第二話
「君は今日から、魔法少女になったんだよ。」
「・・・」
私はその言葉の意味をよく吟味し、考え、そして一つの結論にたどり着いた。
ばっとスマホを奪い返し、鞄と財布を掴んで席を立つ。
「おっと、逃げないでよ。・・・まあ、逃げられないけどさ」
そいつが言う言葉には耳を貸さないようにして・・・ようにして、愕然とした。
いつの間にか店内には人っ子一人いなかった。
客席どころか、レジの向こう側にも誰も見受けられない。
それどころか周囲に人の気配はなく、ガラス張りの店内から見える外にすら、この通勤通学時間帯であるにかかわらず、誰もいなかった。
「どういう・・・こと、なの」
「逃げられちゃあ困るからね。とりあえず、座って話を聞いてよ。
高橋 椿ちゃん。」
くるりと振り返り、その男をねめつける。
「なんなの。貴方、何がしたいの?一体誰なの?」
「僕は、そうだね。君たちが言うところの、いわゆる・・・
―――彼はそう言って立ち上がり、今まで一体どこに隠れていたのか、その身体とは不釣り合いなほど大きい・・・純白の、翼を広げ―――
・・・天使って、やつだよ。」
―――頭上に光輪を輝かせながら、にっこりとほほ笑んだ。
「・・・―――は、有りえない・・・」
口ではそう言うものの、身体は本能的に理解していた。
これは私たちでは理解しえない、本物の、逆らってはいけない、逆らえないような何かなのだと・・・
「ああ、僕も有りえないと思ってるよ。まさかこんな役職に左遷されるとは。
でもまあ、都合がいい。」
彼はどこから出したのか、その見た目にはどう見ても不似合としかいいようがない名刺を取り出すと、私に向かってそれを差し出した。
「天界下界管理科人間社会サポート部調節班特別部門魔法少女係
シテウス・ソヴァンだ。よろしく。」
長い役職名をつらつら言われて訳が分からなかったけど、それでも最後の言葉はしっかり耳に残った。
「よろしくって・・・一体何が?大体、魔法少女って・・・」
「僕が君をサポートするんだ。魔法少女カミリア」
「かみりあ?一体なんなの?そんなこといきなり言われても意味が分からない!」
そもそも、どうして私なんかが?
大体魔法少女ってなんなの?
天使?私、おかしくなっちゃったの?
何が何だか分からなくなってきて、思わず逃げ出そうとドアに向かって走った。
けれど、その自動ドアが開くことはなく、私はドアのガラスに肩をぶつけただけに終わった。
「逃げられないよ?同じ様相でもここは別の空間。出口なんてどこにもない。」
背後からかつんと、踵の鳴る音が響き・・・シテウスと名乗ったその男が、私の横に手をついた。
「・・・そんなに信じられないなら、一度、変身してみればいいよ」