青葉通りにて
R01.11.09 大幅修正
♪
オデデン おでん!(でんでん
オデデン おでん!(でんでん
珍妙な音が、リズムが…静岡の中心地“青葉通り”に流れていた。
静岡はかつて大火に遭い、その教訓から中心街を二つに分断する「水場」が設けれれている。噴水や水のモニュメントが配置された、街を分断する縦長の広場と思って頂ければ間違いない。
風遠しよく水多い広場は、まだ残る残暑の季節にあっても涼しかった。むしろいささか秋の空、夏でも食べれるおでんだが、やはり寒い時は格別だろう。
「今日は絶好のおでん日和で!」
市長もそんなスピーチをした。
♪
オデデン おでん!(でんでん
オデデン おでん!(でんでん
「おうおう、兄ちゃん山から持って来たぜ!河童村で獲れたフルーツだ!」
「おお助かったぜ尻月!」
尻月は兄のようにヘラヘラしないどっしりとしたマッチョマンで、山奥の河童村からフルーツおでんの材料を担ぎわざわざ届けに来てくれた、案内河童の弟だ。
ドシン ドシン ドシン
一袋でも大人が二人がかりで運ぶような、大きな包みを三袋。
「わーすごい筋肉ですね!すごい!」
「おう!山育ちだからな!」
流々は頬を上気させ、瞳を輝かせ大興奮だ!彼女は甘い物と同じく筋肉が好きだった。褒められた尻月も満更ではなく、お礼とばかりに胸筋を動かす…あぁ、緑で禿げで全裸でなければ…
「あと兄ちゃん依頼のこいつだ、ほれ…」
「クカカ、これで勝てるぜ!」
料理勝負は材料調達から始まっている、ましてや暗殺を目論むような相手もいるのだ、河童達と知り合っていて本当に良かった。
「よーし!行くぞ忍者!」
「任せるでゴザル蘭乱殿!」
シュパパパ!(ストトト!
…ドササササ
蘭乱が捌き、中空に放ったおでんの種を、おでん忍者の串が貫く!
グツグツグツ
「尻月のおっちゃんありがとな!食ってってくれよ!」
「おー、こいつが噂のフルーツおでんか!」
◆ ◇ ◆ ◇
さてさて、静岡の街を東西に横断するこの“広場”だが…この地を収めた徳川の城、駿府城があるのが東なのだ。城と街道への近さの関係で、東の方に市役所があり、北南に交差する商店街はもちろん広場の東に交わる。
…一方西の方角にずーっと行けば氾濫繰り返す安倍川だ。
西と東…東の方が格段に人が多いので当然そこは一等地、抽選だ平等だと言ってはいたが。案の定そこに陣取るのは“静岡おでんギルド”、そこから順番に寂れる西へと並ぶのは…
“関東おでんギルド”
“大阪オデンギルド”
“東北おでんギルド”
“暗黒おでん界”
“おでん友の会”
“イカ墨おでん”
…そして一番西の寂れた端っこに“フルーツおでん”のテントが並ぶ。
「どう考えてもイカサマよね」
「…あぁ、地方の闇は深い」
とにもかくにも役者はそろった!青葉通りにテントが立ち並びそれぞれの魂と旗を掲げる!3日間…10月10日(おでんの日)から土・日・月の体育の日、泣いても笑っても、その激闘の三日間でのアンケート結果で勝敗がきまる。優勝者の料理は「静岡おでんギルド」に認められて、ギルド出資で店舗が持てる!駆け出し料理人の居るおでん友の会は必死だし、他県のギルドは大手を振っての敵地開店!バチバチと火花が散るようだ。
「まぁ、この方式だと勝ちはないよな。地元だし開票も“静岡おでんギルド”だろ?八百長し放題じゃないか」
…地方の闇は深い、ぐつぐつ煮立つ、静岡おでんのように真っ黒だ。結果の見えた出来レース…勝利を目指せば勝ちは無い。
「いいわ、私は蘭乱の料理が馬鹿にされて頭に来ただけですもの!」
「あぁ…!私たちの勝利条件は…“笑顔の数”だな!とりあえず完売めざしてゆこうぜ!」
お客さんに、街の人に認められればそれでいいのだ。表面でどれだけ数字を弄ろうとも、人の心は弄れない。そうだ…視点が違えば、勝ち負けになんの意味もない。蘭乱一行おでんギルド…どちらに負けも、勝利も無いのだ。これは…料理漫画のバトルじゃない。
料理とは何か?何をもって勝敗を分かつ?
