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【一章】俺の愉快な仲間達を紹介するぜ!・・・別に愉快ではないんだぜ



俺は院長と仲間(家族)の手によってすくすくと育ち、6歳となった。



「アルーーー!!!!あーそーぼーーっっ!!!!」


同い歳のエレナが赤茶色の髪を揺らしながら全力で俺にタックルする。

エレナの攻撃がいい具合に鳩尾にヒットした。

「ぐふぅ」と空気を震わせて、俺はエレナの衝撃に耐えられず、地面に倒れて悶え苦しんだ。

エレナは「ごめんごめん」と言いながら(へらへら笑っているので誠意を感じられない)、俺の背中についた砂を叩き落とす。

ばしばし叩くな!!痛くて泣くぞ!!!


「・・・エレナ、お前もうちょい力加減どうにかしろよ・・・。俺より小さい子にさっきのタックルかますなよ、怪我するぞ。もしくは死ぬ、お陀仏」


「大丈夫!アルにしかしないから安心してね!!!」


他の仲間達(家族)の為に危険性を説いたものの、どうやらその危険は俺にしか訪れないようだ。

納得しかねる。

何処に安心したらいいのか分からない。

言外に殺すって言われてるのかな。

俺は自分を犠牲にしてまでエレナのタックルに耐えたいとは思えないので、被害者を量産することにした。


「そう言えばさ、ネルがお前の情熱的なタックルを受けてーって前に言ってたよ」


そう言って机でお上品に読書しているネルに話しをふる。

話しを振られたネルは、耳ざとくーー・・・というか普通に聞いていたのだろう、肩をビクリとはねさせソロリとこちらに顔を向けた。

成長を見込んで大きめに作られた彼の眼鏡がずれ落ちる。

僅かに緑みを帯びた青黒い前髪から、恐怖の色をたたえた眼がのぞいている。

俺の見間違いでなければ、うっすらと涙の膜がはっていた。

一緒にエレナの被害者になろうぜ。


「い、いや、僕は読書で忙しいから・・・。エ、エレナの情熱的な抱擁?は、今はいいよ?本当にいいからね!!!???」


ネルの顔は恐怖で引きつっていた。

言葉の最後に彼の縋るような気持ちが垣間見える。

エレナを傷つけない言葉選びに、ネルの優しさが溢れている。

それを理解している周囲の人間は、苦笑いを浮かべていた。

残念なるかな、気付いていないのはエレナだけである。


「どうしたの!?ネル凄い顔青いよ!?大丈夫!!??」


正直に言おう。

エレナは、純粋無垢なパワー系馬鹿だ。

パワー(馬鹿)系だ。

そんな彼女がネルを本気で心配してギュッと抱きしめた。

抱きしめる必要性があったのかは甚だ疑問だが、彼女なりに心配しての行動であった。

・・・・・・心配する気持ちと比例して、力も上がっているようだが。

エレナに締めあげられ、「げぇぇ」とカエル(ネル)が潰れたような声を上げる。



「さらばだネル――・・・お前の勇姿は忘れないぞ」



右手を拳にして胸に掲げ、死者への鎮魂のポーズをとった。

俺達のやりとりを見た他の奴らが笑って俺を真似る。

エレナも皆に倣って首を傾げながらポーズをとるものだから「お前が原因だよ!」とツッコミを入れられている。


「げほ・・・っ、僕を勝手に殺すなよアル・・・」


「おお生きていたかネル。読書やめて外で遊ぼうぜ」

「最初っから素直に誘ってくれよ・・・」

ネルは疲れた様子だったが了承した。


すまないネル。エレナのタックルが予想以上に痛かったから、小休憩したかったんだぜ。とは言わない。

言ったら1週間は、ネルに口をきいてもらえないと想像がついたので。




