海産おでん連合VSスイーツおでん喫茶
R01.11.11 大幅加筆修正 名称等変更
「暗黒おでん会にはがっかりしましたよ!…鍋を放置して逃げるなど!」
三日目早朝
青葉通りの最東端、一際大きなテントを構える「大会主催者=静岡おでんギルド」ギルド長=田武好過は怒っていた!
「何が…おでん愛ですか!何が先祖の誇りですか!今まで語ってきた言葉全てが…一気に薄っぺらく感じます!私はおでんには…濃い味を求める!」
ドボドボと、濃口醤油を鍋に加える、牛筋のうま味の溶けたおでん鍋が暗黒に染まる。
怒りながらも仕事には手を抜かない“理性の人”裏ではどうであれ表では潔白然としていたギルド長が…ここまで“表”で怒りに声を震わすのは初めてだ。裏の顔をしる古株はまだしも、日の浅い下っ端達…特に自身が報告を受けた鍋番の者は震えている。
ザッザッ
「ククク…部下を叱るなら裏でするのがマナーだと思うがね…ククク、通行人までビックリしてるじゃありませんか…東北さんどう思います?」
「そうですねぇ~、うちの加盟店も参加してるんです。主催者がこんな低レベルだとはがっかりですよ…さすが暗黒の街静岡ですね」
にやにや笑いながらやって来たスーツの男は“関西おでんギルド”の会長=喰倒満福
眉をひそめてため息をつく浴衣のロシア美女は“東北おでんギルド”のギルド長=貝好美那須
敵対関係のある二つのギルドのトップが仲良く二人でやって来た。田武好過は冷たい物を背中に感じ…それを隠して平静に返した。
「おやおや?珍しい組み合わせだ…アハハ、タコやクジラや貝なんかをおでんに加えるお二人でしたね?“珍しい”のはいつもどおりですか。」
関西ではタコだけでなくクジラも、東北では貝を入れたりする。牛スジという肉の旨味によった静岡おでんからすれば邪道も邪道、貝は解るが国際的に見てタコやクジラはないだろう…クックック…それをなじった余裕の牽制…さぁどうする?怒りに震えて泣くがよろしい。
「ハハハ!まさしく!クジラにタコ!私のギルドではえぇ入れていますよ?ここは島国!これこそこの国の食文化!」
「ごもっとも…私の国の貝や魚の軟骨も…牛筋などよりよっぽど島国の鍋にふさわしいと思いますわ!」
ゾクり…何故怒らない?動揺しない?背中の悪寒が止まらず…一方で顔が熱い…おでんの鍋の熱に充てられたか?汗が噴き出る。…なんだ…何が言いたいんだ?何を考えている?
♪ポロロ~ン
「わりー寝坊しちまってなカカカ!二人の器なら許してくれるら?」
◆ ◇ ◆ ◇
追い打ちとばかりに緑の全裸男がやって来た、この祭り一番の有名人、イカ墨おでんの歌う河童だ。彼の店はすでに買収ずみで、今も静岡おでんのメンバーが営業しているし、いわばすでに陥落し飲み込んだ身内だ。…そんな人物が何故?静岡おでんの宿敵である二人に駆け寄り親し気にしている?
…なんだ?…なんだこの組み合わせは?
「……い……一体何が?」
「宣戦布告に来たのですよ…察しが悪い」
「私たちは共に“海のおでん”を志す者」
「カカカ…おいらの詩が響いたみたいだ!歌は国境を越えるのさ!」
♪
さぁさ!おでんは海の幸
魚のうま味 すり身練り物
タコに粒貝 ホタテにクジラ
魚の軟骨コリコリ旨し!
うま味と栄養ひとかじり
さぁさ!おでんは海の幸
イカ墨の汁でより深く!
イカ墨の汁でより美味しく!
島国の味、味わおう!
陽気に河童が歌い出す…初日の歌詞をやや変えた歌
明るくおどけたその歌が、田武好過の心を砕く
「…なっ!?…な…ああぁ!!」
タコに粒貝 ホタテにクジラ?さぁさ!おでんは海の幸?…まさか…いや、あり得ない。商売人気質の関西ギルドは解るが、東北は静岡並に閉鎖的では無いのか?あり得るのか?“他国の考えを受け入れる”そんな柔軟性が東北に…
先代のギルド長ではありえない事だ!ありえない!最近世代が変わったからといっていきなりこんな…ッは!?
今年就任したばかりの東北ギルドのギルド長=貝好美那須は浴衣のロシア美女である。…いや、正確にはハーフ!ぐぉおおお、本当に他国との垣根超えてきている!存在事態がノーボーダー!!
