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 キリキリキリキリキリ・・・


 バグが発する声が、何重にも重なって村に響く。


「う、らぁっ!」


 アッシュは鋼の大剣を振りおろし、カマキリの形のバグの肩口から腹にかけてを切りつけた。

 動けなくなったバグが、行動を停止する。

 それを横目に見ながらスカイは、左手を前方のバグの集団につきだした。


「暗黒よ!」


 手のひらの先に、黒い鉄球のような塊が生まれ、それが小さなビー玉くらいの大きさに分裂する。数にして100程度。音もなく10数体のバグの集団に近寄っていく。

 そしてその球に触れたバグが、触れた場所から消失した。


「消失魔術・・・!」


 アッシュが思わず後ずさる。


「お前、俺に当たったらどうすんだよ!」


 スカイは涼しい顔をして答えた。


「心配するな。お前には効かない。」



「そりゃそうだけど」


 実際、アッシュには魔術が効かないのだ。

 鋼のアッシュという異名を持つ彼は、生まれたときから魔力というものをみじんも持っていなかったのだという。それ自体はあり得ることなのだが、アッシュは他人の魔術すらかき消してしまうという特性を持っていた。

 魔術の炎がアッシュを焼いても、炎はアッシュに触れた瞬間に消える。魔術自体が消えてしまう。

 その体質のおかげで、対魔術師用の戦闘訓練を受け、何人もの魔術師を手に掛けた。傭兵として働いていた頃は、鋼のアッシュとか魔術師殺しのアッシュと呼ばれていた。


「あんた、大丈夫なの?」


「お前に心配されるほど落ちぶれてはいない。」


 その表情は涼しげだが、こころなしか息が上がり脂汗が浮いている。スカイはリウイの精霊の魔力とユエインの魔族としての魔力を普段借りている。ユエインが獅子を抑え、リウイがそばにいない今、スカイが使えるのは己の魔力のみ。スカイの魔力量は、通常の人間とさほどかわらない。


 敵を分解して消失させる魔術は高度な魔術だ。そう何度も打てるとは思えない。


(その前にも獅子とやり合ってるんだったら・・・打ち止めか?)


 アッシュは剣を鞘に仕舞って、スカイの元へ走る。そして、スカイを肩に担ぎ上げるとそのまま加速して、スカイに向かい鎌を振り上げるバグを突き飛ばしてバグに囲まれたその場を脱出する。


「おい、意識飛ばすなよ、スカイ!魔術消えちまうだろ。」


 まだ中空に漂う黒い球に気付かずに、こちらに一直線に向かってきたバグが何体か消し飛ぶがーーそれでもその向こうから次々とバグがやってくる。

 道を拓くように黒い球が飛んでいったところを見ると、スカイの意識はまだ保たれているらしい。

 スカイを担いだままユエインの方に走る。

 その視界のはしに、一直線にこちらに飛んでくる「精霊の化身」の姿をみとめて、アッシュは唇の端をゆがめた。


「おせえぞ!猫娘!そのままユエのとこにいな!」


 大きくこちらに手を振るリウイをみとめてーー戦力的には、一番劣る猫娘のはずなのにーーこの死ぬかもしれない苦境から脱せるかもしれない、と思っていた。



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