしない。


「まずは一日目、あの娘たちはどうですかねぇ?」


 鍋番の部下への差し入れにと…網焼き弁当を買いながら少し気になる。

 知らせを聞いた限りでは出だしは良いが、その後失速していては話にならない…


「売れているなら良いのですが…、売れて無ければ“利”にはなりません。」


 グツグツと

 静岡の空に湯気が溶ける


 静岡おでんの汁のよう

 黒い夜空に星が光る。



   ◆    ◇    ◆    ◇



 …イカ墨おでんは15時で完売閉店。

 …フルーツおでんは18時で店を閉めていた。


「おー忍者夜番たのんだぜ?売り上げ使って夜食食っていいからな?」


知月(しりづき)さんもありがとね」


 夜間無人などにしたら、また暗黒おでん会が何かするだろうという事でおでん忍者が見張りを申し出てくれた。

 一人じゃあんまりだと同伴を申し出る流々(るんるん)に、待ったをかけたのは知月(しりづき)だ。


「かたじけない…忍者は夜型故にご心配なく!」


「二人が主役なんだからよ、夜はしっかり寝といてくれや!ハハハ」


 頼もしい二人の言葉に甘えて、娘二人はその場を離れる。


「お客相手は久々で疲れたなぁ…わたしソロバン苦手なんだよ…ありがとなお嬢も」


「フフフ、わたしソロバンは得意だからね!あっ晩御飯あそこで食べてかない?」


 青葉通りの東側、静岡おでんギルドの横の店…今夜のディナーはファーストフード


「ビックマックセットとえぐちバーガーとチーズバーガー3個!あっあちフィレオフィッシュ!」


 そんな二人を目撃して鍋番の面々は目を疑った。

 神聖なおでんファイトの最中にマックっておま。…ゴクリ。


「俺たちも夜食はマックでいいか…近いし…」

「そうだな…おでんは飽きたし…」


 人が食べてると食べたくなっちゃう。

ギルドの地位の低い、下っ端は生活費が無く店の残りおでんのみで暮らしていたのだ、そんな二人には刺激が強いマックの看板。


「………。」


 鍋番二人はまだ気づかない、ギルド長が差し入れの網焼き弁当を持って後ろに立っている事に…



 こうして一日目

 怒涛の初日は幕を閉じた!(おででん!

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