VSおでんギルドの暗殺忍者
R01.11.09 大幅加筆修正
河童と再会出来たのは、山芋をすり潰しダシと混ぜ米に乗せた料理「とろろ汁」を食べに丸子という山間の村に来た時だった。
もっとも河童に会うのが目的で、この山の味覚は偶然だったが…うむ、旨い!静岡には山の味覚もあったのだ!
グツグツ
「………」
「あっ嬢ちゃんおひさ!食ってくかい?今、カエル足した所なんだ」
ここは猟師が使う休憩所だ、静岡の山は猿と猪が多いので、定期的に退治せねば人里に来る。獲物が人里にやってくれば、つられて熊も出てきてしまうので猟師は河童と情報交換をし交流があり、河童はここを案内の詰所として使わせて貰っているようだった。
グツグツ
蘭乱と流々が訪ねた時は、猟師に貰った猪鍋を突いていた、いや…カエル鍋か。ちょっと興味ある。…しかし、今日の目的は料理ではないのだ。
グツグツ…モチャァモチャァ
「嬢ちゃん知ってるかい?」
「チェストオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
毎日鍋フリ3千回
ついでにマキワリ 素手で100本
まだまだ十代半ばながらも蘭乱の上腕二頭筋はゴリラを超える力を秘めていた。
更にその上、琉球王国王家の末裔たる 流々に“王家”に仕え、料理を作り続けた蘭乱の家は代々が最高の料理人にして最強の格闘家…幼い時から父に厳しい修行をつけられ、料理の片手間に教わった人体の破壊術を習ったものだ。
天性の才覚と弛まぬ鍛錬の果て、彼女の肉体は既にゴリラをを瞬殺するレベルに達していた。
ドグァアアアアアン!(ブシャァアアア
その蘭乱の全力の一撃を喰らい河童の頭蓋は砕け散り、飛び散った脳髄と青紫の血液はカエル鍋の新たな具材となった。カエル鍋を食べようとお椀を持った流々が固まっている、すまん。
グツグツ…モチャァモチャァ
「ハハハハ…いやぁー悪かったって!」
飛び散った脳症を集め食べながら、河童は蘭乱に謝った。食べた分だけメリメリと治る河童の頭部を見て蘭乱は心の底から思う…キモイ。
「…まぁな、人間は過ちをするもんだよ。人間の“器”は、それを許せるかどうかで決まると思うぜ」
なんとか頭部を復活させて、河童は優しい瞳で諭すようなトーンでそう言った。幼子に道理を教える母親のように優しくだ。無駄に長いまつ毛がキラキラと光る。
「それは!!許す側の台詞だろ詐欺河童!!!」
蘭乱は顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。床に多少のヒビが入り、小屋が揺れる。
「あんたがイカ墨とか嘘を付くから!わたしがどれだけ恥をかいたか!」
蘭乱は真っ赤な顔に涙を浮かべてしゃくり上げた。
…ポン
そんな蘭乱の肩にそっと手を置き、河童は小さく首をふった。
「…落ち着きな、嬢ちゃん…さっき言ったろ?河童も人外も…」ペチンッ)
河童は頭の皿を軽く叩いてウィンクをした。
「“器”が大事ってゴファァアアアアアアアアアアアアア」(吐血
蘭乱は全力で河童をミンチに変えた、そして自前の中華鍋に火をかて、玉ねぎのみじん切りを用意した。
グスン グスン
「お嬢…ちょっと早いけど……グスン…お昼作るよ…」
「あばばばば!落ち着いて蘭乱!いや…ね?め…命令するわ!落ち着きなさい!あばぁあ!?」
後ろでお茶を飲んでいた流々はおもわず叫んだ、長年友人として接してきたが、ここは初めて姫=主として接する…ヤバい…親友がすでに再生しようと蠢く緑の肉片を台にのせ、泣きながら玉ねぎと混ぜ始めた!ナイアガラの滝のように落ちる涙…それは玉ねぎのせいではあるまい!心痛ましい光景だが、全力で止めねば命に係わる!うおおおお!
