茶太郎は彗星のように
沙紀と瑞希がリビングの床で川の字に寝ている
二時間ほど前に逝った茶太郎を包み込むようにして
茶太郎も 息をせぬままマットレスに横たわって
僕も息をしなくなったら 二人は僕のそばに来て
川の字になって 寝るだろうか
朝まで寝られなくなった
僕は台所に立ってひとり 洗い物をすることにした
明け方5時になったので 木曜日のゴミ出しに行く
雪の降った次の日だったから
峠道を避けて 仕事に行く
冷たい風が飛んでゆく青空を眺めながら
茶太郎が死んでも
何も変わらない毎日が続くことを確かめる
沙紀3歳 18年前に茶太郎を貰ってきた
ぬいぐるみのように小さな茶太郎を弄んでいた
瑞希が生まれたのはその5年のち
添い寝をする茶太郎の方が大きく長かった
やがて瑞希が追い越し茶太郎が老いていく
瑞希は
今日を迎え 添い寝する
茶太郎のいない日も 茶太郎のいないまま
そのままのカタチで時間は流れていく
その日茶太郎がいなくなったことは
一日口に出さぬまま過ぎた
僕がいなくなったら
語ってくれる誰かはいるのだろうか
フッと現れては消えてゆく彗星
生きていく中で
ペットとして飼い出し、命尽きるまで面倒を見る暮らしが
何度も続いている。
ある日拾われてきて、命が我が家の中で輝き出す。
友として暮らし家族として暮らし
ある日、先が長くないことを知る日が来る。
動物の命を見送ることに慣れたとは言わないまでも
耐えられるようになってきた時、
家族の命を見送る時もやがて来るだろうとは
思っていなかった。