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13 思い出と現実


「知ってるか?魔力の測定器を壊した奴がいるんだって」


「あの女だろ?俺見たぜ、目の前でボンって爆発したの」


「でもあの子、制御が下手くそよね」


入学早々、最初にクラス分けのために魔力を測定した時に、ユエはそれを壊した。魔力測定不能ーーということで特別クラスに入った。


 しかし、通常の魔術師でも、いや落第寸前の魔術師見習いでもできるような、魔力の制御が苦手だった。いや全くできなかった。


 風を起こす魔術では突風を起こした。ブロックを壊す魔術では、その向こうにあった物置小屋ごと消し飛ばした。


 訓練に参加する度にけが人も出た。自然と孤立した。そんな中でスカイだけがユエを怖がらなかった。スカイ自身が強力な魔術師であったせいもあるだろう。


 ユエの魔術が暴発しそうになっても、スカイはちゃんと防御できる。


「そうですよ、いきなり話しかけて、何言うのかと思ったら。お前人間じゃないだろうって、私いじめかと思いましたよ。」


「実際そうだったろ」


「いじめがですか?」


 ユエがくすくすと笑う。スカイは・・・何も話さなかった。


「冗談です。そうですね、私は確かに、純粋な人間ではありませんでした。・・・純粋な魔族でもありませんでしたけど。」


 魔族、とはこの世界にひっそりと生息する、闇に生きる種族だった。実体を持たずに生きることができ、そして好きな姿に自分の外見を変えることができた。


 限りなく闇と魔に近く、魔力が人間の数百倍あるという、人間に恐れられていた種族だ。


 今は、大陸の北端に暮らしているらしい。


 その魔力は強大で、もし一人の純粋な魔族と戦うとなると、人間の魔術師が10人以上必要だと言われていた。それも完璧に戦闘訓練を受けた、ちゃんとした魔術師を。


 その昔一度人間は魔族を滅ぼそうとしたことがある。けれどあまりの強大な力に、それはかなわなかった。

国を挙げて魔族の村に軍隊を派遣しても、魔族数人にあしらわれたという。

 魔族は、人間などいつでも滅ぼせるので、それ自体興味がないように見えた。


 人間がどれだけ増えようと、大陸は簡単に魔族に乗っ取られてしまうのだ。


 やがて人間は、魔族と協力する道を選んだ。魔族と契約を交わし、その魔族の持つ人間の何十倍もの魔力を借りる。


 それ相応の対価も出す。それは人や魔族によってさまざまで、金や宝石をほしがる魔族も居たし、ただ安住の場所をもとめ、そこから外出しないことを約束して人里の近くに居を構えた魔族も居た。


 ユエインの祖父は魔術師だった。


 ある魔術師が現れるまでは、大陸で最高の魔術師と呼ばれ続けていた。


 ある、ルイスという魔術師の台頭で、ユエインの祖父は二番目の魔術師になった。


 祖父にはそれが耐えられなかったのだと思う。魔族と契約を交わした。魔族と契約して魔力を借りる、という方法を編み出したのはユエインの祖父だったのだ。


 祖父に契約をもちかけられた魔族は、魔力を貸す対価に、祖父の娘を求めた。ルーナという名前のその娘は、村一番の器量よしだった。


 ルーナは、父のために魔族の小間使いになることも、生け贄になることも厭わなかった。頭から食べられてもいいと思っていたの、と幼いユエインに語った。


 けれど魔族はそんなルーナを妻に娶り、魔族と人間の混血によって生まれたのが、ユエインだった。


 半魔族は、魔族ほどの魔力も持たず、人ほどの強靱な体も持たない存在だった。ユエイン自身他に半魔族の人間を見たことがない。


「私、人間じゃないって言い当てられたの初めてでしたよ」


「俺も半魔族に会ったのは初めてだった。・・・でも、もし契約を交わして魔力を借りることができるなら半魔族にすることを昔から決めていたんだ。」


「どうして?」


 ユエは素直に訊いた。半魔族は、魔族の血が半分しか流れていない。自然と、魔力も魔族には劣る。それでも人間よりは強大ではあったが。


「魔族は魔力を使って生きてるだろ。人間で言う生命力だ。・・・あのとき俺はお前に訊いた。」


「覚えてますよ。もし、半魔族のお前が力を使い果たしたらどうなる?って。」


「お前は、魔力が回復するまで一時的にただの人間のようになる、と言った。」


 ユエ自身試したことはないのだが、きっとそうだと思う。この肉体は生身だから、魔族の力に依存している魔力が一時的に枯渇すれば、残るのは母からもらったこの体だけだ。


「純粋な魔族の力をもし使い果たしちまったら、そいつ消えちまうだろ。お前は消えない。遠慮なく使える。その方が都合がいい。」


 ユエには黒猫の向こうに、スカイの微笑が見える気がした。


「・・・と。そろそろ見回りがくるな。話してられないだろう。ウイルナビレッジに頼む。」


「・・・見回りって、スカイ、どこかに捕まって・・・?」


 ユエの返事を待たずに、黒猫の姿はかききえた。


 その時ユエはアッシュを起こして、朝を待たずに出発することを決めた。



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