「嘘よね!?それ私のお昼じゃ無いわよね?オロロロロ」(リバース
「お嬢!もうだ駄目なんだ!不死身の河童を殺しきるには火にかけた上で消化でもしないと!」
「蘭乱落ち着て!それ違う!食べ物違う!!オロロロロ」(リバース
…そうこうしてる間に、玉ねぎを貪りながら蘇った河童は蘭乱の作るお昼をワクワクと待っていた。河童は山の妖なのだ、山の気を皿から吸い上げ何度でも復活する不死身の存在(伝承)
「うわぁあああああん!」
◆ ◇ ◆ ◇
「いやーほーんと…すんましぇんでした!」(ペチン
「貴方ねぇ…本当に蘭乱は傷ついてるのよ?」
あれから小一時間、泣き疲れて眠る蘭乱の頭を撫でながら流々は“涙の理由”を説明した。
「……宿とか出先で恥をかいただけなら良いのよぉ、河童さんに化かされたって言っちゃえば良いだけだからぁ…旅の恥はかき捨てですしぃ…ただね」
蘭乱は故郷の沖縄に“手紙”を出してしまっていた。弁明も出来ぬ故郷で笑いものになるかと思うと思春期の彼女には耐えらえなかったのだ。また厄介な事に彼女の父は酒癖く悪乗り大好き、娘のお茶目な勘違いを酒の肴に確実にする。
背景、お父様 私は今静岡の地で素晴らしい郷土料理に出会いました。
静岡おでんという料理をご存じですか?なんとイカ墨を使ったおでんだそうで
魚の練り物と合わせて、海の味覚を味わいつくす一品だと聞き及びました。
また、タコ墨を使った黒はんぺんという練り物も大変美味しく…私は未知なる
味との出会いに感動し…
「王様大変だwww娘騙されとるwww感動しとるwww」
※想像
「あー…若いなぁ…、だーれもそんな事半日もおぼえちゃないだろうに。器が小さいなぁー」
スパンッ(ブシャァアア
流々の手刀が河童の“器”を切り落とした。沖縄の首里王家に伝わる技だ 青龍刀を模したその技は…“竜宮拳”と呼ばれていた。
パリン!
皿が地面に落ちて割れる。
「…そうね、私たちはまだ未熟なの。だから修行の旅にでたんだわ」
「そっかぁ…大変なんだな人間って」(ブシャァアア
「それで貴方、最初何か言いかけてみたいだけど?嬢ちゃん知ってるかい?って」
「あぁ!忘れてた!脳みそ一回出ちまったからな!ハハハ」(ブシャアア
河童はそういうと甲羅を下ろし、内側にしまっていたチラシを取り出した。
「これだぜ!…気を付けな嬢ちゃん達!今この静岡で嬢ちゃん達は賞金首だ!」
「えぇえぇえぇえぇえぇえぇ!?」
流々はチラシを受け取り、目を凝らした。どうやら先日のフルーツおでんが“静岡おでんギルド”なる組織の目に止まり、伝統に唾を吐いた極悪人として二人に賞金を懸けたようだ。
一人暮らし用、おでんパックの10パーセント増量の記載の下、確かに二人の人相書きと“デッドorアライブ”の記載がある。…賞金は?…すごい!静岡貴族の食べ物!浜松うな重の割引券だ!
(…あれぇ?おでんじゃ無いのね!?)
