3 綺麗な死体で舞う乙女
スカイは、意識を失ってしまった少女を肩に担ぎながら視線を巡らせた。目には見えない精霊が近くにいる気がしたからだ。
工業に頼り発展してきたこの国では、精霊は稀少である。
人間は精霊を殺してきた。今なお、工場が吐き出す煙で精霊は死に続けている。
魔術の実体も、精霊に力を借りる「魔法」を使えるものはごく少数。殆どのものは自ら、もしくは魔族と契約して得た魔力で「世界を書き換え」て魔術を行使している。
世界の理が「9×9=81」ならば、魔力によって「9×3×3=81」にしてしまう。滑り込ませた「3」に氷や炎の力を持たせて、魔術師は魔術を使う。
スカイはもちろんその方法で魔術を使える。が、使えるものの少ない精霊を使用しての魔法を使うことができる。緊急時や、精霊が呼応しない場合以外は精霊魔法を使う。スカイは、従者として獣人族に先祖返りした少女を連れている。
名前はリウイ。精霊と親和性の高い獣人族の肉体に精霊を宿らせたものを王宮が作り出した。
人間はどこまで傲慢なのだろうか?元から居たはずの精霊すら、工業技術によって作り出してしまった。
「リウイ。」
スカイが呼べば直ぐ側に、少女の姿がある。正式にはリウイ・キリル。キリル村のリウイという意味だ。背中に半透明の妖精の羽根と、獣人族の証である猫耳と尻尾を持っている。
精霊由来の背中の半透明の羽根で忙しそうに飛び回りながら、その猫のような尻尾をスカイに絡める。
じっと少女を見つめてから、彼女は不満そうに言った。
「こいつ、どうすんの?つれていくのはやだかんね!」
その茶色の猫っ毛を撫でつけながら、スカイはため息をつく。
「連れて行くわけ無いだろ。ここいらで村の心当たりがないか仲間に聞いてみてくれ。この子はそこの出だろう。早急に送り届けなきゃ・・・」
「送り届けなきゃ?」
「俺たちが暴行犯の疑いで警察の世話になる。それだけは御免だ。」
スカイの言葉におかしそうに笑って、半透明の羽根を何度か震わせた。
そのまま空へ、駆け上がっていく。集めているのだ、まだ残る精霊のかけらを。仲間の死体を。そうして取り込んで、リウイは強くなる。
その力を借りて魔術を行使するスカイも、死体の山を利用して強くなるのだ。
精霊の死骸は人間のそれと違って美しいと思えた。いくつもの光の粒が優しく語りかける。
ーありがとうー
ーまた一つにしてくれてありがとうー
人間も、綺麗なまま死ねばこんなに綺麗なままいれるのだろうか。
スカイはそんなことを考えていた。