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備前宰相の猫・二巻  作者: 山田忍
9/30

猫と客人

 八郎の言っている客人は、

「如月ぃぃぃぃぃ‼ 縁談はやめたから戻って来てぇぇぇぇぇ‼」

 色白で背が高いメガネを掛けたイケメンのオネエであり、堺政所でもあり、如月の父でもあり、弥九郎さんの兄でもある如清さんが備前までやって来たのだった。

「お願い! アタシにとって大切なのは如月よ‼」

 如清さんの着ている着物は少し汚れていて明らかに慌てて来た事を表している。

「じゃあ、何で結婚なんだよ」

「それは……如月もお年頃だからよ。如月も結婚して、アタシも孫が見たいもの」

「ボクが産めねぇカラダだって知っててか?」

「⁉ で、でも、如月が結婚——」

「うるせぇ‼」

 如月が如清さんの顔を殴ると、

「きゃあ!」

 如清さんの被っている南蛮帽子が飛んでいった。

「き……如月……」

 帽子が無くなると、

「⁉ お主‼」

 今度は、さとりが如清さんの胸ぐらをつかんだ。

魚屋(とどや)‼ 魚屋だな‼」

「と、魚屋って……違うわよ‼ 魚屋はあいつの事よ‼」

「あいつ?」

 魚屋って、どこかで……あっ、八郎が言ってたヤツか。

「魚屋‼ 許さんぞ‼」

 さとりは短刀を出し、如清さんに突き付けるが、

「だから違うわよ‼ あいつの事よ‼」

「うるさい‼」

 キレているさとりを見て、八郎は如清さんから、さとりの腕を放し、

「さとり、如清殿は魚屋ではない。魚屋は違う男だ」

「だが、この顔は‼」

「さとり、違うと言っているのだ!」

「わ、わかりました……」

 さとりも落ち着きを取り戻した所でオレは聞いてみる事にした。

「八郎、魚屋って誰や?」

「魚屋か? 猫丸。お主も、もう会っただろう。如清殿によく似ていて、備前に来ていた者だ」

「如清さんそっくりで、備前に来ていて、オレも知っている人間…………⁉」

 まさか……。

「弥九郎さん?」

「そうだ。小西殿の事だ」

 魚屋って弥九郎さんの事なんや……。じゃあ、八郎に渋柿の場所を教えたのも、焙烙火矢で死にかけたのも、全部……。

「弥九郎さんだったんだ」

「今思えば、悪い事をしたな」

 八郎は遠くを見ているが、

「今思えば、じゃないと思うけど……」

「若様‼ 魚屋なら、息の根を止めても構いません‼」

「さとり落ち着くのだ。小西殿を殺しても仕方がない」

「魚屋め‼」

 さとりは激怒したが、オレ達では止めようにも止められない。

「弥九郎さんと何があったんだよ。何があったのか分からないと、オレ達じゃ何も出来ないぞ」

「あいつ……忍之者より、そ、そ、側室になれと……‼」

「まあ‼ 素敵‼ 側室だなんて‼ ボクは性奴隷なのに! それでいいんだけど‼」

 如月からハートが大量に出ているが、さとりは大声で、

「淫乱女は黙れ‼」

「え~~。弥九郎様と3——」

「黙れと言っている‼」

「ふう」

「如月、さとりの話で忘れているが、如清殿はどうするのだ?」

「そうよ‼ 如月、帰りましょ! ね!」

「……ふざけるな」

 如月の声のトーンは低くなった。

「結婚は、また今度にするから‼」

「てめぇ——」

 如月が如清さんに掴みかかろうとするが、八郎が間に入り、

「喧嘩はやめるのだ。親子で喧嘩をしても解決はしない」

「ボクは結婚な——」

「もういいわ! 結婚しなくてもいいから‼ とにかく帰って来て‼ お願い‼」

「本当か⁉」

 如月の声に高さが戻ってきた。

「本当よ‼」

「ついでだ。慰謝料に金五十枚寄こせ」

「ご、五十⁉ ——ま、まあ、如月が大人しく帰って来るのなら……」

「じゃ、今回は帰ってやるか。その代わり、また結婚なんて話を持ち出したら——」

「分かっているわよ! 言わないから、ね!」

 取りあえず、如月は上機嫌になったが、オレは如清さんにこっそり聞いてみる事にした。

「如清さん。まず、如月にいくら使ったんですか?」

「……聞かないで」

「あと、如月が産めねぇカラダってのは……」

「如月はこれまで、何百人もの男に抱かれているんだけど……。一回も妊娠した事が無いのよ」

「そうなの⁉」

「そう。これまで、側室の話は腐るほどあったの。でも、やっぱり、如月は正室になってもらいたいから、側室の話は断ってきたの」

「もしかして、今回は正室で、って話ですか?」

「そう。如月を正室として、もらい受けたいって殿方がいたから、縁談を進めていたんだけど、如月にバレちゃって……今に至るのよ」

「ああ、せっかくのチャンスって事ですね」

 オレが如清さんから事情を聞き終わると、エリンギが肩の上に乗ってきて、

「縁談をしなくて正解だな」

「そうなん?」

「ああ」

「まあ、オレの時代では結婚が人生の全てではないしな」

「そういうものではないが」

「まあ、エロいし。あれは絶対、ダンナになったら大変だぞ」

「……」

「エリンギ? どうした?」

「何でもない。バカ猫」

 オレが八郎を見ると、何やら八郎とさとりが会話をしていた。が、会話が終わると、オレの元にやって来て、

「猫丸、大坂に戻るぞ」

「そうか」

「さとりを連れてだ」

「えっ⁉ そうなん?」

「さとりたっての希望だ。小西殿に文句を言うようだ」

「弥九郎さんにか。如月の事だろうな」

「それ以外もあるようだが、如月の事は言うらしい」

「……」

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