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小山家の人々  作者: 小山淳志
7/12

扉の向こう

ガラス扉の向こう側

小さな女の子を乗せた自転車が通り過ぎる

あの人の横顔が通り過ぎた

どこへ行くの

扉を叩いたけれど 廊下にはこだまが残っただけ

ここには鍵がしてあって 外には出られない


農家の嫁として 村から嫁いだ日

あんたあ大柄で丈夫そうじゃから

うちみてえなところに来てもらえてほんと助かるわ

姑にたいそう重宝がられ

早う孫の顔が見てえなと

夕餉には舅に呟かれていた日々


戦争に連れて行かれたあの人は

二度と戻ってくることもなく

身ごもっていたはずの赤ん坊も

農作業の雫と消えた


実家からは もう帰って来られえと 知らせが来たけれど

頼むから私らあの面倒を見てくれえ 田んぼもあるしと

そのまま 家を手伝い 田んぼもした

舅を見送り 姑も看取った 五十年が過ぎた


歳を取るに連れ 足腰が弱うなってなあ

こねえな風に 赤ん坊みてえにへえへえするように

家ん中を動きょおったんじゃ

土間へも降りれんから 板を渡してなあ

風呂にも入れんからずーっとおんなじ着物じゃったんよ


どおしても外へ出にゃあおえんときもあったから

そのまあんま 這うて歩きょおったら

子供らあ連れた先生にたまたま会ってのお

家まで負ぶうて帰ってくれたんじゃ


その後 ここへ来たんじゃ

ご飯もしてくれるし 風呂にも入れてくれる

ええ暮らしになったわ


今日見た自転車で女の子連れとった人が

あの人に見えてなあ

話しょお 思おたんじゃけど

戸に鍵がかかっとってなあ 出れんのんじゃ

戸に鍵がかかっとってなあ 出れんのんじゃ

実際に体験したことをミックスして構成しました。

祖母も後々入ることになった

特別養護老人ホームのそばを通りかかった時

大きな音でガラス扉を叩くおばあさんを見かけました。

自転車の後ろには当時3歳くらいの娘を乗せていました。

と思うのですが、本当は怖くて入口の方を振り向くことはできませんでした。


さらに遡って若い頃、校外学習で学区の探検をしていたら

向こうからハイハイしながらやってくるおばあさんを発見。

実際におんぶしてくれたのはたまたま出会った通りがかりのおじさんでした。

家まで連れて行くと、土間から部屋の中へと斜めに板が渡してあり、

ここを上り下りするのだと教えてもらった。

おんぶしたおじさんから後で、着物が臭った、風呂にも入れてないのだろうという風に

言われました。

その後、一人暮らしで大変そうなおばあさんがいますと役場に連絡しました。

役場も把握していたようで老人ホームへの入居を検討していますとのことでした。


「鍵」をテーマに詩を作ろうと企画した朗読会で読みました。

あの頃は1ヶ月間、テーマを巡って何を語ろうかと

自分の深層まで降りていく日々が何ヶ月も何年も続いている日々でした。


そんな作品が、巡り巡って自分の家族の身にも起きてくるのだとは思いもせずに

創作していました。




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