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16 村だけの神様

 村から、聖域に向かうための抜け道は、ずいぶん前に「願って」おいた。何回目の願いかは覚えていないが、それが一番最初の願いではなかったことは確かだ。

 聖域は人里離れた場所にある。今よりまだ近かった、前の村からでさえ、数日かけて向かった記憶がある。


 そのときは、何を犠牲にしてでも叶えたい願いがあった。

 だから死にものぐるいで聖域に向かった、若い頃の自分。


 ――いつしか、その願いを維持する為だけに、何度も願い続けている自分がいた。何もかもを犠牲にしても。世界が壊れてしまっても。



 アンダンは、倉庫の前にとまっていたカラスを追い払って扉に手をかけた。

 村の端にある何の変哲もない倉庫は、床の一部がはずれるようになっていた。アンダン以外は誰も知らない隠し通路がそこにある。重い床をはずし、明かり代わりの蝋燭を持って階段を降りていく。

 頼りないろうそくの明かりが振れる。思わず壁に手を当てて、一つ舌打ちをした。

 隠し通路の床には継ぎ目がなかった。当たり前だ。人間が作ったものではないからだ。聖域に存在する自分たちの神が、人間の為に――アンダンのために、願いによって生み出した通路だから、継ぎ目なんか存在しない。


 真っ白な床と壁と天井。

 隠し通路はただまっすぐに聖域に続いていた。

 靴底が床に触れるたびカツカツという反響音だけが響く。化け物――バグが出る上に、人の手が入っていない森を抜けるより遙かに効率的で安全だ。この通路を作り出してから、願う回数は増えた。

 それでも聖域まではそこそこに距離がある。地下通路で30分ほど歩き、ウイルナの森の中心部、ウイルナの神殿に、これでたどり着ける。


 そう、神殿に願うのだ。この「願い」を壊すために現れた魔術師を消してもらわなくてはならない。

 命を与えることが出来る神殿なら、奪うことだって簡単だろう。

 何もかも願いが叶うこの神殿が、人の手に渡ってはいけない。……アンダンの願いを叶え続けるために。



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