小さい子供らも連れて外の広場へ向かう。広場にはベンチで日向ぼっこしている老婦人に、大樹の側で休んでいる若者や、他に遊んでいる子供達がいた。


「よーし、じゃあ勇者ごっこしよーぜ」

俺の提案にちみっ子達が「はい!僕魔王!!」「勇者やるー」「魔導士!魔導士!!」と自分がやりたい役職を口々に叫ぶ。

「はいはい、じゃあランドが魔王。四天王がネルとミミにディック、マリーナだ」

ランドは自分が魔王になれた事が嬉しいらしく、「皆俺に続けー」とはしゃいでいる。

ミミは肩まである髪を指で弄び、マリーナがはしゃぐランドを冷めた目で見ている。

ディックはネルと既に作戦を練っているのか、お互いの額がくっつきそうな距離でブツブツとうるさい。

まぁ、コイツらの性格とか諸々考えて、このグループが最適だなと満足しつつ、もう1チームも編成していく。

「マルコーが勇者、魔導士はララ、騎士をカイト、あー・・・姫はエレナで俺が盾役な」

マルコーとカイトは、既に木の枝を見つけてきて素振りをしている。

気分は勇者と騎士なのか・・・、まぁどちらも木の枝を振るうジョブではない。

ララはぽやーっとした顔で佇み、エレナがやる気満々でふんすっと拳を握る。

こんな姫は嫌だなあ。


因みにこの勇者ごっことは、魔王と勇者チームで別れて戦う。

基本的に相手チームの誰かの身体にタッチすれば、そいつの保有ポイントを奪取できる。

また、捕まえた奴は捕虜として自分達の陣営に連れ込むことが可能だ。因みに勇者と魔王が100点、他のジョブが10~50点保有している。

そんな中、姫は両陣営から独立した存在となっている。

姫をゲット出来たチームは、幾らポイントを取られようと姫が捕虜となった仲間を助ければ、そのポイントは消滅し、再度自分達のポイントになる。しかし、「姫をゲット」出来なければ、姫の特殊能力を使用することはできない。

また、1度姫をゲットできたとしても、特殊能力を1度使えば再度姫は自由となる。

姫が1度も捕まらず逃げ切れば、姫の勝ち。姫自身にもポイントはあるが、両陣営から追われる損な役回りでもあるので3回までは捕まっても姫のポイントが動くことは無い。逆に敢えて捕まって捕虜を助けてしまえば、その捕虜が本来有していたポイントを半分手に入れることが出来る。要するに、姫は捕虜を助けない限り、ポイントが手に入らないのだ。

本来なら、細々としたルールがもっとあるのだが、結局遊んでいると鬼ごっこ的な感じになって終わるので、「勇者や魔王になりたい!!」願望を叶える為のスパイス(鬼ごっこ)である。

正直、このメンバーがルールをちゃんと把握しているのか疑わしいものなので、本当に勇者ごっことは名ばかりの鬼ごっこだ。



鬼ごっこだ!!



ーーとにかく、姫役は体力が無いとやっていけない。


体力の無いネルが姫役だった時は悲惨だった。

しかし、体力しか取り柄のないエレナならば、この姫という大役をこなしてくれるだろう。




「よっし!じゃあ時間は20分まで!!エレナは先に隠れるなり、なんなりしてろよ!!」

「はーい!!」

エレナが見えなくなったことを確認して60秒数える。

「試合開始!皆散れよー!!」

俺の掛け声とともに、魔王チームと勇者チームは自分の陣営に散っていく。

この後、どう動くかは自由だ。

姫を放ってポイント重視で敵チームを追い回しても良い。タイムアウトとなるか、仲間が全員捕まればゲーム終了となる。


「マルコーはカイトのそばを離れるな。それ以外なら何をしてもいい。カイトは勇者のマルコーを護衛!絶対にマルコーのポイント(100点)だけはとられるな。ララは・・・あー・・・好きに動け。俺は敵を撹乱する」