「…我々は“連合”を組ませて頂きました。くく…なにが“おでんの聖地静岡”なにが“黒い汁以外はおでんで無し”だ!クハハハハ!笑止!」
……
……………
……………………
………………………………いけない…
…………………………このままでは………
まだ下積みの頃「冷まし」を入れずに煮込み続けて、おでんをぐずぐずの台無しにしてしまった時の絶望感。
あぁ…そうだ…グズグズなんだ…足場が…心が…崩れ…
経済で自由に活動をする関西ギルド、国境さえ超えた愛の自由…東北ギルド
赤石山脈(南アルプス)と箱根山に囲まれて…頼るべき隣県「山梨」と富士山を巡る抗争をし続けている静岡は…静岡ギルドは…もはや時代おくれ…ましてやそうだ…なんなんだ暗黒おでん会って…暗黒おでん神ってなんだ…静岡こわ…
ガクン
「ギルド長ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「大変だ!椅子を用意しろ!」
「手が冷たい…!?暖かい飲み物を…静岡茶を…熱々の静岡茶を早く!」
わー
わー
わー
◆ ◇ ◆ ◇
朝8時、10時開店まで2時間を切ったその時間、フルーツおでんのテントの前で土下座をする男の影があった。
静岡おでんギルド長=田武好過、彼は額を地面に擦り付け、今までの非礼を詫び…そして協力を願った。
青ざめながら経緯を語った…
涙ながらに熱意を語った…
そして幼い少年の目で、懐かしき遠い昔を語った…彼のおでんの「愛」の源流。
静岡において“おでん”とは…お菓子と共に“駄菓子屋”にあった!幼い田武は貧しくて、公園の水で凌ぐほどに貧しくて…駄菓子屋にあるおでんは憧れであった!
おでんと言えばビールと共に
そう言えば邪道…フルーツおでん
おでんと言えば駄菓子の横に
そういえば正道…フルーツおでん
金になるのは前者だ!だから…だから田武は、静岡おでんギルドは今の在り方を推し進めた。
父親に向けた、おでん横丁と言う名の居酒屋運営、母親に向けたスーパーでのらくちん商品開発…しかしどうだ、子供の時に…我々の身近におでんはあった!おでんは子供にも微笑んでいたのだ!あぁあぁそうだ!利ではなく…憧れを、夢を…童心にかえって!
実はホームレスを装って、何度か敵地視察に来ていた田武、公園から覗くそのテントでは、フルーツおでんを買い求め笑う子供達の姿があった…幼い日々の自分に重なる姿が在った。
暗黒おでん会など…決して一枚岩ではない、過激派をも傘下に加えるこの静岡のおでんギルドその長として…けして口には出せなかったが…田武は内心…認めていたのだ。
「「「…我々は“連合”を組ませて頂きました。」」」
“海産おでん連合”その脅威に心砕かれ、プライドを傷つけられ…この地をこけにされ…その時に自然とここに足が向かった
「ちょうど…暗黒おでん会のテントが空きましたよ…そこで…是非に…」
結局、暗黒おでん会の面々は帰ってこない…何人かは山中で見つかったと報告は来たが…酷く精神と尻を病んでいるという話…近くの青葉交番の巡査が発狂し、辺りに発砲…防犯カメラも破壊されていて真相は迷宮入りだ。
「あの店で…“駄菓子屋おでん”を…開いてはいただけないでしょうか?負けるわけにはいかないのです!…しかし、このままでもいけないのです!変わらなければ…私達は…私は…この街で!」
……正直に
蘭乱と流々は余所者であり、そんな思い出話に共感は無い。
しかし、知っていた
蘭乱は料理人として料理にかける“情熱”を
流々は君主の娘として郷土をあいするその“愛”を
「まぁ…面白そうだからいいけどよ。“駄菓子”売らないし名前はそれじゃねーな…そうだなぁ…」
「スイーツおでん喫茶が良いわね、“スイート緑茶ローテーション”よ!」
「す…スイート緑茶ローテーション??」
流々の提案に蘭乱がにやりと笑う…そうだ、この騒動は全て「あの夜」から始まった。
蘭乱が静岡おでんに感動し、蘭乱が静岡茶に感動した「あの夜」
「おっさん!テーブルと机用意出来るか?あと湯飲みとオシャレな皿もいるぜ?」
…こうして!静岡おでんフェスティバル最終日!
関西、東北、イカ墨の「海産おでん連合」
対
フルーツ、静岡、暗黒の共同出店「スイーツおでん喫茶」
それぞれの郷土への愛を、あくなき料理への情熱で煮込んだ鍋料理「おでん」の尊い伝統と型をぶち破り革命を果たす!
世界おでん史に刻まれた伝説の祭…最後の一日が幕を開けた!(おでででででん!