様々な思いが巡り、しばし無言になる流々嬢、そんな彼女をよそに、河童は割れた皿をポリポリと食べながら会話を続ける。
「……警察に連絡をしても無駄だぜ?これが地方の闇だ」
「……」
「今まで何人も見てきたよ…連中に睨まれて清水港からの流刑(マグロ漁船)になった連中…岡部の山間に収容されるお茶奴隷たち…、アハハ…俺は赤石山脈の案内人だからな…結構逃がしてやったもんだぜ、南アルプスの向こうに……長野があるんだ。」
全国を旅してきて思う世の中は広い、テレビや新聞で流れる“当たり前”なんて、この広い世界の隅々までは届いていないのだ。
蘭乱が全国の料理を見て来たように、流々は全国の闇を見て来た…これは彼女の秘密の旅の目的でもある。
「…また一つ、見聞を広げてしまったわ」
「…ハハ!デカい器だ!嫌いじゃないぜ!どうする嬢ちゃん?長野が嫌なら山梨方面でもいい!!そっちのメシウマ嬢ちゃんには悪い事したしな。…安くしとくわ」
「うーん、そうねぇ…」
流々嬢は眠る親友の顔を見て思う。自分達はどうするべきか自分達は何故旅に出たのか…泣きはらした親友の頬を、細く白い指でなぞる。
…そして、そまま…流々は親友を抱きしめて…………ギシッ
ッヒュヒュヒュヒュン!(トトトトスン!
オデンギルドの刺客「オデン忍者」がが放った串は、少女達がいた場所を通り過ぎ背後の林の木に刺さった!(…っな!?
「あれ~?突然夜になった~?日食ぅう?」
(消えた…見間違い?…いや…!…二本は確かに命中している!河童の両目に!)
おでん忍者の視力は両目ともに1.1を超える!街のスロットで鍛えた動体視力に自信もあった!…しかし!この超人の目を以てしても!獲物たる二人…、その動きを捉える事が出来なかった!…汗が噴き出る!静岡名産生わさびを!一本まる齧りにしたような心地だ!
「っどどど何処に言ったでござる!?小娘達…グバッ!?」
「…んもう!蘭乱が起きちゃうでしょ!?」
ドサァア
琉球王国王家の娘=流々、彼女はおでん忍者を縛り上げながら考える。何故、私は旅に出たのか…
気付けば空気は黄色みを帯び夕刻が近づいて来たようだ、スースーと眠る蘭乱に起きる気配はまだ無い…伸びてゆく影を目で追いながら彼女は繰り返し考える、歩いてきた昨日、今、そして明日を…
「蘭乱は料理の武者修行、蘭乱の家にとって…それは琉球の主のため…そのための修行」
(……それはつまり、“私のため”だ)
ドボドボドボ(シュボ
中華鍋に水を注ぎ火を起こした。あと数分もすれば、拷問に使える良い湯加減になるだろう。
「私は見聞を広めるため、それは家のため、良い領主になるため…そうねぇ」
ビリビリ
男の服を破いて猿轡を作る、こうしなければ最初の数分で舌を噛んでしまうだろう。
「蘭乱はいつも、私が喜ぶような料理を考えてくれる。辛いのが苦手な私のために、自分は辛いのが好きなくせに合わせてくれるの“フルーツおでん”なんて無茶振りさえ、甘味が好きな私のために夜なべして考えてくれてたのよ?」
ペチンペチン
(……わたしは、“あの子の為”に旅に出たの!見聞を広め…りっぱな主になる為に!)
ペチンペチン…ザクゥウ!(……ッッバッッツツゥウウゴモォゥォッ!?)
「あの子の考えた料理を“侮辱”扱いするなんてぇ…私は逃げる気にはなれないわぁ…」
華奢で細っりとした体、優しい物腰、前髪を残し…後ろで纏められた美しく青い髪…ゆったりとしたお嬢様…そんな上っ面を、流々は夕闇の中に脱ぎ捨てた。
いつも細められ、笑っているような優しい瞳が、大きく大きく開かれていく…ズズ…ズズズ…
◆ ◇ ◆ ◇
「あーーーーーー!目にゴミが入ってたのか!」(スポポーン!
河童が視界を取り戻すと、あたりには宵闇が迫っている!
