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小山家の人々  作者: 小山淳志
2/12

施設の父 還る?

幸せじゃったのにのう

一日野菜作りをして

草刈りして トラクターひいて

日が暮れたら

晩飯には必ず梅干しとゆで卵を付けて


なんでわしは今

こんなところにおるんかのう


お父さん

今は帰りとうても

どっこの部屋の中も廊下も台所もみいんな

要らん物で溢れかえって

帰れんのんじゃ


そりゃあ ええつのせいじゃ

片付けを一つもせんで

おるからじゃ わしゃ関係ねえ

おめえの嫁に片付けをさせりゃあええんじゃ

ここにおったら寝たきり 立てんようなって死ぬる


わしを早うここから帰らしてくれ

早う畑のことをせにゃあおえんのんじゃ


お父さん

早う帰りとうても歩きょうらんが

杖ででもついてなんぼか歩けるようにならんと

無理じゃ

畑は一年も前から草ぼうぼうじゃし


お わしゃ歩けるで

ほりゃ立てるで

トラクターじゃって乗れるで

いつなにをすりゃあええか言うから

歩けんでも畑あできる


畑のことを早うせにゃおえんのんじゃ

ハンコをはよう押してくれ


お父さん

車椅子に座って一日雑誌を読んで

過ごしていたら幾ら何でも

筋力は戻りませんよ

リハビリ時間以外もやらないと


何を言よーるんなら

短歌はわしの命じゃ

この施設は金儲けしようとしょーるだけじゃ

這うてでもトイレに行くから

早うハンコを押してくれ

わしゃあいつになったら帰れるんなら


契約書を見せてもろうたんじゃ

おめえがわしをここに入れたんじゃろ


お父さん

片付けしてベッド入れてバリアフリーにして

リハビリで手摺り伝いか

杖ついて歩けるようになれば

家に戻れるようになります


※繰り返し(10回)


灯りの無い蔵に閉じ込められ

延々きちんと謝るまで絶対に出してやらんと

灯りが漏れる鉄格子の窓枠の向こうから

父の叱責する声が何度も響く


イツデモスグニ還ッテオイデ

ゴミ屋敷トイウ暗ガリノ中

小便ニ塗レテ泣イテイレバイインダ

施設内で壮絶な親子バトル

2時間経っても埒があかなかった。

結局コーディネーターの半ば強引な

「明日、帰る書類を作りましょう。」の一言に助けられて

私は家に戻った。

まさかこの数ヶ月後に父が亡くなってしまうとは思いもよらなかった。

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