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フルーツおでん伝  作者: 前歯隼三
革命の前夜
4/14

ギルド長 デンブ=スキスギ

R01.11.09 大幅加筆修正

ザクリザクリ…ズッボ!


「ホッホッホ…これはいいおでんになりますよ!」


 ここは静岡おでんギルドの農場「おでんファーム」大根をはじめ、じゃがいもやコンニャク芋まで育てている、静岡おでんギルドの最重要施設だ。


「こうして土に触れていると思い出します…貧しかった子供時代」


 ギルド長、田武=好過(でんぶすきすぎ)は貧しい農家の生まれであった。

 貧しかった彼は、友達と駄菓子屋へ行った時もただ見るばかり…ジュースの一つも買えず。友達と離れ、一人公園の水で凌いだものだ…

 

 静岡の駄菓子屋には当たり前に“おでん”があった。その香りが…満足な食事もとれなかった幼いデンブには…どれほど辛く…また、憧れであった事か!


 そんな幼少期を耐え、中学を出た彼は父の農家を継つつ、自身の育てた野菜でおでんを作った!また幼い弟や妹の為にバイトを掛け持ち、その一つがおでん屋であったというわけだ。…そして地道に時を重ね、成人した弟に家業を譲り本格的に静岡おでんギルドに加盟した…必死に売れるおでんを作ってきたのだ。…そうして気が付けばギルド長、おでんの中でもっとも値の張る貴族の食べ物“牛スジ”さえ食べれるようになった。


「新しい風が…吹こうとしています、この静岡の地に…おでんの歴史に…」


 面白い事だ、愉快な事だ。

 子供時代から老人になるまで、延々と走り続けた、走り尽くしたと思ったおでん道


「フルーツおでんとは、いかなるものか…本当にフェスタが楽しみですよ…しかし」


 ギルド長の手には、大きな大きな大根が握られている。


「おでんとは“お田”…田畑で獲れた作物がやはり…私の愛するおでんですね」




ザザザザ!


「ギルド長殿!」


「…おや?おでんブラックさん、どうしましたか?」


 大根畑にかけてきた“おでんブラック”は黒ずくめの男、静岡おでんギルドの中でも伝統過激派“暗黒おでん会”に属する曲者だ。…今回のフルーツおでん騒動でも、もっとも感情を露にしギルド長の命令以上に…過激な干渉をしているらしい。


(…まぁ、所詮はとかげのしっぽ、なべ物の灰汁。…詳しい事は知りませんがね)


「…ッハ!先日から行方を暗ましていた一行!山に隠れていたようで!」


「おやおや、可哀そうに…怖がらせてしまいましか…わたしはあくまで“レシピ”を教えていただきたいと“使者”を出したはずなのですがねぇ…」


 ギルド長の意図を歪曲し、自身の都合のいいように、“デッドorアライブ”を間違えてつけてしまった部下達がいるまぁ、ギルド長は知らなかった事だ(…と、ギルド長は通すつもりだ。)

…ギルド長の冷たい口調に、おでんブラックは冷や汗を流しながら報告を続ける。


「…ハイ!それで、藁科川(わらしながわ)を越え、丸子(まりこ)の宿に泊まっているもよう!」


「…ほほう!それは良かった!…それでそれで?おでんフェスタの時期は迫っていますが、彼女達の準備はいかがですか?…いやぁ、やはり心配ですからねぇ…なんならうちのギルドの食材を使ってもよろしい!是非お伝えください!」


 おでんの“食材”をも牛耳るおでんギルド、相手が何を仕入れたか解れば…鍋を見ずともに予想は出来よう!口では心配などと宣うが情報戦も含め…田武(でんぶ)は一切の手を緩めない。


「…昨日はイノシシでバーベキューをしておりました」


「…………は?おでんの具にしてました?」


「いえ……ちなみに昼は、同伴する河童のリクエストできゅうり祭り、冷やし中華です。夜はラーメン五味八珍(ごみはっちん)


「今日は今朝からプリン祭りで…」


「………」


 おでんフェスタの開催は近い、参加者は日夜“最後の一押し”を探し、連日山のように試作を重ね…もうおでんしか食べていない。こうしてギルド長は自らが畑に出向き食材を厳選しているし、暗黒おでん会も単独で出店を希望し、何やら延々と煮続けている。昼も夜もなく…過疎化しつつあるこの街の人手不足で、中には交代なく三日鍋番をした者も居たとか。


「お…お昼はついに調理すらせず……街に“さわやかのげんこつハンバーグ”を食べに出て行きました!」


「…もう宜しい!!」


グツグツと血管が煮だって行く…

 “フルーツおでん”その発想を聞いた時は驚愕し、驚き賞賛した若い感性…しかしどうだ戦いを前にして、真剣勝負を前にして…なんたる気の抜きよう!

 田武(でんぶ)は暗黒おでん会のようなやり方は好きではないが、少なくとも彼らには愛がある!情熱がある!…一番嫌いなのは愛も情熱もなく料理を提供する者たちだ!

 田武(でんぶ)は金に執着した男であったが、それだけではここまで来れなかった。幼い時の憧れが、渇望が、情熱があったから…幾度となく訪れた苦難を耐えられたのだ。


「…我々は小娘達のお遊びに…付き合わされているという事ですか…!!」


ぞくり…

 おでんブラックの背筋が凍る。


「おでんは一度煮立たせ、冷やし…また煮立たせ、冷やす…その地道な繰り返しで、多彩な具材を調和させるのです、あの娘たちは…インスタントラーメンでも作ってるつもりなのでしょう…」


 おでんブラックは眩暈を覚える…、静岡は東西の中央地のため、様々な新商品が試験的に置かれる土地でもあるのだが…おでんブラックはそんなレアカップ麺を食べるのが趣味であった。まさか会長がラーメン嫌いとは…


「みせてあげましょう!叩き潰してあげましょう!思い知らせてあげましょう!」


 そんな部下の心配などは、怒りに煮立つ会長は気づかない!


「ぐつぐつ煮込み…冷まし…また煮込む!その繰り返しがおでんの“深み”!つい先ほど煮込み始めた小娘達に…我々の長い戦いの…煮込み続けたおでんの歴史が…負けていいはずはありません!!」


 会長は自らが店に立つことを決意する。前線を引退して久しい身だが、この身には数多の技と知が詰まっている!3日煮た大根のように…魂の芯の芯まで染みたおでん愛!それが、静岡おでんギルド、歴代最強のギルド長、田武=好過(でんぶすきすぎ)その人だ!





10月10日(おでんの日) 静岡おでんフェスタ


 関東・関西・東北おでんギルドの参加表明、おでん友の会参加表明、静岡テレビ、静岡農協、静岡漁業の協賛出資決定、静岡駅から北へ10分、青葉通りに看板が出され…チラシやポスターがバラまかれる。行き場を失った者たちに、ハローワークがイベント準備の職を勧める。

 蘭乱(らんらん)達は河童とのパイプを生かした「食材確保」に光を見出し…今日は豪華に河童寿司。


 残暑もやがて消え去って台風も幾つか通りすぎ…あぁ…見てみろよ…台風一過に綺麗な虹だ…



「開幕の日」は…刻一刻と迫っている!(おででん!


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