「おやや?やっぱり夜だな?んん?」
暗闇の中 火が揺れる 影が躍る グツグツと 何かが煮える気配がする。
「んぐぐぐぐ!」
流々嬢ちゃんが料理に挑戦していた。獲物は新鮮な猿か何かか?
「おっ!?嬢ちゃんも料理出来たのかい?」
「あー河童さん!足の方持ってて!この食材活きが良いから!」
<ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!>
おでん忍者の声なき悲鳴が、静岡の山に木霊する。
おでん忍者は自身の持ち物にあった、一人暮らし用おでんパック(10パーセント増量)グツグツ煮えたぎるオデンを穴という穴にねじ込まれ、静岡に生まれて来た事を後悔した…コワイ!おでんコワイ!
「私たちは逃げも隠れもしないわ、本当に自信があるならば、料理勝負をするべきなのよ!」
「うわーーーん!」
拷問により心を折られ、ルンルン嬢の忠実な下僕となったおでん忍者は、泣きじゃくりながら山を下りた、新しい主から昔の主へ…チラシの裏に書かれた手紙を届ける為だ!
その日の深夜、おでん横丁で飲むギルド長の前には、手紙がつけらた櫛があった。手紙の内容は実に刺激的…おでんギルドに対する宣戦布告と謝罪の要求、そして料理勝負の提案だ。
「フムフム…謝罪要求は解りませんが、どなたか先走ったのですかな?まぁいいでしょう…それより」
この場においてギルド長の言葉に反応する者はいない、トカゲのしっぽがやった事なのだから…頭である彼らに関係は無いのだ。そんな些細な事よりもギルド長の言葉の続き…
「料理勝負…イベント…フフフ…金の匂いがしますよ!良いですねぇ…皆さん!今日は私の驕りだ!アイディアを出して頂きたい!」
牛筋を頬張るギルド長に幹部達が頭を垂れた。停滞した地方経済を動かす波を起こすべく、また、静岡おでんの絶対性を全国に、あまねく人々に広げるためのアイディアが次々と出る。
「ふむ、いいですねぇ…では、明日もこの時間に」
一夜にして計画は出来上がったが、ギルド長=田武好過は焦らない…
「グツグツと煮立たせ、冷まし…また煮立たせる………計画もおでんも、焦ってはいけませんよ」
◆ ◇ ◆ ◇
…3日後、とろろ汁ジャンキーになり丸子宿に泊まり続ける二人と一人の元に河童が来た。チーズフォンデュよろしくトロロフォンデュを開発し盛り上がっている所へ、忘れかけてたおでんギルドからの回答だ。
「嬢ちゃん達知ってるかい?」
河童はそういうと甲羅を下ろし、内側にしまっていたチラシを取り出した。
蘭乱と流々、それとおでん忍者が覗き込むと…黒はんぺん安売り広告の下に記載があった!
「…これがあいつらの答えらしいぜ!“祭り”は一か月後!青葉通りで行われる!」
「優勝者のオリジナルおでんは、ギルドが正式に認めて店を出してくれる?」
「優勝しなければ認めないって事か?」
「蘭乱なら楽勝よ!」
「////あ…ありがと、頑張るぜ////」
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☆安倍川餅☆夜のお菓子うなぎパイ☆静岡土産こっこ☆
★本格イワシの黒はんぺん5枚入り=300円!★
“参加者求む!第一回静岡おでんフェスタ!”~最強おでん決定戦~
主催:静岡おでんギルド 10/10(土)~10/13(月)
♪優勝者オリジナルおでんはギルドが出資、出店サポート♪
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盛り上がる面々の中一人…おでん忍者だけが何かに気付き青ざめた。
「主殿…これは…、きっと罠でござる…!」
「蘭乱!安倍川餅って何かしら?お餅よお餅!」
「よーし、今日のおやつは安倍川餅だぜ!」
こうして面々は決意を新たに山を下り、安倍川橋を渡り茶店に向かった。
静岡とろろギルド
「とろろフォンデュ……だと!?」