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【一章】ロリはいいぞぉ




普段温厚なディックから説教を受けて、ようやく解放された時には約束の20分をとうに過ぎていた。

皆とっくに集まって、ゲームの勝敗を確認している。

「騎士が50ポイントで魔王チームはそれだけか」

「勇者チームはアルの非道で姑息な手によって、四天王の2人が捕まったから40ポイントが2人で、合計80ポイントだね」

ネルの説明に嫌味も混ざっていたが、友情を重んじる俺は言い返さないことにした。

あと、ディックにこれ以上怒られたくなかった。

それに何だかんだで自分達が勝ったのだ。終わり良ければ全て良しである。

前向きな思考でネルの嫌味を聞き流した。

「くっそ~~!!!!エレナ姉さえ捕まえてれば逆転できたかもしれないのに!!」

ランドが地団駄を踏む横で体中、土や葉っぱを付けて無惨な姿のエレナがドヤ顔で無い胸をはっている。

女の子として彼女はあれでいいのだろうか。

今から彼女の将来が不安で仕方ない。


「カイトはよく頑張ってたよね~」

「ディックとネルは怖かったろうね~」


ミミとララが日向ぼっこを終えて感想を述べている。

君達もゲームに参加してたんだよ、忘れたのかな?

他人事みたいな顔してクッキーを頬張る姿には、俺も度肝抜いたよ。


双子の服はクッキーのくずで汚れている。エレナと双子は、帰ったら院長からの説教コース間違いなしだ。

ララがカイトを、そしてミミがディックとネルの頭を撫でて励ました。

カイトは少し顔を赤らめて「次は捕まらないようにする・・・」と頬をかく。

ディックはぎこちない笑顔を浮かべていた。

ミミとディックの身長差は頭2つ分だ。撫でられる為にわざわざ中腰になっているあたり、彼の優しさを体現している。

ディックは、自分に懐いている子や小さな子に弱いのだ。

マルコーは「ゲームに勝ったけど負けた!!」と騒いでうるさい。

どうやら身を潜めているだけだったのが悔しかったらしい。

鬼ごっこへとシフトしなかったあたり大変優秀なのだが、その悔しさが君を強くする、なんて巫山戯て言えば「うるせー!!!」と怒られた。



反抗期め!!




「ーー・・・そんでマリーナは?」

この場にいない彼女の行き先を問うたが、皆一様に「知らない」の一言である。

冷たい奴らだ。

いや、子供はこんなもんかもしれない。

俺も十分子供だけど。


「ゲーム中、僕が木の上から見回しても、何処にもマリーナはいなかったよ。あんまりこの遊びも興味がなさそうだったから、先に帰ったんだと思ったけど?」


ネルの言葉に皆そんなもんかと納得する。

しかし、俺だけが納得しきれずに「どうしたもんか」と頭を搔いた。


マリーナは、半年前に孤児院にやって来た。


産まれて直ぐに孤児院で捨てられる子供が大半を占めている中、マリーナのように大きくなってからの入所は珍しい。

いまだ心を開いてくれないマリーナは、いつも澄ました顔で1人部屋の隅に佇むばかりで。

何だか見ていられなくなって、何十回も遊びに誘った。誘う度にすげなく断られ、ナンパ初段から瞬く間に上級(惨敗)への道をかけ登った。


ナンパを成功させる秘訣はたった一つ!


負けない心を持つことだ。

と言うか、ここまで振られると振られることが日常になっていた。

「おはよう」の挨拶で「遊ばない」と既に振られるようなもの。「まだ誘いもしてないのに・・・」と虚無顔になったこと数日、流石のマリーナも心が傷んだらしい。

今朝、誘った時に「行く・・・」と微かに首を縦に振ったのを見た時は、自分の目と耳を疑った。

大丈夫、ちゃんと鼻も目も定位置についてる、ついてる。


とにかく、そんな彼女が何も言わずに帰るとは思えない。


「・・・・・・チーム編成まずったかな・・・」

ネルやディックがいればある程度気にかけてくれるだろうと思ったが、 2人は存外遊びに夢中になっていたようだ。

出かける時間が遅かった為、そろそろ院に帰らなければいけない時刻に差し掛かっている。


「俺ちょっと鳥の糞片付けるからさ、お前ら先に帰っててよ。院長には遅れるって伝えてくれる?」


普段ならディックやエレナが「手伝う」と協力してくれる所だが、今回ばかりはディックも手伝おうとするエレナを無言で引きずっていく。


根に持たれてちゃった☆


彼らに倣い、他の子供達もぞろぞろと着いていった。

去り際にネルから「遅刻したら夕飯もらうからな」と冗談混じりで言葉をかけられたが、あの目はまったく笑っていなかった。

直ぐに用事を済ませて帰ろう。


『 生命の根源たる水よ、我らに祝福と世界に潤いをもたらせ 水球(ウォーターボール)


呪文を唱えると、掌に水球が出現する。

ディックが立っていた所一帯をその水球(ウォーターボール)を使って洗い流した。


「こんなもんか」


魔法の素養が全ての国民にあるとはいえ、どうにも苦手意識が拭えない。

掃除や料理、洗濯等の日常生活で使う簡単な生活魔法は、院長から習った。

大人は息をするように炎を灯したり、生活水を生成したりする。

だけど、俺は「コップ 1 杯程度の水」というような匙加減が上手くいかない。多すぎたり、少なすぎたりと他の子供と比べ調整が下手なものだから、正直人前で披露したくないのが本音だ。