勝負の意味とは?競う意味とは?
「……でもなぁ!わくわくしてきたぜ!」
腹の中に何を抱えていようとも、全国の優れた料理人が集まって、千差万別の味が集う、ワクワクワクワク…祭りなんてなそんなもんだ。
それに勝ち負け関係なく、ここに立つ事で“顔”が立つ。
蘭乱達は逃げなかったし、おでんギルドは儲けになる…黒ずくめの集団“静岡暗黒おでん界”は血走った目で睨んでいるが…
◆ ◇ ◆ ◇
♪おでででーん
♪おでででーん
(HA~ちゃっきり、ちゃっきり)
10時になった。祭りが始まる。
「みんな!気合いれてくぞ!」
人の疎らな西の端で、明るく少女の声が響く。頭に御団子二つを乗せた、中華少女の料理人と、河童二人と忍者と姫様。掲げる旗は「フルーツおでん」さてさて…いかなる戦いになる事か!
青葉通りの一番外れ西の端、“ハズレ”そのものな立地であったが…でも一つそこには大きな大きな噴水があったのだ。
公園に併設された噴水と広場…ちらりほらりのカップルとゲートボールのじいさん達。子供が一人、公園で転んで泣いていた。
♪~ピュゥゥ…プシャァアアアア
祭りの始まる10時ちょうどに、流れる音に合わせて水が出た、くるりくるりと出水装置が回るに合わせ、噴水は天高く螺旋の軌道で舞い踊る。
♪…ピュピュピュ…ピューピュ!
今度は上下に水のダンスだ、…泣いた子供が母親にあやされ一緒に噴水を見て笑っている。
「綺麗なもんだなぁ」
「えぇ、この場所も悪くないんじゃない?」
少女二人はおでんの仕込みをのんびりやりつつ、呑気な感想をいいあった。慌てる事はありゃしない、二人が出したのは「フルーツおでん」
「どう考えてもデザート枠だし色物だ、忙しくなるのは午後からだろう、本格的には明日からだな」
グツグツと甘い匂いの鍋をかき混ぜ、フルーツの串を突き刺した。忍者と河童達は視察に出かける。…というか河童(兄)は出店する気らしい、のんびり今から準備だとか。自由するぎる…流石である。
「まいどありー」
最初の御客は母子であった、先ほど転んで泣いてた子だ。
「まったりのんびり、沖縄育ちにはちょうどいいわね~」
「黒いところが無いならなぁ~」
ホームレス達が店の横で飲みはじめた、手に持ってるのは静岡おでん…あからさまに雇われた妨害者だ。薄汚い格好の異臭集団、人通りがある所は大会運営から追い立てられてきたはずだが…なぜかここには運営が来ない…まぁ、いいか。忍者が戻ったら任せよう。
「ねぇ、おじさん達?デザートにフルーツおでんはいかが?」
「今ならお試しでタダでやるぜ?」
「わ~主達!駄目でござるよ!」
「ヒぃ!おでん忍者だぁあああああ!」
忍者が戻ると追い出してくれた、以前おでんギルドの汚れ仕事をしてた関係で…裏の世界では有名らしい…え?ホームレスもやってたの?知り合い?舎弟?…ホームレス達は逃げるように公園に移動。少し持たせた「フルーツおでん」を齧りながら、カップルと子供達の前を通っていく。
「あ~おいしいなぁ!フルーツおでん!」
「なんて甘いんだ!フルーツおでん!」
「切ないすっぱさ、フルーツいちご!」
忍者の指示なのかやたら声を張る集団。変な広告集団を手に入れた。それを見ている黒ずくめ。
「チィ…小娘共が…裏切り者が…!」
時刻はまだまだ11時…戦いは始まったばかりである!