5 閉鎖的な村で
集落の入口といえるのだろう門をくぐると、髭面の屈強な男達が武器を手に手に現れた。
(十数人・・・魔術師はいない)
魔術の式を空間に投影する姿が見えないことから、スカイはそうあたりをつけた。
「ライラ!」
男達の後ろから、老婆が声をかける。スカイの肩に担がれた少女は、少し身じろぎをした。
「ライラ?この子の名前?」
リウイが聞き返す。リウイの姿を見て、男達が後ずさった。
・・・獣人の生息していた地方。リウイを見つけた場所はここから遥か遠い。
辺境のこの村では獣耳の生えた獣人の存在を知らない者もいるかもしれなかった。
スカイは、ブレスレットを見せた。この大陸に住むものなら知らない者はいない、王都に属する魔術使徒の証の品の茨にからみついた蛇をかたどるブレスレット。そこにはⅩⅢというシリアルナンバーが入っていた。
「使徒様?」
「番号入り・・・使徒長様?」
王宮に仕え、魔術をはたらく者をこの国では使徒と呼ぶ。その使徒を束ねる使徒長のブレスレットには、それぞれの隊番号を入れたシリアルナンバーが入っている。
「俺の名はスカイ・W・ヘヴンリィという。王宮使徒の十三番使徒長だ。森の中で少女がバグに襲われていたので保護して連れてきた。」
ブレスレットを仕舞いながら、ライラを近くの男に渡した。男は、ライラの息を確認してから聞き返す。
「おれは王都のことはよく知らないけどよ」
男の眼は不信感で満ち溢れている。
「使徒は十二番隊までしかないってのは知ってるぜ。田舎者だけどよ。」
「俺は特殊部隊だ。といっても、俺しかいないが。」
「スカイはおーさまからの直令で動くんだカラ!ふつーのやつはしらねーの!」
黙ってろリウイ。といいながらリウイの頭を掴んで自分に引き寄せる。
「今は任務を受けるため王都に向かっている最中だ。まだ任務を正式に受けていないから派手にドンパチやると始末書だ。このことは内密に頼む。なんなら召集された令状を見せてもかまわないが。」
スカイが、ごく自然な仕草でローブの中に手を入れるのを、村の・・・長なのだろう、恰幅のいい男が止めた。
「いい。ライラが無事ならそれで十分だ。疑って申し訳ない。」
出しかけた令状をスカイはしまった。特殊部隊の13番目の使徒長になってから、このやりとりは慣れてしまった。
市民には、使徒は12番隊までしか知らされていない。市民からしたら、13番なんてものを騙る人間は本物か、使徒をカタる本物のバカのどちらかで、どちらであっても深入りしないに越したことはないのだ。
「・・・あなたが村長か?」
「いかにも。この村は名前すらない小さな村だ。町の人間はウイルナビレッジと呼んでるらしい。買い出しの時にしか交流はないがな。」
「女神を信仰する村か」
「いかにも。わしはアンダンという。・・・もう遅い。一晩くらいなら、わしの家にくるがいい。」
アンダンと名乗った50歳くらいの村長は、ほんとうはもう出て行ってほしそうだった。
「すまない。乗り合い馬車で、オーレストル・・・ここから一番近い町になるのか?まで行く予定だったんだが、バグの気配を感じて下りたんだ。長居はしない。」
長居するつもりがないと知って、村人たちは心底ほっとしたようだった。仕事を思い出したように、男たちは野良仕事に戻っていったし、女たちはライラを抱えて村の教会に入るところだった。
自然と人払いができたところで、スカイがつぶやく。
「村長さん。俺の任務は主に単独でのバグ退治なんだが・・・このあたり、いやにバグの数が多くないか?」
アンダンは何も答えなかった。
聞こえるように、耳元まで声を届かせる魔術を行使したにもかかわらず、なにも答えなかった。
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読んでくださってありがとうございます。(続きます)