2 救いの天使
きりきりきりきり・・・
歓喜ーのように聞こえるー声を上げながら鎌を振り上げる。
バグは人を殺すことだけが目的で、食べることはしないのだという。食物連鎖にすら逆らっている。
「いや、たすけて、たすけて、ウイルナ様!ウイルナ・デ」
少女の言葉の後半は、祈りの言葉だった。今の状況では呪詛に近い。
彼女の村の祈りの言葉だった。
今は失われた神に祈る言葉。
それに意味があるかはわからない。
だが、彼女の言葉は天使ではない何かを呼び出した。
大木の向こうのバグが小さく鳴いた。少女からは見えなかったが、もろもろと水に入れた泥人形のように崩れ去る。
そこから先は、少女にとってスローモーションだった。
振り下ろされる鎌
何かがかすめてその鎌を吹き飛ばす。
切り落とす。
そこで少女はやっと、自分を助けているそれが人の姿をしていることを知った。
髪の毛は腰までの白銀、ローブも白く、ローブから見える革のパンツだけが黒い。
少女に一瞥を落とす、その瞳は「失われた」空色だった。
「天使さま・・・」
少女のつぶやきを聞いてか聞かずか、彼は魔術を駆使してもう一段飛んで、バグの首を落とした。バグは白い灰になって消えた。
「・・・俺は天使種族じゃない。スカイ。王宮魔術師の一人だ。君は?」
少女はーー答えることができなかった。少女の視界は、安堵のためか白くなっていたからだ。