まぁ、魔導師や魔法騎士団を目指すつもりもないから、苦手でも生活に困らなければ問題ない。

「ミール、ニケ―・・・、マリーナが何処にいるか分かるか?」

「ホッホッ」

「カァ―」

心当たりがあるのか、ミールは先に目的の場所まで飛んで行く。その代わり、ニケが右腕に停まってマリーナの居る場所まで先導してくれた。

なんと頼りになる仲間だろうか。

さっさと帰った皆とは大違いだ。

ニケの頭をそっと撫でる。

2羽ともに、広場の奥へと進んで行くことから、マリーナがまだ帰っていないことは明らかだった。


良かった気にしておいて。


ほっと安堵の息を吐く。これで何も気づかずに帰っていたらマリーナは二度と誘いに乗ってくれなかったかもしれない。


俺達は(いびつ)な「家族」だ。


血の繋がりがない寄せ集め同士だとしても、同じ飯を食べ、寝起きを共にする同志で、それはきっと「家族」と言えるものだと思う。

それを理解した時から、この「家族」を一生大切にすると決めた。

自分を捨てた親を家族と言い切る自信がなかった。


無意識に癒しを求めていたのか、俺は今まで動物ばかりと接してきた。

じわじわと心に広がる孤独に、俺は逃げ道を探していた。

心の穴を埋める存在を。

考えに考えて、俺は家族(居場所)を求めているのだと気付いた。

そこに至れば、今後の行動は自ずと決まった。

家族を俺の手で大切にする。

シンプルで、それ故に難しい目標だった。

俺は動物だけじゃなく、どんどん皆と交流を深めていった。

俺の決意が伝わったのかは不明だが、孤立気味のディックは皆と関わりを持つようになったし、ネルは勉強以外の物にも目を向け始めた。


俺はマリーナを知りたい。


今までどう過ごしていて、何が好きなのか。

そんな他愛も無い会話をしたいと思った。




広場には、たまに出店が立つこともある。その周辺には幾つか空箱が転がっていた。その空箱の一つで、ミールが羽を休ませていた。


「マリーナ・・・いるのか?もうゲームは終わったよ」


ミールが羽ばたき、その空箱がカタリと動いた。

予想通り、中から無表情のマリーナが出てきた。

「良かった、見つかって。どうしてこんな所に隠れてたんだ?」

殊更に表情と口調を和らげて訊ねる。

こういう時に、詰問地味たやり方は相手を怯ませる。それが分かっているから、院長はいつも微笑みをたたえて子供達と接していた。

なるべく、院長に似せた笑顔を意識した。

「・・・・・・ランドが・・・『俺に続け』って言ってたから」

「え・・・?」

「だから・・・ランドに着いて行ったけど、どんどん引き離されて・・・転けて、疲れちゃったから、ここで隠れてたの」

確かにマリーナの両膝からは、擦りむけて薄らと血が滲んでいる。

話しを聞くよりも先ずは治療が先決だろう。

「気付くのが遅れてごめん。俺、治癒なんて出来ないから傷口だけでも洗っとこう」

そう言って、魔法で水を生成し血を洗い流す。ポケットに随分前から忍ばせていたハンカチを半分に割いて膝に巻いた。

衛生的にどうかと思うが、一応未使用だし、傷口をそのままにしておくのも不安だ。無いよりマシだろう。

許してね、えへへ。

マリーナは少し驚いた様子で俺の行動を凝視していた。

「あ~・・・マリーナ、一応ハンカチ未使用だから、家に帰るまでこれで我慢してな」

「未使用」の部分を強調させて、安心して欲しくて笑いかけた。

淡青の瞳は澄んだ空の色に似ていた。その空に薄い雨の膜がはってみる間に涙が零れ落ちた。

「えっちょっ!?ごめん、膝痛かったか?」

乱暴に扱ったわけではなかったが、やはり痛かったのだろうか。

女の子の扱いは難しい。

焦って謝る俺にマリーナは首を横に振る。

その度に涙が散り、キラキラと夕陽に輝く。

綺麗だと思ったが、泣いている女の子にそんなことを言うほど鬼畜ではない。

困って慌てる俺に、彼女は小さな呟きをこぼした。


「・・・・・・アルレルトありがとぉ」


少し舌足らず気味の言葉に、それでも嬉しくて自然と笑顔が浮かぶ。

「ん―ん、俺がしたかったから、いいんだよ」

家族を大事にしたいというのは、俺の自己満足に過ぎない。

それを感謝される必要はないのだ。

「・・・で、話しを戻すけどさ、若しかしてマリーナ勇者ごっこしたことなかった?」

思い返せばチーム決めの時、ランドがアホみたいに「俺に続け」発言をしていたような気がする。しかし、それはどう考えても年齢なりの、はしゃいででた発言だった。

しかも、このゲームのルールを知っていれば、1ヶ所に集まることのデメリットも理解しているはずだ。

その上でランドの言葉を鵜呑みにする者は、早々いない・・・・・・と思う。多分。


1人、孤児院で過ごしてきたマリーナを思い浮かべた。


「・・・うん、したことない」

彼女は少し罰の悪そうな調子で答えた。

その姿は、今までの澄まし顔より遥かに人間味が合っていい。

それにしても、遊ぶ前にルール説明なり、誘った俺が気にかけていれば良かったなと1人反省した。

「本当にごめんな・・・。一緒に楽しめたら良かったんだけど。・・・次はマリーナが知っている遊びをしよう」

提案してみたものの、マリーナは物悲しげに首を横に振る。

「・・・遊んだことない。今までずっとお父さんに言われて物盗りしてたから。今日、皆で遊んだのが初めて」


マリーナは淡々と語る。輝く瞳も徐々に陰を滲ませ始めた。






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