ララがいる方向を見て、俺はため息をついた。ベンチで日向ぼっこしている老夫妻に混じってお茶をしている。

「お菓子までありがとうございます・・・」クコの実が入ったクッキーを頬張るララに代わり、お礼の言葉を述べた。

老夫妻はニコニコと微笑み、俺達を見守る瞳はなんだか生温い。


「あひふぁほぉーごふぁいまふ」


口の中でクッキーをもごもごさせながらきっとお礼を言っているのだろう。


・・・・・・何語かな?ララ語だよ。


さよなら、ララ。君はもう要らない。

ララをおいてゲームに戻る。

その時、エレナの姿は見つけられないが、ランドの「は、早い!?本当に人間か!?!?」という驚愕の声とエレナの笑い声が聞こえた。

ランド・・・エレナの身体能力の高さに驚いているのは分かるが、仮にも女の子相手に人間かどうかを疑う言葉を吐くなよ。

呆れたまま、状況確認を続ける。


魔王チームの陣地には、ディックが残っていた。

その後ろには、既に捕まったカイトが正座している。

さて、こうなるとこちらのチームで戦力となるのが、マルコーと俺だけだ。

勿論、ララは戦力外通告済み。

対して、ランド、ネル、ディック、マリーナと魔王チームの戦力は高い。

ミミは気づけばララと並んで老夫妻から餌付けされている。

リスのように頬張って「ほいふぃー」と喜んでいる。


・・・・・・ミミ語かな?双語だよ。


しかし、カイトを抑えられたのは痛かった。

俺はチラリと時計台をうかがう。その秒針は、ゲーム開始から5分が経過していることを示していた。

5分もかからずゲームに飽きてるんじゃねーよ双子!!逆になんで遊びに参加した!!!

と思いはしたが、思うに留めた俺は優しい。



「ーーさて、ニケ!ミール!!いるか?」



空に向かって求める姿を探すと、羽音をたてて俺の肩に烏とそして、頭に鳩が停まる。

「ニケ、悪いが敵情視察を頼んで良いか。特にランドとネルがどこに潜んでいるか探してくれ」

烏のニケは、了承の意味としてその(くちばし)を頬にすりつけて飛び立った。

「ミールは、俺の傍にいて助けてくれ」

白藍色の鳩、ミールは首を傾げつつも「ホー」と鳴く。

まずは、隠れてニケが帰ってくるのを待つため、茂みの奥に身を潜めた。

ミールは一旦俺の頭から降りて、行列をつくっているアリを食み時間潰しをし始めた。



ーーー俺は昔から動物に好かれていた。



馬の飼育の手伝いをすれば、そこの馬達は俺からの干し草しか食べなくなったり、野良猫は足に擦り寄ってごろりと腹を見せて親愛を表現したりする。

気付いた時から当たり前に動物から好意を示されるので、「そういうもの」として認識している。

その特性を活かして、と言うのも変だが、生ゴミを漁っていたニケを餌付けし、異性を追っかけていたミールを口説き落として友達になった。

好かれていることは分かるが、動物の考えていることや訴えていることが分かるわけではない。


烏のニケは知能が高く、簡単な指示ならばこなすことができた。


ミールは・・・、やればできる子なのだ。


普段は、雌のことしか考えず、雌を追っかけまわすことしかしていないが、手紙を運ぶこともできる。

しかし、ミールの個性・・・というか本能(性欲)を鑑みると安心しきれない為、ついつい俺の傍でできることを頼んでしまっている。


信じきれない俺でごめんな。


ミールの頭を撫でていると、ニケが「カァ」と鳴いて帰還したことを告げた。

「お疲れ様、ニケ。ランドはどこにいた?」

「カァ―・・・」

俺の質問にニケは、顔を広場の奥へ向ける。

「距離は?俺の徒歩でどのくらいの分数がかかると思う?」

「カア、カア、カア、カア、カア」

「えっと、広場奥俺が徒歩で大体5分程度の距離ということでいいか?」

コクリと1回頷く。

これは肯定の意味だ。

時間の概念や疎通の取り方とここまで理解出来るようになったのは、ニケが特別な個体故か。


はたまた俺の教え方が上手いからか・・・。

恐らく後者だろうなぁ、いやぁ、才能溢れるね俺。


1人で馬鹿をしつつも、ネルがここから近い木の上で見張りをしていることが判明した。




「まずは、ネルから落とすか」




自然、ニヤリと口元が弧を描いた。






ゆるゆるのゲームルールですが、さらっと流してもらえたら。

でもね、これ大人がやると姫が魔王からも勇者チームからも求められて逆ハーを楽しめるんですよ。

いや、知らんけどね。

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