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「アッシュ、下がれーーユエも、疲弊するな!また、生まれるーー」
アッシュの真後ろに生まれたのは、あのカマキリのような形をしたバグだった。振り向きざまにそれを剣でまっぷたつにしながら、アッシュが皆の元に帰る。
「なんだコレ、キリがねぇじゃねーか!」
世界に生まれた歪みが原因でバグが生まれる。たいていの歪みは、バグが生まれた時点で、半ば無理矢理ーー帳簿を書き換えるように修正されていく。
世界の理から、今の世界がー3の値なら、バグに+3の数字をもたせて、世界の均衡を保っているーーというのがスカイが立てた仮説だ。
そしてその歪みが、ー3をはじき出し続けているのなら・・・おそらくバグは無限に生まれ続けるだろう。歪みの原因になる式を書き換えるまで。 そもそも、そのゆがみがどこからきたのかも判らない。何故空間に歪みが生じて、誰が何を願って、バグが生み出されているのか。
「世界の歪みの原因を見つけないとーー修正しないと、無限に生まれ続けるぞ、コレ。あのバグがーー生まれる原因になったモノを消すしかない。」
「原因ナンか・・・・・・わかんないよ!」
「・・・森が、原因の可能性は・・・?」
リウイの大声に答えるように、4人が屋根の上に立つ教会の後ろから、聞き慣れたか細い声が聞こえた。
「ライラ!」
リウイが屋根を飛び降りて声の主ーーライラの元に駆け寄る。
村を包んだ炎にいぶされて、すすだらけになったその顔。けれど瞳は強い意志をたたえていた。
もう何も迷っていないかのような表情で、ライラはスカイにもう一度問う。
「あの、なんでも願いが叶う森、か。それは・・・」
「何でもぉ?それが原因じゃなくてなんなのかね。」
スカイの返答と、アッシュの嘆息はほぼ同時だった。震えるような吐息とともにか細い声で、ライラが言葉を紡ぐ。
「森が・・・原因なら、森が、なくなればいいのね?」
ライラは、どこか4人ではなく遠くを見つめるような瞳で言った。
「・・・まぁ、そういうことになるだろう。」
その遠くを見つめる瞳を見ていられなくなって、スカイはボソボソと答える。
この村は、あの森にいるという女神を信仰する者たちが集まった村だ。
信仰者が、信仰の対象を消す。神殺し。
信仰の対象を無くしてしまうことがどれだけのことか、察するに余りある。
「本当は・・・代償なしに願いを叶えるモノなんて、それ自体で歪みの宝庫だ。力を持つ俺たちでさえ、魔力というエネルギーと引き替えに願いを叶えている。しかも限定的にな。」
まるで言い訳だーーとスカイは内心思う。言い訳以外の何でもないのかもしれない。他人の信仰を、その聖地を、俺たちは今から蹂躙する。それは世界の為なのだと言い聞かせる。
「・・・じゃあ、森に行きましょう。あの女神の像に願いましょう?・・・もう、神様なんかいりません、って。」
リウイの手を引こうとするライラの前に、アンダンが立ちふさがった。
「駄目だ!」
アンダンの表情は、村長のそれではなく、ただ一人の男として人間として叫んでいるようだった。
「おまえのためにーーそれだけはできない!」
ライラの顔がひきつった。おまえのために、という言葉に、何故かスカイの胸の奥にある炎がくすぶるのを感じる。
「私のために!?村が燃え尽きてもいいんですか、村長!村だけじゃなくて、この獅子が町にまで降りたら、町だってーー私のせいでなくなるんですよ!!」
「かまいやしない!お前を失うのも、村を失うのも儂にとっては同じだ!いいや、世界がなくなったってあの神だけは殺させやしない・・・!」
アンダンが銃を構える。ひときわ重い鈍色の銃口をこちらに向ける。
それはサブマシンガンだった。




