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リウイは神殿にいた。大きな翼をたたえた女神の像が、中心にぽつんと立っている。
(なんかーー変ナノ。)
神殿には、その像しかない。真っ白な床に、真っ白な壁に、真っ白な柱。その中心にある女神の像。
(今までスカイと行った神殿とぜんぜんチガウ。)
リウイがスカイとの旅の途中で立ち寄った神殿や廃墟には、こことは違って人が生活した跡があった。祈りを捧げるための泉があったり、拝謁するための、説話を聞くためのイスがあった。
ここには何もない。女神の像以外何もない。
(ナンカ・・・ここに元からコレがあって、後から屋根をつけたみたいだ。)
「・・・オジャマシマス。」
女神の像と目があったような気がして、リウイはボソリと呟いた。それが神様なら、どんな神様だって、敬わなければいけない。
『ネガイ、ヲ』
「しゃべった!?」
機械的な声が頭に叩き込まれて、リウイは目を白黒させた。女神の像の翼が大きくはためく。
『ネガイ、ヲ、ササゲヨ』
「アンタ、なに!?」
全身の毛が逆立つ。スカイに直接ーー従者として、精霊の力を貸す時、スカイとリウイはココロが繋がるのだがーー繋がった時でさえ、ここまで明瞭な言葉を叩き込まれたことはなかった。
『ネガイ、ヲ』
それは壊れた機械のように、同じ言葉を繰り返す。願いを捧げよ。願いを叶えるでもなく、祈りを捧げるでもなく、願いを捧げよと。
「あんたはナニ?ネガイを言ったら、ナニがどうなるの?」
『ワタシハ、願望機。代償ヲモトニネガイヲ具現化スル』
その女神の像は、笑っているように見えたし泣いているようにも見えた。
『ワタシハ、願望機』
「それにさわるな!」
突き刺すような鋭い声がリウイに投げつけられて、リウイはそちらに振り返る。女神の像はもう動かない。
リウイはダガーを抜いて飛びかかる。
「誰にこの場所を聞いた?魔術師はどこだ」
リウイに一足飛びに飛びかかられて、アンダンは古い銃をリウイに突きつけながら言った。その胸にはすでにリウイのダガーが突きつけられている。
お互いの息遣いを感じるほど近くで二人はにらみ合った。
「スカイの居場所ならボクが知りたいくらいダヨ。」
「何故、儂の邪魔をする!」
アンダンはいっそう強くリウイの胸に銃を押しつけた。怒りでふるえる指先が、引き金にかかる。
「スカイを殺されたくないカラ!ボクの大切なヒトを、奪われたくないカラ・・・この森ごと、消してヤル!」
引き金を引かれる瞬間に、ダガーをいっそう強くアンダンの胸に押しつければ、彼の命は終わるだろうと思う。
(ボクの命と代償に・・・ネ。)
結局、願望機を使おうと使うまいと、願いというものは何かを代償にしなければ叶わないのかもしれない・・・そんなことを思いながら、頭を冷やしていくリウイと裏腹に、アンダンの怒りは止まらない。
「おまえたちだって、私の願いをじゃまするじゃないか・・・!そんなことをされると、私の願いが終わってしまう。自分の願いを叶えるために、私は他人の願いなんて踏みつぶしてやる!」
「そんなの誰も幸せにならナイ、ライラだってここをなくして欲しいっていったんダ!」
ガォン!
突然背中に寒いものが走り、リウイは反射的に飛び退いた。その服をかすめて銃弾が飛んでいく。リウイの背を引っ張ったのは風の精霊だった。
「ライラだけはそんなコトを言うはずがない!」
アンダンの激高に呼応するかのように、村から炎の柱があがった。
二人は咄嗟に振り返り、しばし呆然とする。
あの炎はなんだ?爆弾?魔術?バグ?色々な考えが頭を駆け巡りーー少なくとも、ここで刺し違えるべきではないという結論にお互いが達した。
「・・・・・・村に戻ろウ、ボクはアンタがキライだけど、ライラが心配ダヨ!」
それは、灼熱の炎のはずなのに、アンダンの怒りを静めるには十分な衝撃だったようだ。
アンダンは銃を仕舞い、きびすを返す。
「抜け道はこっちだ」
リウイとアンダンは、神殿に背を向けて駆けだした。それぞれ大切なモノを守るために。




